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天罰覿面ならず

 今回は十八年ぶりの新作長編(なんと文庫本四冊一組!)を記念して、小野不由美さん作の十二国記シリーズから「月の影 影の海」の塙王を取り上げてみます。


 いつもは物理とか数学とかの現実世界における法則を元にお話を進めていますが、今回は趣向を変えて、作品世界中の法則を元にしたお話にしようと思います。

 なお、NHKアニメ版は小説と食い違う描写が多々ありましたので、資料にはしないこととします。


 前提となる法則については簡単な説明だけとしてしまいますし、ネタバレも遠慮なく出てきますので、まだ読んだことのない人は先にシリーズ全巻を読み切るのがお勧めです。

 しかしシリーズを読み切って満足し、こっちが読まれない可能性が……。ま、いいか。


 それでは、斜め上に向けて出発!


【天綱】

 これ以降の文章は、随所に十二国記シリーズ各巻のネタバレを含むので、未読の方は覚悟してください。


 このシリーズにおける世界の法則について簡単に説明します。

・十二の国があります。

・各国には、麒麟が一人(一匹?)、麒麟に選ばれた王が一人存在します。

・王は世襲ではありません。

・「天綱」と呼ばれる決まりがあって、王がこれに反すると麒麟が「失道」と呼ばれる病気になります。

・失道後に王の行動が改善されない場合は、麒麟が登霞します(亡くなります)

・麒麟が登霞すると、間もなく王も崩御します(亡くなります)

・麒麟が登霞すると、新しい麒麟が現れて、通常は数年後に新しい王を選びます。

・麒麟は獣ですが、人の形をとることができます。人間と同様に言葉を交わすこともできます。

・麒麟は「妖魔」と呼ばれるかなり強い生物を配下とすることができます。配下になった妖魔は「使令」と呼ばれます。

・使令は、同種の妖魔を操ることができます。

・操られていない妖魔は、近くにいる人を襲いますが、特定の人をつけ狙う事はしません。


【黒幕塙王】

 「月の影 影の海」では、主人公の陽子さんが日本から連れてこられて、巧国の中を彷徨います。

 その後、船で海を渡って雁国へ行き、ここで自分が慶国の王に選ばれていたということを知ります。

 最後は雁国で兵を借りて慶国に戻り、王として即位します。


 この旅の途中で、いろいろ邪魔をする黒幕だったのが巧国の王である塙王です。


・慶国の内乱を援助、というか扇動する。

・日本、巧国、雁国で、使令や妖魔で陽子さんを襲撃する。

・慶国の麒麟である景麒を捕えて、慶国の反乱軍に送り付ける。


 結構好き勝手やってますね。

 しかしその割に、塙王は意外と長生きするのです。


 塙麟の失道は雁国での陽子さんへの襲撃直後らしいのですが、登霞したのは慶国内乱が収まった後ぐらいのようで(「華胥の幽夢」中の「書簡」より)、一ヶ月程のタイムラグがあります。

 塙王が崩御したのはさらにその後。

 高々一ヶ月だと長生きと言わないのでは、と思うかもしれませんが、実は前例である「遵帝の故事」(「黄昏の岸 暁の天」より)と比べると大分長生きなのです。


 遵帝は「兵をもって他国を侵してはならない」という天綱、「覿面の罪」を犯したことで崩御したのですが、この時は兵が国境を越えてから数日で、麒麟の失道すらすっ飛ばして斎麟と同時に亡くなっています。

