別れ
暗い展開が続いてますが、この話で鬱展開は終わります。
試験休み2日目…。今日は私の誕生日をお祝いしてくれる為に菜々、花音ちゃん、萌ちゃんが集まってくれている。うん、集まってくれているんだけど集まっている趣旨がちょっと違う気がする。
ここはシュアリリス学園です。こちら現場の篠崎 麻里香です。只今現場は女生徒達の熱気で熱くなっております。ああっ教室のドアが開きました。おおっ彼がかの有名なエクソシストでしょうか?
「写真っ!やだ興奮して手が震えるぅぅ!」
「レナード様ぁ!」
「今日も素敵ぃ!」
……女の子達が廊下からカメラやスマホを片手に悲鳴をあげている。そう、今日はレナード=モッテガタードは『エクソシスト』としてシュアリリス学園に来ている。
試験休みに入り、正式にお祓いをしようということになったので急遽、海斗先輩が神父の制服を準備し、レナードは『お祓い』の様子を映像等で確認し、私は小瓶に水を入れ偽聖水を作り…レナードはエクソシストもどきを演じることになった。
うちのレナード君は黒の神父服も着こなしていますねー!
「何か念仏でも唱えてりゃいけるでしょう?」
「念仏…。」
海斗先輩がじっとりした目で私を見ているが、レナードはエクソシストのお祓いの様子の映像を見て勉強に余念がない。一緒に悪魔祓いの映像を見ているザックが
「この祈りの言葉ですが、外国語なのですよね?」
とレナードに聞いている。あんなホラーな映画をよく直視出来るよね…ぎゃあ…首が回ってるっ。
「うん…音だけ聞いていると『女神コーデリナへの祈り』にも似てるね。」
「ああ似てますね~あ、じゃあどうせならコーデリナ神の祝詞唱えてみては?」
「それいいな、今からこの外国語は覚えられそうにないし…コーデリナ神の祝詞なら俺、祭事で毎年やってるから暗記してる。」
とか話を纏めちゃったけど大丈夫なんだろうか…。
■ 〇 □ 〇 ■ 〇 □
レナードは小瓶を取り出すと『聖水』を用具入れに振り撒いた。聖水を撒くと同時に光魔法を飛ばしている!水が微かにキラキラ光ってる…演出が細かいっ。
輝いた水を見た菜々が叫んだ。萌ちゃんが写真を撮っている。
「うそっ!あの水、輝いてない?!」
「マジ聖水?!」
嘘です…ただの水道水です。レナードはエクソシストの備品の一つ、聖書を手に持ち十字架を掲げ挙げた。昨日映画を観て勉強したから見た目も動作もばっちりだ。
『彼方より望む豊穣の詩、コーデリナ神より賜りこの地上…。』
レナードがモッテガタード語で静かに謳い出した。良いお声が教室に響く…。豊穣祭りで謳われる女神への祈り…。美しさを讃え、安寧を祈り、地上の平穏を希う。
まあ悪霊は祓えないけど、幸せ祈願の詩だから問題ないよね。
それにレナードの神懸かり級の美貌も相まって、祝詞が心に染入ること…勿論菜々達もうっとりと聞き惚れている。萌ちゃんなんて泣いてるよ…。ありゃしっかり録音までしている?
「ねえ、あの言葉、レナードさんってどこの国ご出身なの?」
隣の花音ちゃんが首を捻っている。しまった!花音ちゃんは複数言語を操れる女だった。
「レナードはヨーロッパの少数民族の更に僻地の出身なんですよ。正直母国語では何を話しているか、俺も分からない。」
海斗先輩が私の横から助け船を出してくれた。流石…!冷や汗掻いたよ。
レナードは謡い終わった…もとい悪霊祓いを終えた。
その後場所を移動し、花音ちゃんちの結婚式場のガーデンに移動して、コスプレ撮影会(!)と私の誕生日会を終えて家に帰宅した。
勿論、誕生日会のお料理は花音ちゃんに断りを入れて残ったおかずを保存容器に入れて持って帰ってきた。
「麻里ねえ、おかえり~。明日は麻里ねえのお誕生日会だよね!」
帰って来た私を迎えてワクワクしている彩香が聞いて来るが、そんなに大袈裟な会にするつもりはなくて…。
「カイちゃんが焼き肉パーリーだって、あっちのお家にバーベキューの大きなコンロ置いてるよ?」
「な…何だって?!」
あっち…とは栃澤新築の方だ。
「こーーーんな大きなお肉焼く網が乗ってたよ。」
居間から走って出てきた夏鈴が腕を広げている。そんな大きなBBQ用のあのアメリカンな骨付き肉焼くようなコンロのかい?そんなのあの家にあったか?
私は隣の家に駆け込んだ。彩香と夏鈴もキャッキャ笑いながら付いてきた。めちゃめちゃ大型のアメリカーンなコンロは庭のパラソルの下に鎮座していた。パラソルもいつの間に買ったの?
