055 地獄の遠足攻略
「フッ、二つ目のチェックポイントは超能力の炎によって木製の球体に描かれた図形をしっかりと判別することがポイントなのよね。
球体の木目と焦げ跡を、ちゃんと区別しないと間違ったルートを選択してしまうわ」
次々とリタイヤした生徒たちが回収されていく中、融が所属する美涼班は順調に次のチェックポイントを目指していた。
「この先にあるのは温泉地帯だね」
進馬は、スタート前に配られていた紙の地図とコンパスを使って現在地を把握している。
テントが入った荷物を背負っているのは鏡子だ。日頃からのランニングで鍛えているから、体力にはまだまだ余裕があった。
一番重い荷物を持っているのは杏菜だ。普通なら、男の子の役割であるはずの荷物持ちを杏菜がやっている理由は彼女の得意な超能力にある。杏菜が得意なのは重力を操り、物を軽くすることだった。
彼女が持っている荷物は、初日に川で手に入れた水を美涼が凍らせたものだ。シートに包んで紐で縛り、風船みたいにして運んでいる。
美涼は先頭で偉そうに歩いているだけのように見えるけど、実はその浮かんだ氷が解けない様に超能力エネルギーを送り続けている。
融の担当は食料の確保だった。
最後尾を歩きながら食べられる草や木の実を集めている。時には木の上にある鳥の巣から卵を回収していた。
これが融が思いついた美涼班の攻略方法だ。
食糧事情に余裕のない未来とは違い、この時代の子供たちには食料を現地調達しようとする発想は無い。
数年前に、とある班が木の実を食べて食中毒になってリタイヤした事件があって以来、教師たちも無闇に食べないように注意している。
(おそらく、この歓迎遠足の発案者の元々の意図は、軍のサバイバル訓練を疑似体験させるのが目的だろう。そんなことは温室育ちのお坊っちゃん、お嬢様の集まっているこの学校の生徒には無理だ。
でも、僕ならできる。
狩猟採集は日常生活の一部だった。食べられる草の見分け方なんてキャベツとレタスの見分けよりも簡単さ。貧弱な食糧事情の未来で生きるためには必要不可欠な知識だった。
その上、この身体には強力な念動力がある。鳥だろうが魚だろうがジャンジャン獲ってやる!)
融がこの攻略計画を説明した時、友人たちは驚きの表情を浮かべていた。
美涼なんかは、こいつに任せて大丈夫なのか?という疑いの表情を隠しもしない。
歓迎遠足初日、融がキャンプ場付近の川で魚をあっという間に獲って来て、さばいた魚を串に刺したき火で塩焼きを作ると、半信半疑だった残りのメンバーも残さず食べた。
「やっぱり、お父さんが料理人だとこんなことも出来るようになるんだ。すごいね」
と、杏菜は無邪気に言っていたけれど、融と父親の仲は決して良いとは言えない。
(ごめん、たぶんこの時代の料理人はこんなこと知らない)
融は笑顔で誤魔化した。
初日はキャンプ場だったけど、二日目以降は本当の樹海だ。
キャンプ場付近の川で攻略までに必要な量の水を確保した。出発はやや遅れてしまったけれど、他の班が地面を踏み固め、草を払ってくれていたおかげで歩きやすい。
食事は昨日さばいておいた魚の残りを、フライパンで焼く。
食料の制限はあるけれど、調理道具の制限はない。教師もそんなものを持ち込む生徒がいるなんて想定していない。
他の班が食事の量が足りずに空腹で眠れない中、辺りに魚の焼ける芳ばしい香りが広がる。
この嫌がらせを美涼は大変気に入ったみたいだ。グルメリポーターや美食評論家のまねをして味の感想を周りに聞こえる大きな声で語っていた。
人の嫌がることを進んでやっている時の彼女の笑顔は美しく輝いている。
そうして三日目、チェックポイントがある温泉地帯にたどり着いた。硫黄のにおいが立ち込めている。
地図とコンパス、それに木製球体に描かれていた図形のメモを見比べて、進馬が指さした。
「あの間欠泉が次のチェックポイントみたいだよ」
熱い蒸気と熱湯が柱になって噴き出していた。
「あ、間欠泉の下になんかあるよ」
杏菜が指さした先にある看板に何か数字が書かれていた。
「湯気で見えないよ」
鏡子が立つ熱湯がかからない位置からでは、看板の文字は読み取れなかった。
「私に任せなさい!」
美涼が両手を間欠泉へ向けて、意識を集中し始めると、ドンドン温度が下がって噴き出していた熱湯が最後は凍りついてしまった。氷の柱が出来上がっている。
「ふう、これで数字が読めるでしょう!」
