060 同好会
学校の授業としては相変わらず、能力訓練は続いている。
けれど、初等科の頃とは違い中等科からは、放課後に超能力の自主訓練する決まりは無い。
大人になるにつれて能力が安定してくるから、成長が緩やかなものになるから、ということになっている。
普段の授業が初等科の頃よりも、超能力をそれまで以上に使うハードな物になるからという理由もあるかもしれない。能力値の低い生徒に休ませる時間を作るためだ。
放課後の時間が自由に使える様になるから、中等科からは部活動が存在する。
杏菜が服飾系の部活に入部し、進馬が時間を作っては後輩の彼女と遊びに行ったりするようになった。
融は放課後鏡子と格闘訓練をしたり、美涼も混ざって射撃訓練をするようになった。
今日、融は一人で約束していた部活動見学へと向かっている。
未来の鏡子の夫(仮)こと甘野敏が所属しているのは、正式な部活ではないらしい。
正式な部活動と認められるには部員が六人以上必要とされているのだけれど、三名しか部員がいないため、あくまでも同好会だ。
同好会の部室は、旧校舎の空き部屋を使わせてもらう決まりになっている。
甘野が指定した部屋は、旧校舎の案内図では倉庫と表示されている。
(本当にここで合っているのかな?)
安っぽいプレートにいいかげんな文字で『武器研』と書かれている。
融がノックする前に自動ドアが先に開いて、部室の中の人たちと目があった。
「……」
「……。ようこそ!」
融が黙っていると甘野が招き入れてくれた。
部室内には甘野を含めて三人、二年生の男子生徒がいた。
一人はマッチョなボウズ頭で、アサルトライフルなんて古い武器を抱えて磨いている。
もう一人は痩せ型ノッポのモヒカン頭で、キーボード入力の古いコンピューターを使っていた。
床にはロボットの部品、分解された銃やコンピューターで散らかっている。
ボウズ頭の先輩が、銃を置いて立ち上がった。
「甘野、お前が話していた入部希望の一年はこいつか?」
「そうだよ、戦車を見に行った時に知り合ったんだ」
「よろしくお願いします先輩」
融が握手しようと手を差し出す。
「お前のことは、何て呼んだらいいのだ?」
筋肉で銃の先輩が手を握り返す前にそう質問した。
「友達には融と呼ばれています」
「トール?なんか強そうな名前だな。俺のことは大澤会長と呼べ。この同好会の代表ってことになっている。
入部届けの用意をし忘れていたのだ。近いうちに準備するから、少し待っていてくれ」
大澤は融の手をがっちり握った。
「あっちでロボットのプログラムをいじっているヤツが久世だ。ロボットのソフト面に強い。
一応紹介しておくと、甘野はロボットの装甲とかハード面が得意だ」
久世と呼ばれたモヒカン頭が手を上げる。あいさつのつもりだろう。
すぐにまた画面の方に集中している。
「この学校は超能力中心に回っているから、俺たちみたいにロボットや武器が好きな連中は全然評価されない。
それでも、俺たちは好きなことをやりたいようにやる。ここは、ただそういう集まりだ」
大澤はそれだけ言うと、中断していた銃を磨く作業を再開した。
お前も好きにしろ、ということなのだろう。
甘野は、下級生の融にロボットについていろいろ説明したくて仕方がない様で、棚から資料や部品を取り出している。
「その前にちょっといいですか。甘野先輩にこの写真の女性を見てもらいたいのですが」
写真に写っている女性は、現在の雪村鏡子の画像を元に、未来の姿を知っている融が加工して作った物だ。現在よりも十五歳ほど成長して、大人の女性になっている。
「誰この美人?モデルの人?」
「どう思いますか?」
「どうって言われてもな。
……。
特に何も?」
いつのまにか、作業に集中していたはずの大澤と久世が甘野の背後に立って写真を覗き込んでいた。
「うわぁあ!」
融が驚いていると、ひょいと写真を取り上げて、今度は二人でじっと写真を見ている。
「眼鏡だし、真面目そうなやつかと思っていたが、こういうことも話せるやつなのか、トールよ」
「そうとわかれば男同士、遠慮は無用か」
大澤が棚を動かすと、棚の裏に本棚が出現した。
久世が自身の腕輪型情報端末にパスワードを入力すると、隠しフォルダーが表示された。
「その写真には足りないものがある」
「胸だ」
(なんじゃそりゃ?)
グラビア写真の雑誌が続々出てきた。エロ画像が次々に表示される。
「ちょっと待てよ二人とも、新入部員にそういう話は……」
「照れるなムッツリめ、お前がここに隠しているのも知っているんだぞ」
大澤が力ずくでロッカーをこじ開け、紙袋の中の写真集をひっぱり出した。
「そんなのよりもこっちの子の方が胸が大きい」
融が鏡子を元にして、歴史に忠実に作った将来の鏡子はそんなの扱いされてしまった。
甘野の好みらしいアイドル写真集の子の方はカワイイ系で、確かにそっちの子の方が胸は大きい。
「うおおお、返せよ、俺の麻衣ちゃん!」
「こっちの興味もあるか?先輩として秘蔵の一品を出してやろう!」
久世が若干マニアックな画像を表示する。
融も一応年頃の男の子である。
先輩たちとの心の距離は一気に縮まった。
でも、本来の目的はそうじゃなかったのだ。
(失敗した。失敗した。失敗した。
未来の鏡子を甘野先輩に見てもらって、今のうちから意識させようとしていたのに、結局わかったことは雪村鏡子が甘野敏の好みのタイプじゃないってこと。
手に入れたものは、先輩達からもらった大量の雑誌にエロデータ。
それと、……男同士の友情ってところかな?
ああ、どうしよう)
それから、融は週に一度くらいのペースで部室に遊びに行くようになった。
……こんなことで、雪村鏡子の悲劇の歴史は変えられるのだろうか?




