17-野営-
身体をいじくられたり、実際に剣を使った攻撃を見せたりしてついに親方が結論を出した。
「ただのガキンチョじゃねぇ事はわかっとったが、低く見積もりすぎてたみてぇだな。お前さんには、黒鉱鋼の円月輪を勧めておく」
聞くに、黒鉱鋼というのは魔力による硬度の変化が著しい素材なのだという。
魔力を纏わせずに使うとただの鉄と同じかそれ以下らしいが、私の戦闘スタイル的に、そんな事がある時点で負けが濃厚だ。
ならば、尖った性能の武器を作る方が結果的に生存率があがるらしい。
「それで、円月輪というのは?」
「輪状の刃が外向きについていて、指で挟むか穴に指を入れて投擲する武器だ。本来は取り扱いが非常に難しい武器だが、糸を使えば空中での操作、回収もそこまで難しくないだろう」
特徴を聞く限り、あちらの世界のチャクラムと大差はないようだな。
だが、なかなか絶妙な選択だ。
剣に慣れて妙な癖が付く前に、私に合った武器を選んでくれたのだろう。
「分かりました。ではそれを4つ下さい」
「馬鹿モンが。円月輪なんて売れねえ武器、在庫があるわけねぇだろ。特注だ」
1つ5万レン、計20万レンだという。
前のくず鉄剣と随分な差だと思ったが、これでも安い方だと言う。
「Bランクが持つには少し心もとないが、今の状況よりは大分マシだ。2日後には出来るから取りに来い......あぁ、それと」
親方は私に向けて布のようなものを投げつけた。
広げてみると、今使っているボロのローブとは似ても似つかぬ丈夫なローブだ。
しかも、私のような子供が着るサイズだ。
「ガキ用のローブが、倉庫で肥やしになってたからな。持っていけ」
______どうせ代金は要らないとか言うんだろうな。
短い時間しか共にしていないが、私は親方の性格を理解し始めていた。
「ありがとうございます。親方が私の求める物を打てないと言うまで、この店に通う事を約束しますよ」
「カカ、高ランクの冒険者が永久に通ってくれるとよ!」
そう言って、親方は上機嫌に笑った。
△▼△▼△▼△▼△
「アヤメ、今から野営をする。それにあたって寝床の作成に取り掛かるから、邪魔者は全部斬れ」
「了解っす!今日のご飯も捕まえておくっすからね!」
私たちは、イッツォ荒野に向けて馬を走らせていた。
冒険者になって初めての、日帰りでない依頼だ。
つまり、私のベッドと離れ離れになるということだ。
イッツォ荒野までの距離を聞いた時、やはり依頼を受けなかったことにしようかと考えたが、高ランクの依頼の多くは日帰りができないことを考えると、今のうちに経験しておくのも手だと思ったのだ。
なにせ、日帰りではないとは言っても一泊か二泊だ。
地竜を見つけ、倒すのに手間取らなければ一泊でもギリギリ帰って来れる距離だそうで、当然それを目指している。
「この頃、糸の訓練が少し疎かになっていたからな。感覚を取り戻すついでにアヤメの寝床を先に作ってやるか」
基礎となる部分は、そこらから生えている岩として糸を張り詰める。
糸の密度をあげすぎると、肌が荒れるレベルの固さになってしまう。
戦闘用にも使うような糸なのだから、取扱いに注意しないと文字通り怪我しかねない。
土台となる部分の糸は、丈夫でよく伸びる柔軟な糸を使う。
その上から、接着剤代わりの細い糸を全体にばら撒く。
そして目に見えないほど細い糸を隙間なく張り、最後に火属性耐性のある糸で各所を補強すれば完成だ。
「ハンモック、だな。張り付いている先の部分を処理するだけでいいから片付けも楽だし、作れそうなら野営先では毎回これでいいかもしれん」
自分の成果に満足しながら、次は自分の寝床を作っていく。
先ほどより気持ち多く極細の糸を散りばめ、柔らかさを確保して作っていく。
「戻ったっす〜……おお!今日はアヤメも外で寝ていいっすか?」
「場所ならいくらでもあるからな。閉じ込めておく意味もないだろ。それに、敵の気配に敏感な奴がいなきゃ私がぐっすり眠れないだろう」
アヤメは久々に魔石の外で眠れることを喜び、両腕を振り上げる。
______ビシャ。
彼女が右手に持っていた、鹿のような生き物の首が降ってきた。
「……どんな力で振り上げたら首が吹っ飛ぶんだ。まあいい、掃除も兼ねて夕飯にしよう」
「やったっす〜!」
「おい、だから死体を振り回すな!」
夜が更けていく。
△▼△▼△▼△▼△
______4点だ。
私の作った寝床、『ハンモックVer.1』は失敗に終わった。
柔らかいが、糸の感触は消えていないので素肌が触れる部分に凸凹の痕が出来た。
それに、最後の段階で敷き詰めた細い糸の敷き詰め具合が完璧ではなかったらしく、粘着質な糸の感触や起き上がった時の不快感が大きな課題となった。
「さ、アヤメの本領発揮っす!」
そんな繊細な身体をしていない者には、充分な寝床だったようだが。
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