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059 戦車の操縦訓練で



融は朝から嫌な予感がしていた。

空は快晴。今日の戦車の操縦訓練がある場所は屋外訓練場だから、絶好の演習日和といえる。


戦車といっても、四頭引きの二輪馬車に刃を取り付けたものや、キャタピラに砲台が付いたものではない。

多脚戦車といわれるそれは、六本の足で大地を歩む装甲車だ。

六本の足とは別にマニュピレーターが付いており、さまざまな作業ができるようになっている。


敵の自由連合側の多脚戦車は、蜘蛛をモチーフに機動力優先してデザインされている。

それとは別に、こちらの帝国側はマンマルコガネという昆虫を参考にしてデザインされている。

垂直のビルの壁面でも高速移動が可能な敵の戦車よりも機動力は劣るが、防御力とパワーは圧倒的にこちら側の戦車の方が上だ。

超能力者を安全に移動させることを基礎に設計されていた。


丸みを帯びた金属の塊があった。これが防御形態の多脚戦車だ。

脚部を折りたたみ、全面を装甲で覆っている。理論上はミサイルの直撃を受けても搭乗者は安全だ。


融、美鈴、進馬、杏菜、鏡子、いつもの五人は一緒に訓練することになった。

多脚戦車は、六人乗り、四人乗り、一人乗りの三タイプがある。


(人数の都合上、班の人数は五人では無い方がいいのではないか?

他の班のクラスメイト達に僕が他の班に入るか、誰か一人この班に入るようにした方がいいのではないかと聞いてみたけど、断られた。

友だち同士で仲良く過ごすように気を使ってくれたのかな?)


勿論、番長たちの班に入って生贄になるのも、番長が自分たちの班に来る恐怖も、どちらも嫌だったからに過ぎない。



「どうせ操縦するのなら、大きくてパワーがある方を操縦したい!」

進馬は、戦車を操縦してみたくて仕方がないみたいだ。あとの女子三人はあまり興味が無いらしく、顔に大きく『どうでもいい』と書いてある。


(なんだか嫌な予感がする)


「進馬、僕は一人乗りのタイプに乗ってみたい。だから今回は四人乗りのタイプで納得してくれないかな?」

「えー」

進馬は不満そうにしていたけれど、美涼に急かされて、しぶしぶ折れてくれた。




融だけ一人乗りタイプに乗り込む。

乗用車よりも大きいくらいなのに、中はとても狭い。大人一人が何とか乗り込める程度の広さしかない。

初心者向けの音声案内に従って、バイクみたいに跨って前傾姿勢になると、ハッチが閉じた。

周りに何も無いみたいに、戦車の外の映像が全面に表示される。

手のひらの形をした印を円で囲った場所が左右二か所ある。そこに融が手のひらを置くと、沈みこんで出来た穴に融の肘まで中に入った。

穴の中に球体がある。それを握って戦車を操縦する。


音声案内の説明に従って、前進後退、右へ左へ恐る恐る動かしてみる。

次の指示は速度を出して運転してみることだった。


屋外訓練場の外周コースを走っている。時速百キロを超える速度で指示通り走る。初心者向け訓練中なので、自動ブレーキや自動回避機能が働き、事故を起こすことが無いとわかっていても結構スリルがある。


次は障害物があるエリアへと移動する。

車輪による走行から、昆虫のように脚部での歩行移動に切り替える。

コンクリートで作られた人工の岩場、土を持った凸凹道にぬかるんだ下り坂、池を跳び越える。

「基本移動の操作はだいたいわかったぞ。戦車の内蔵武器を使用する前に、今度は音声ガイド無しで初めから操作してみるか」




融が多脚戦車を外周コースまで戻すと、そこには暴走する機体があった。

他の生徒たちが大人しく訓練している中、あきらかに訓練で指定されているよりも速度を出して、前を走っている他の機体を次々と追い抜いていく。

一見単なる暴走に見えるけれど、外周コースを滑らかに走っている。


そして、速度を落とさないまま障害物コースへと突っ込んだ。

強固なボディーが岩場を破壊し、凸凹道を強引に進み、ぬかるみで滑るように進む。池の手前で高く跳び上がり、水柱を上げて池へと沈み、波しぶきを上げながら池から出てきた。


その四人乗りの暴走戦車がスタート地点に戻ると、ハッチが開いた。

「フーー!楽しかったー!」

操縦していたのは進馬だった。一緒に乗っていた美涼たちは、真っ青な顔色でぐったりしている。

過激な操縦に融以外にも野次馬が集まってきた。

岩に戦車で体当たりしたのに、装甲には細かな傷が付いているだけで、搭乗員は怪我していない。

野次馬の中には同じクラスの生徒だけではなく上級生や教師の姿もあった。


(岩に激突した爆発みたいな音や、水柱が上がった時もすごかった。

そりゃあ人も集まって来るさ。


ん?あれは!)


他の野次馬が操縦していた進馬や、乗り物酔いの美涼たちを見ている中で、岩とぶつかった装甲を熱心に調べている上級生がいた。


(あの小柄な体型、いい人そうな顔。あの人は雪村鏡子の夫(仮)の甘野敏じゃないか!)




「こんにちは!」

融は前から探していた鏡子の夫(仮)にやっと出会えた嬉しさからすぐに話しかけた。

「何しているのですか?」

「え、ああ、多脚戦車の装甲強度が実際に確認できる機会って滅多にないから、こうやって調べていたんだよ」


(おお、さすが将来英雄をサポートするだけのことがある。目の付けどころが違うなあ)


「先輩は機械のこととか詳しいのですか?」

「詳しいってほどじゃないけど、結構好きだな。部活もそういうのに入っているし」


(上手く会話が続いている。せっかくの機会だから、鏡子を甘野敏に紹介しなくては!)


融が会話の合間に、鏡子たちがいる方を見ると、乗り物酔いで吐きそうになっていた。


(うわぁ、初対面がアレは無いわ~)




その時、融は甘野敏に今度友人を連れて部活の見学に行くと約束した。


ちなみに、美涼たちは体調が回復すると、二度と進馬が操縦する戦車には乗らないと言った。

進馬は六人乗りの多脚戦車を操縦する機会が無くなってしまい、しょんぼりしていた。



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