080 電気人形に人の心があるのか
「融は、本気であの子にラブしちゃったの?」
宿泊先が同じだったため、移動のバスも晶たちと一緒になった。
その車内で窓際に座っていた美涼は隣の融に直球の質問をした。
「あの子?」
「AH‐040エミリヤ。真剣でロボに恋してしまったのかっていうことよ」
「ありえないでしょ。
だって、人工知能に過ぎないんだよ」
「その割には本気で話していたじゃないか。
私たちは君がロボットと話しているのを見て、人工知能でも本物の心を持っていると確信したのだよ」
美涼と融の後ろの席に座っていたフォレロード大佐が話しに入ってきた。
「心?ロボットに?
あるわけ無いでしょう、そんなもの」
「その割には必死で誘っていたでしょ」
晶も融の言葉に疑問を持った。
「機械の身体、プログラム。それは人間の創作物でしかない。
心があるとするならば、ロボットAH‐040エミリヤの外側にある人間に存在するはずだよ」
「つまり、ロボットに心があるのではなく、人間みたいな動作や発言をする姿を見ている人間が、そのロボットに心があると受け取っているということか?」
後ろの席で興味なさそうにしていたキルベルセンも融たちの議論に加わってきた。
「付喪神的だな。
大事に扱われてきた物の価値は、ただの古いものではなくなる。
ただの物が、唯一無二のかけがえのない物へと変わる。
変化したのは物体ではなく、それを意味付けし、受け入れた人間側だ。
ロボットという概念すらなかった昔からあったことで、技術の進歩が心を作りだしたわけではないと」
「どういうことなのですか?」
キルベルセン博士の言葉の意味がよくわからなかったフォレロード大佐が質問すると、近くに座っていたカジネナ博士が代わりに答えた。
「人工知能の内面ではなく人という形、外側に意味があるということよ。例えば、人形があるでしょう?
人の形をして、簡単な顔がある。:-)
絵本の登場人物を模した物ならは、キャラクター、個性もある。家族があり、好物があり、感情もある。
そうすると、ただ布の袋に綿をつめたものではなく、人は命があると受け取ってしまうのよ。
人形供養ってものを知っている?
ただのおもちゃではなく、魂の宿った存在として受け入れているということではないかしら?
人形なのに心が宿っている、ということになるんじゃないの。
物に限らず、動物だってそういうことあるでしょう。
ペットショップで買う時は、数多く並んでいる商品の一つでしかなかったのに、ペットとして家で世話をしていれば、かけがえのない家族に変わる。
他の商品と取り替えろと言われても、愛着がわいて納得できなくなる」
カジネナの話をキルベルセンはおもしろそうに更に展開させる。
「人の形をしているということに、周りの人間が勝手に意味を与えているということ。だからロボットにも人間の心があると誤解してしまう。
でも、それでは我々の中にも心というものが本当にあるのかという新たな疑問が生まれないか?
心が体にあるというのなら、手術で人工物と取り替えた人間には心が無い、もしくは減ってしまうのか?
減るとしたら何割までが人間の心なのか?
普通に生きているだけの人間にもいえる。
周囲の状況に流されて、実は自分というものが無いのではないか?
会話、交流を通して、隣にいる他人に心を感じているのは実は自分の錯覚で、本当は周りにいる人間には、自分と同じような心というものが無い。
ただ自分や周りの状況、役割に合わせているからそう見えているだけ。複雑な反射の繰り返しを心と誤認している可能性。
君がいう心というものの存在を証明する手段は無いのではないか?」
自分以外の他人に心が無いというキルベルセン博士の話を聞いた彼らは、お互いのことを見回した。
キルベルセン博士は、愉快そうな表情で融に答えを要求した。
「そんなことは無いでしょ。
人間に心はある。証明する必要性すら感じない。
あるものはあるのさ、信じる信じないの問題なんかじゃない」
少し変になっていた車内の空気が断言されて少し落ち着いた。
キルベルセン博士はいたずらが失敗して残念そうに笑う子供みたいな表情をしている。
「そうだよ、心と心が引かれ合う瞬間というものは確かにある。人はそれを愛と呼ぶのさ」
なぜかフォレロード大佐は、晶の方を見ながら愛について語った。美涼はそれを見てちょっと引いていた。
「でもロボットにそこまで複雑な心が必要ですかね?
高い金を使わなくても人間がすでにいるのだから、人工知能は必要ないのでは?
わざわざそっくりな模造品を作らなくとも、本物がこの地上にあふれ返っている。
代わりなんていくらでもいるのです」
そう言ったのはランツ博士だった。
会場で売っていたスナック菓子(おまけカード付き)をぼりぼりとむさぼっている。
「そんなことは無いわ。現在の戦場をごらんなさいよ、人工知能を持った人型ロボットであふれているじゃない。
量の次は質が求められるようになるのは、市場経済として当たり前のことではないかしら」
搭乗ロボットの専門家ランツの発言を否定したのは、自立型ロボット兵器の専門家カジネナだった。
「いいや、結局強いのは人間が操縦するロボットだ。
戦場には多脚戦車もあふれ返っているじゃないか。
人工知能が操作する多脚戦車よりも、人間が操縦している機体の方が生還率も高い。
人工知能なんかよりも、優れているのは人間の方さ。
科学者ならば感情的にならず客観的論理的に判断するべきだ」
カジネナとランツの議論が熱くなってきた時、火に油を注ぐ人物が参戦した。
「人間が強いという意見には賛成よ」
波川美涼が、二人の言い合いに斬り込んで行った。
「でも、強いのは強化外骨格に覆われた人間ではなく超能力者よ。開会式のデモンストレーションに出ていた金ぴかロボットでも瞬殺なんだから。
ザコよ、ザコザコ」
「言い過ぎよ、美涼」
接待のホストとして晶は過熱気味の美涼を止めようとした。
「あら、確かにあなただと無理そうね。訓練の成績だけは良い優等生のあなたじゃね」
美涼は見下した笑みを浮かべながら晶を挑発する。
「はぁ?あなた私に勝ったことないじゃない。
あなたの言う、たかが訓練であろうとも、一度だって勝ったこと無いくせに、ずいぶん偉そうね」
止めに入ったはずなのに、晶はあっさり挑発に乗ってしまった。油を被って炎の中に突入してしまった。
月城と波川は水と油、やっぱり相性が悪い。
その話に大人げなく混ざるランツとカジネナ。
真面目な議論から、小学生がマンガの登場人物で最強を決める話みたいになってキルベルセンは苦笑している。
フォレロード大佐は、元気にケンカする晶の方を見てうれしそうでどこかさびしそうな顔になった。
博覧会中に実際に戦ってみるということで、話がまとまった時にバスはホテルに到着した。
融が恋していないと否定してホッとした結梨亜が案内役の仕事に専念するのだった。




