052 中等科入学式
中等科に入学した。エスカレータなので入試は無い。
初等科の男女同じデザインの制服とは違い、女子の制服のジャケットにリボンが付き、下はスカートになっている。
この制服のデザインの基本概念が『戦いやすさ』となっているため、超能力者の戦闘をサポートする細かい機能が搭載されている。防弾防刃耐熱、武器を隠し持ちやすいように収納も多い。超能力者の集中力を妨げないように、着心地も非常に良い。
突然学校にテロリストが乗り込んできても安心らしい。
初等科の卒業式から約一ヶ月しか経っていないのに、みんな少し大人に見える。これも制服の効果なのだろうか?
青山進馬の身長は、同級生の男子たちから頭一つ分以上高い。真面目で優しそうな顔と、不良と噂されるギャップが受けて、一部の女子の間で密かな人気を得ている。面倒見がいいのもその理由の一つだろう。そんなことを本人は全く知らず、相変わらずの趣味人だ。ポケットが多いデザインの制服にいろいろと趣味のアイテムを隠し持っていた。
波川美涼は、きっちりと校則を守って制服を身に着けている。背中まで伸ばしたストレートの黒髪、細く長い手足、微笑む顔はとても優しそうだ。実際の中身は、その外見に反して詐欺レベルだった。虫も殺せない様な顔をして、いじめっ子気質なのだ。根は悪いやつだけど、自分の友人にはそれなりに優しい。
最近は恋愛にも興味を持ち始め、胸が薄いのを気にしている。
三崎杏菜は、きっちりと制服を改造済みだった。小さなアクセサリーも大量に付けている。入学初日からスカートの丈も短く、かわいくなる様に着崩している。茶髪をサイドに結び、より一層のギャルっぽく見える。意中の男の子に振り向いてもらうべく、いろいろと努力しているみたいだ。胸は美涼よりもある。
雪村鏡子は、じゃがいもみたいな子供時代から、大人へと変わりつつある。長いまつ毛、短めに切りそろえた髪。鍛えられて引き締まった体。機能優先で突きつめた先にある美しさだった。でも、中身はあんまり変わっていない。三人の中では一番胸が大きいけれど、巨乳ではない。残念ながら三人ともそこはあまり育っていなかった。
転法輪融は、自分の顔が映った鏡を何度も見ていた。歴史資料で見たような狂戦士はそこには映っておらず、目に狂気は宿っていない。ますます母親に似てきている気がしていた。
長身の進馬とよく一緒にいるため、背が低く見えることも気にしている。
中等科入学祝に、母親の倫からもらった新しい眼鏡型情報端末をかけてみる。融は、前の情報端末に比べて性能が格段に上がっていることに気づかないで、ちょっと大人っぽくなったデザインを気に入っていた。
ここ最近で、一番見た目が成長したのは月城晶だった。
ただ普通に制服を身につけているだけなのに、艶っぽい。大きな胸、くびれた腰のライン。外人っぽさとでも言うべきか、自治区出身の血が容姿に強く現れている。ウェーブのかかった長い髪は、子供のころよりも色素が抜けてより金に近い色へと変わった。スタイル抜群なその姿は、同年代の男子生徒からの視線を集めている。
初等科との一番の違いは、他の学年との交流が盛んになることだろう。
初等科の頃はまだ、自分の超能力を使いこなせず、長所や短所も理解できていない。ある程度実力が付くまで、集団の中で超能力を使うのは危険とされている。だから初等科では、基礎的な反復練習で超能力のコントロールを徹底的に学ぶのだ。
中等科からは、銃火器の訓練も始まる。戦闘訓練でも超能力を使用する。
技術科目、情報科目、芸術科目。選択科目が増えて、学ぶ授業の幅も広がる。
さまざまな部活動や学校行事が楽しめるのも特徴の一つだ。中等科からは放課後の能力訓練がなくなるため、自由に使える時間が増えるのだ。
初等科から中等科へと寮も校舎も変わった。一週間前に引っ越しも終わり、寮にやっと慣れてきた頃、融の部屋の情報端末に新しいクラスのデータが送られてきた。
いつもの五人はまた同じクラスだ。ざっと目を通し、詳しいことは進馬に確認しようと思って、ちゃんと読まなかった。
入学式当日。進馬を先頭にして、みんなで新しいクラスへと向かう。みんな面倒見のいい進馬に頼りきりだ。
入学式は十時から開会だったけど、新入生たちは三十分前には講堂へと移動しはじめた。
一人だけトイレに行った融は、一人くらい抜けても見つからないのではないかなどと、初日からサボることを考えていた。
開会の時間が近づき、仕方なく、誰もいない廊下を歩いて、一人講堂へと向かう。
ぼんやりして注意力散漫なっていたせいだろう。
廊下の角で、誰かに出会いがしらにぶつかった。
融はすぐに立ち上がり、相手に声をかける。
「ケガはありませんか?」
尻もちをついていた相手が顔を上げた。
「ええ、大丈夫です」
(あれ?この顔どこかで見たことがあるような気がする)
「前に、どこかでお会いしたことがありませんでしたっけ?」
融は心に芽生えた疑問を、そのまま素直に口にする。融が手を差し伸べると、相手はその手をそっと握り返してきた。
「古いお誘いのセリフですね」
立ち上がると、彼女は微笑みながらそう言った。
「でも、ごめんなさい、これからお仕事があるの。それでは」
そんなつもりではなかった融が、何かを言い返す前に彼女は小走りで立ち去ってしまった。
赤黒い髪をツーサイドアップにした、褐色の肌の女の子。
いよいよ開始時間が迫り、遅刻することも覚悟したけれど、融が席に座った時にはまだ始まっていなかった。
長い校長先生の挨拶の次は、生徒会長挨拶だった。
名前を呼ばれて、一人の女子生徒が壇上に登っていく。
原稿を読み上げているその女子生徒と、席に座っていた融と目があった。
彼女は、あいさつの途中で、あっと小さな声を上げてしまった。
咳払いをしてごまかして最後まで読みあげた。