「あの数字は次の目的地の座標みたいだよ」
進馬が数字をメモしたあと、地図を使って場所を確認している。
「あれ、融はどこいったの?」
杏菜と鏡子からすごいすごいとヨイショされていた美涼が、声の聞こえてこない融を探すと、岩場の影でうずくまっているのを見つけた。
「ほら、こんな硫黄臭い場所から離れて次のチェックポイントへ向かうわよ」
「何しているの?」
美涼と鏡子が近寄ると、融が温泉の蒸気を使って蒸し料理を作っていた。
「これは野草を蒸してサラダを作るのだ。こっちの卵は温泉に付けて温泉卵を作っているところ」
その日の食事は温泉卵と蒸し野草のサラダをおいしくいただいた。
四つ目のチェックポイントは、樹海と山岳地帯の狭間にある岩場にあった。
一つのマスが自動車ほどもあるコンクリートのスライド式パズルが設置されている。
「よし、ここは私に任せて!」
超重量のパズルを完成させるために、杏菜が重力を操作する。
重たいコンクリートの塊はふわりと浮かびあがり、片手で楽に動かせるようになった。
けれど、ここからが長かった。
「あれ?」
「違うよ、さっきの所は動かしちゃだめだったんだよ」
「もっと、前に戻ってから、やり直した方がよくない?」
「あなたはもういいわ。黙って私の指示に従いなさい!」
「鳥肉焼けたよ」
パズルゲームが苦手な杏菜にはさっぱり解けなくて、翌朝杏菜以外のみんなが頭を使って解いた。
「やっぱり、杏菜が動かす前の状態から四手で解けたんだよ。このパズル」
五つ目のチェックポイントは、樹海で最大の巨木、その頂上にあるらしい。
「じゃんけんで決めましょう。恨みっこなしよ」
「じゃんけん!ぽん」
あっさり勝敗が付いて、進馬が木登りすることになった。
「えー、僕、木登りなんてやったこと無いよ」
「安心なさい進馬。ここにいる全員がやったこと無いわ!」
「そうだよ。私が重力操作して、軽くしてあげるから。登りやすいし、落ちても安心」
「ロープ大事、命綱だから」
鏡子が進馬にロープを手渡してうなずいた。
「進馬!」
最後は融が声をかけてきた。
「融、もしかして、登るのを変わってくれるの?ありがとう!」
「いや、そんなつもりはまったくないけど。あの木に生っている木の実食べられるやつだから、降りる時にこれにとって来てくれ」
進馬は溜息をついて、融から袋を受け取った。
「そうだよね。君たちってそういうやつらだよね……」
進馬が慣れないやり方で、必死に登った。
杏菜や美涼は、初めはアレコレ指示を飛ばしたり、応援していたけれど、途中で飽きた美涼は融と一緒に食料を獲りに行った。
進馬が降りて来る途中で足を滑らせ落ちて、命綱で宙吊りになったころに融たちは戻ってきた。
「本当、死ぬかと思ったんだから!というか、それ何?熊!?」
次のチェックポイントは洞窟だった。
テントと一緒に支給されたライトだけでは暗い。五人全員の足元を照らしきれない。調理用に持ってきていた油で、簡単な明かりを作って真っ暗な中を進む。
「分かれ道だ」
「融、どっちが正解だと思う?」
「なんで僕に聞くの?」
「この中で一番勘が良いのはあんたなのよ。第六感の能力訓練の成績一番良かったでしょ。とっとと選びなさい」
そこから先頭は美涼から融に変わった。いつくのも分かれ道を迷うことなく進んだ。融としては、なんとなく選んだだけなのに、出口までたどり着いてしまった。
「おお!外に出られた!」
「えー、何で融が驚くのさ」
「いや、訓練以外で役に立ったことが無かったから」
「学校のテストで選択問題がないのは、第六感が鋭い生徒がいるからだって説明があったでしょう。全くわからない問題でも、勘だけで実力以上の高得点をとるから正しい成績がつけられないのよ」
どうやら自分の能力が一番わかっていなかったのは、融自身だけだったみたいだ。
出口には、スタート地点に戻れという指示が書いてあった。
「よーし、これが最後の指示みたいね。ゴール目指して行くわよ、みんな。私に付いてきなさい!」
スタート地点までの帰り道は行きに比べて楽だった。
運んでいた荷物は減り、山道も歩き慣れてきていた。
ゴールはもう目の前だ。
新入生歓迎遠足を攻略した新入生はこれまでいない。
みんなで初の攻略者たちを出迎えてくれている。
はずだと思っていたのに、教師も生徒も帰還してきた融たちを回収すると、あっさり学校へと戻ってしまった。
「あれ?なんで?」




