082 ベッド争奪戦
融たち三人は、レストランの食事が学校の食事に似ている感じがしていた。
メニューや味ではなくて、配膳するロボットが同じなのだ。
飾り気のない学食と、高級ホテルのレストランを似ていると感じてしまうのは、不思議な感覚だった。
融たちがそういう話をしていたら、福山ちづるはよくわからないと言った。
「私も帝国の超能力者ですけど、学校に通っていないのでよくわかりません」
彼女は来年度から中等科になる。
これまでは研究者として各地を転々とする父と一緒に引越しを繰り返していた。父と娘の二人暮らしらしい。母親について彼女は晶たちに話さなかった。
「福山博士は非能力者なのでしょう?
なら、あなたは超能力者として学校に通う義務があるのではなくて?」
「詳しくは私にもわかりませんが、帝国にとって重要な研究をしている父は権力者に顔が利くらしく、特別に許可を取ったらしいのです。
それに、私は幼い頃から超能力が安定していて、暴走する危険性が低かったというのもあると思います」
美涼の質問にちづるは淡々と答える。
「来年度から中等科なら、私たちの一つ後輩ということになるのね」
晶がそう言うと、福山ちづるは少し考える様な顔になった。
「……。大変申し訳ありませんでした。すみません先輩とは知らず、数々のご無礼を……」
晶の言葉は、年下のくせに生意気だぞ!と変換されてしまったらしい。
「そうじゃないのよ!謝らなくていいわ。
ただ、中等科から実技科目が増えるから、通信教育じゃ大変になるかもって思ったの。
お父様に頼んで、学校に編入させてもらったらどうかしら?
私たちの学校に入れば、先輩としていろいろ助けてあげられるわ」
美涼は、この偽善者め、いい子ちゃんブリやがってよ。どうせ月城家としてのポイント稼ぎだろうよっていう顔をして舌打ちしている。
声をかけられた福山ちづるは、悩むようにうつむいてから顔を上げた。
「私一人では決められません。
父の研究が落ち着かないことには、どうにもならないと思います。ごめんなさい」
美涼は断られた晶を見て、ニヤニヤしていた。人の不幸を笑ういい性格している。
福山ちづるはどこか冷めた顔をしている。
いったい何を考えているのかはっきりしない表情だ。
もしかしたら、本人もよくわかっていないのではないかと感じさせる。
そのあと月城晶は露骨に話題を変えようとしたけれど、福山ちづるは三人が通う学校生活のことを聞きたがった。
デザートに生クリームのたっぷりのメロンパフェを食べ終えるまで、四人で学校でのことをいろいろと話した。
デザートの後、融が遊技場に遊びに行こうと誘うも、やることがあると断わられた。
そして、残った三人で時間を潰した後、晶は自分の部屋に戻った。
「あ!結局、男女一部屋になっているじゃないか!」
晶だけではない。
美涼たちも驚いていた。
「ベッドが二つってことだと思っていたけど、これダブルベッドだよね?
ツインとダブルって紛らわしいわ」
部屋には大きなベッドが一つだけしかなかった。
「…………」
「…………」
若い男女がベッドが一しかない部屋にいる。
気まずい沈黙が流れる。
赤く染まる頬、乱れる呼吸。
飛び交う罵声。
容赦のない攻撃。
戦いの結末。
「私がベッドで寝るから、あんたは床で寝なさいよ」
荷物の中からマイ枕を取り出し始めた美涼が命令してきた。
「イヤダ。この部屋に支払いは僕なのだから、優先権は僕にあるはずだろ」
「ならその権利、言い値で買わせていただきますわ。さあ、とっとと売りなさい」
「あ~いやだいやだ。これだから金持ちは!