 使令も兵に含まれるので(「黄昏の岸 暁の天」より)、陽子さんを襲撃するための雁国入国は覿面の罪に該当しそうですが、その割には……という事になるのです。


【腹黒塙王】

 長く生きた理由としては、塙王の行動が覿面の罪ではないと判断されたとするのが正しそうに思います。

 天綱は、「文言に触れたか触れないか、ただそれだけの、自動的なもの」(「黄昏の岸 暁の天」より)とのことなので、文言の裏をかけば罰を回避することが可能なのです。


 例えば、陽子さんへの日本での襲撃は、日本が「他国」ではない(十二国の範囲が国と認識されると思われる)ために対象外と考えられます。

 同様に、巧国での襲撃は塙王にとって「自国」ですので対象外です。


 問題は、雁国での襲撃です。

 妖魔が陽子さんを狙った攻撃をしているので、使令という「兵」が入国している筈です。

 また、雁国は塙王にとって「他国」です。

「兵をもって」とは「兵隊を持ち上げて」なのだ、というダジャレで逃げられるとも思えないので、「侵す」をどう回避するかが勝負になりそうです。


 作品中では「侵す」の具体例として以下が例示されています。

・兵の行動が相手国の国策に反する場合は「侵す」に該当する。

・相手国に陣営(相手国民が入れない領域)を設けた場合は「侵す」に該当する。

・使者が護衛兵を連れて入る場合は「侵す」に該当しない。

・王または麒麟の傍を離れ、使令だけで他国に入る場合は「侵す」に該当する。


 なかなかに厳しいですね。大丈夫だとされている「使者が護衛兵を連れて入る場合」を適用する方向で考えた方がよさそうです。

 慶国を訪問した延王や延麒が無事だったことから、使令を連れた王や麒麟が使者として他国を訪問するのは「侵す」に該当しないので、きっと塙王か塙麟が使者であるという体裁をとったのでしょう。


 入国まではどうにかなっても、襲撃によって覿面の罪となってしまってはいけません。

 直接攻撃は見逃してもらえなさそうなので、使令を妖魔の引率役として陽子さんまで誘導し、妖魔の制御を切り離してから襲わせたのではないでしょうか。

 なお雁国は十二国で唯一、妖魔を家畜として認めているので(「東の海神 西の滄海」より)、妖魔の誘導は雁国の国策に反しないと思われます。……実は塙王って、結構悪知恵が働くのでは?


 なにしろ塙王は、陽子さんが日本から連れてこられる前から、慶で内乱を起こしていたようなのです。

 年表風にまとめるとこんな感じ。

 ・先の景王の予王が崩御:予青六年五月

 ・慶国内乱の開始:予青六年七月

 ・陽子さんが日本から到着:予青七年一月

 ・陽子さんが雁国に到着:予青七年六月?

 ・慶国内乱の終了:予青七年七月末

 襲撃で仕留められない可能性を考慮して、即位を妨害する手を打っていたのだと思われます。こんなところも腹黒チック。


【健気な塙麟】

 雁国での襲撃に塙王と塙麟のどちらが来たのかですが、私は塙麟だったと考えます。


 陽子さんは雁国に向かう際に船に乗ったのですが、逃げ場のない海上での襲撃が有効そうなのに、実際には襲撃は有りませんでした。

 これは、陽子さんが不正規な方法で船に乗ったため、所在を見失ったのだと思われます。

 そして、雁国の港で張り込みしていた人員からの連絡で雁国到着を知り、慌てて追いかけたのでしょう。


 陽子さんが雁国に保護されてしまうと手が出せなくなります。

 速度が勝負なので、十二国世界で最速である麒麟の単独行動で追撃を仕掛けるのが最善です。使令は麒麟が一緒に連れていけるので、戦力にも不足は有りません。

 陽子さんが雁国に到着してから襲撃までの期間を考えても、雁国での襲撃現場には塙麟が居た可能性が高いのです。


 雁国での襲撃直後に失道の報が出ているので、塙麟が失道したのは雁国でということになります。

 失道した麒麟は自力で動ける状態ではないので(「華胥の幽夢」中の「華胥」より)、通常の旅に近い方法で帰国した筈。陽子さんの旅程等を参考にすると、船で四日、陸路は馬車等を使って二十日~三十日程度をかけて運ばれたのではないでしょうか。

 移動時間を考えると、王宮に戻った直後に登霞したのかも。主上に会うまで頑張って、一目会ったところで気力が尽きたのかもしれませんね。健気な娘です。塙王が何かしら報いてあげられていると良いのですけど。



 小説中では散々愚かな王だと扱き下ろされていた塙王ですが、動機はともかく、その行動には随所に有能さが見受けられます。

 もしかしたら、なまじ有能であるがために先が見えてしまい、将来に絶望して自爆に近い道に踏み込んでしまったのかもしれないですね。合掌。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーーん……。 これは「月の影 影の海」を読んでくれとのステマなのだろうか?
2019/11/27 15:52 退会済み
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