「お兄ちゃんが通販で買ったとか言ってたよ。」
「何これ?!グリルの上に蓋付いてる?!こんな高そうなの買ってぇ~!焼くのは誰だっ!洗うのは誰だっ!片付けるのはこのわ・た・し!」
全世界の主婦の気落ちを代弁してみました。夏鈴に力説していたら、玄関から誰かが駈け込んで来た。由佳ママだ。
「亮暢さんが…意識ないって…。」
「…っ!」
ついに来たかという思いと、本当に急にくるんだな…、という思いがいっぱいだった。自分でも驚くほど冷静で、庭に出て来たザックに説明をして家に戻った。夏鈴と彩香はどうしようか…と思ったが、由佳ママが
「翔真と悠真が外に出ているから、私は家に残ってるわ。」
と言った。よし、分かった。私は夏鈴の手を取った。
「亮暢パパに会いに行こう。」
夏鈴も何かあったと気が付いたみたいだ。子供達には、じいちゃまや真史お父さんが、亮暢の病気の説明を何度も言い聞かせていたので、ぼんやりとは理解していると思う。
身支度を整えて、夏鈴と一緒に外へ出ると海斗先輩が玄関で待っていてくれた。
「真史さんには俺が付き添うと連絡した。由佳さんは後でうちの車を寄越すから病院まで送るように手配した。」
「ありがとうございます。」
顔が強張ってしまう。こういう時ってどういう顔をするのがいいのか…。頭で考えながら海斗先輩と夏鈴と3人でタクシーで病院に向かった。
亮暢の病室は意外にも静かだった。看護師さんが亮暢の心拍数の機械を部屋の端へ動かしている。ばあちゃまが疲れたような、困ったような顔を私に向けた。
「ああ、麻里ちゃん。わざわざありがとうね…。さっき逝ったよ。亮暢とお別れしてあげてね。」
そうか、間に合わなかったのか。
ばあちゃまは落ち着いている。じいちゃまは病室の端で椅子に座っているが、ちょっとぼんやりしている。私達が来たことも気が付いていないみたいだ。
「心臓も弱ってたしね…。」
亮暢の顔色は悪い…。勿論亡くなっているからだろうけど…。亮暢の体の魔質を視た。あんなに黒かった魔質も魔核も全部、体の中から消えていた。
死んじゃったんだ…。急に実感が湧いてきた。ソッと手を触ってみた。冷たい。そうか…体に血液が流れないから体温下がるんだ。
「パパァ…。」
びっくりした…そうだった。夏鈴と一緒に来ているんだった。
「パパ…。」
夏鈴がもう一度亮暢を呼んでいる。夏鈴にとって亮暢は憎しみの対象ではなく、理由は分からないけれど離れて暮らすことになった父親…という認識だった。最近は入院していることもあり、パパは病気だから一緒に住めないんだね。と聞かれたりしていた。
夏鈴にとって父親が、苦々しい存在としての思い出だけを残して逝ってしまわなくて良かった…と素直に思う。私はいいんだ、思い出されなくても、嫌われていても…そういうものだと消化出来る精神年齢だから。
でも…でもね?やっぱり最後くらいは思い出して欲しかった…。
「麻里香…。」
海斗先輩が私の肩を抱いてくれた。亮暢…パパの顔から目が離せなかった…。自然に涙が零れていた。私が泣き出したので夏鈴も泣き出してしまった…。お姉ちゃんだし、しっかりしなきゃ…と思うけど涙が止まらなかった。
その後真史お父さんが来るまで、ばあちゃまと海斗先輩がずっと頭を撫でたり、肩を摩ってくれていた。
亮暢パパのお通夜とお葬式は家族葬にした。私は由佳ママのお手伝いをして忙しくしていた。忙しくしていても…夜、疲れているのに眠れなかった。もし…子供の時に亮暢パパの魔質の治療を私が出来ていれば…。たらればを考えて眠れなかった。
翌日…お葬式の式場の控室で、皆に配るお茶を準備していたら真史お父さんに
「麻里香…体調が悪いなら座ってなさい。」
と言われた。そうか私、顔色悪いのかな…。
情けなかった…自分ではもう大人のつもりが、まだ子供だと言われた気がした。真史お父さんが私を椅子に促すと
「麻里香…今はお姉ちゃんもお母さんも休みなさい。子供の時から頑張ってきたもんな。今日は…亮暢の為にあいつの娘でいてあげなさい。」
私は真史お父さんに抱き付いた。声を殺して泣いた。一生分泣いた気がする。
それから6月いっぱいは亮暢パパの用事でバタバタしていたけど、7月に入ってから少し落ち着いたので皆で例の大型コンロでBBQパーリィーを開催した。今年の夏は旅行には行けなさそうだけど、子供達はこれはこれで楽しそうだった。
「俺は霊とかそういう類はいないと思っているが、この場では亮暢氏も一緒にここに居て楽しんでいて欲しいと思うな。」
海斗先輩がそう言っていたので、庭で騒いでいる子供達の方を見た。夏鈴もすっかり明るくなって、元気な声で笑っている。
「そうですね…。ここで笑っていて欲しいです。」
私はそう答えて海斗先輩に寄り添った。
篠崎家の夏はこれから本番です。
亀更新、不定期更新ですが、次話からギャグ&恋愛ちょこっとの通常運転に戻ります。麻里香と海斗&異世界メンバーは、ある程度落ち着くまで書き続けていきたいので、長期不定期連載にはなりますが、暫くお付き合い下さいませ^^
【2020.9.27追記】
連載中で長らく放置しておりましたが、諸事情により完結済に変えさせて頂くことしました。
勝手を申しますが、ご読了ありがとうございました。