金さえ払えば何でも手に入ると思っていやがる。
世の中そんなに甘くないよ。幸せはお金では買えないものなんだよ。
いい経験になったね。床で眠ってそのことを忘れない様に心に刻みこんだらいいよ」
「私にケンカ売っているの?いいわ、それも買ってあげる。
そこまで言うのなら、実力行使させてもらうわ。いつまでも私に勝てるだなんて甘いこと考えていないわよね!」
美涼が超能力で先制攻撃を仕掛けてきた。
暗黙の了解として、部屋の調度品を粉々に壊さないように威力は抑えてある。
冷気の塊が次々と放たれる。当たれば、氷の欠片を背中に入れられる悪戯以上の威力を持っている。ひゃっ!とすること間違いなし。
融は、とっさにテーブルを倒し壁にして、その影に隠れてかわした。
帝国の外に出るのだ。どんな危険なことがあるかわからない。
融は自分にとっての武器をいくつか隠し持ち、備えてあった。
その一つが腕に隠し持っていた金属製のワイヤーだ。能力で固めて、金属製の腕輪に見せかけてあった。融の超能力をよく通す。
そのワイヤーを美涼の方へふわりと放り投げた。
「甘い甘い甘い甘い!
そんなゆるい攻撃が当たるはずないでしょ!」
あっさりとかわされて、ゆるい放物線を描きながら美涼の背後にワイヤーの束が落ちた。
苦し紛れの攻撃、このまま弾幕を張り続ければ勝てる。
そのまま凍えて眠れ。
などと美涼は思っていた。
攻撃に意識を割きすぎて、背後の警戒がおろそかになっていたのだ。
腕輪状のワイヤーの束はスルスルと解けて、蛇のみたいに床を進み美涼の足元にたどり着いた。それから、出来るだけ気付かれない様にゆるく体に巻きついていく。
「あれ?」
と美涼が気が付いた時にはもう遅い。
ゆるく巻きついていたワイヤーが一気に締まった。
ぐるぐる巻きにワイヤーで拘束された美涼の出来上がりである。
足も縛られていたため、立っていられなくなって床へと倒れた。
「おーこーせー。ほーどーけー」
床に転がっている美涼を無視して、融は就寝準備をしている。
体に巻きついているワイヤーを高熱で焼き切るのはさすがに危険だ。かといって、金属を操る超能力は融の方が圧倒的に強い。
どうにもならなくなって、融に冷気の塊をぶつけてやろうとした。
しかし、床にうつ伏せの体勢では狙いが上手く定まらない。
「じゃあ、電気消すから。おやすみ~」
ついに融が眠ろうとしている。
このままではまずい。
そう考えた美涼は、素直に謝った。
「ごめんなさい。
でも、融も知っているでしょ?
私、枕が変わると安眠できないのよ。さらに拘束されて床よ。
こんなの眠れるわけないじゃない」
言葉の上では素直に謝った。
心の中では、ワイヤーの拘束が解け次第ベッドを奪ってやろうとか悪だくみしている。
見た目の上でも完璧だ。自然と目を潤ませて涙をためているように見えるだろう。
「そうだよね。さすがにそのままじゃ眠れないよね」
もう眠ろうとしていた融が布団の中から出てきた。
美涼は内心では、かかった!と思った。
「えい」
能力で美涼をワイヤーごと持ち上げる。
「とりゃ」
テーブルの上に毛布を敷く。同時に美涼の枕もセット!
「せりゃ」
その上に美涼を仰向けに寝かした。
「それじゃ、おやすみ~」
「おいおいおいおい!
さすがにこれは無いんじゃないかい、融さんよ。
一番の問題はワイヤーだよ!
これじゃ動けないじゃん!」
「床じゃないし、枕もあるからそれでいいじゃない。
どうせ解いたら、また攻撃してくるんでしょ?
もう、これ以上騒ぐようだったら、締めて大人しくさせるよ?」
締める、大人しくさせる、という言葉に凄味がある。
昔から、こんな時の融は本気なのだ。
悪意無く残酷なことを平然とやってのける。
美涼はさんざん痛い目にあってきた経験からそれがわかるのだ。
「仕方ない。さすがの融でも眠ってしまえば超能力の拘束は解けるはず。
それまで大人しく待っていてやるわ。覚悟していなさいよ」
美涼の言葉は強いけど、声はとても小さくて震えていた。




