022 冬休みと初対面の母親
「このままでいいのかな」
融は考える。年の暮れの寒い日、実家の部屋で、夜遅くに融は考える。
(例えこれから起こること、歴史を知っていたからといって僕に何ができるというのだ。
この時代に来た時は初等科の新入生。
六歳だぞ、六歳。
そんな子供がいきなり
「私は未来から来た、天才の月城晶は裏切り者、落ちこぼれの雪村鏡子が英雄」そう言い出したとして、信じるか?
そんなバカなこと誰も信じないよ。
その上歴史通りに進むと、僕の将来は死神と呼ばれる狂戦士!
千の改造人間と戦って、この国を守って死ぬ。
……死にたくないな。
でも今は、家族も友達もできた。そりゃ守れるものなら守りたいさ。
そもそも、僕は二百年後の未来、あの時殺されるはずだった。僕の時間移動の能力は、きっとこのためにあったんだ。
元々失っていたはずの命。ならばせめて、この国の人々を守るため戦って死ぬ。
これが僕の運命、すべてを受け入れる!
なーんちゃって。
いや、無理です無理無理。
改造人間一人で死にかけるような僕だもの。
未来の英雄を育てているだけでも、すごいと思うんだよね。もう十分だよ)
「このままでいいよね~」
融はベッドに横になって目をつぶった。
超能力で、物体を圧縮する力が放たれる。融の部屋の強化ガラスに亀裂が入る音がした。
突然、窓ガラスを蹴破りながら、完全武装の兵士たちが突入して来た。
「何なにナニ!戦争!?もう、はじまったの!」
融は突然のことに対応できず、叫びながら両手を挙げた。
兵士の一人が顔まで覆っていたヘルメットを外した。相手の鼻が融の顔に触れてしまいそうな距離まで近づく。
「おもしろく育ったみたいじゃないか。さすが私の息子」
とても、大きな子供が二人もいるようには見えないほど若く、美しい女性だった。
(ええー、融の母親!?)
「は、はじめまして。って、あっ!」
(何言ってるんだ僕は!それは普通母親にする挨拶じゃないだろ。
いきなりすぎて状況の変化に対応できてない!
でも仕方がないじゃないか。少なくとも学校に入学してからの五年間自分の息子に会いに来ないんだもの。
融が僕に変わってからは、初対面だから!)
「うーん。そういえば最後に会ったのは三。いや、二歳の頃だったから、覚えてないのかな?衣寅とは初等科の入学前に一度会えたんだけど、二度と会いたくないって泣かれちゃうし。
母さんは、息子からの強烈な嫌味で大きな胸が引き裂かれそうです。
では改めて、はじめまして融。
さっそくだけど、一緒に来てもらうぞ」
輸送機の中、隣には自称母親の若い女が座っている。
「いやー、代表会議の仕事と、軍の仕事を掛け持ちしているとなかなか休みが取れなくて。ごめんごめん。
特に最近は世の中物騒で、どっちの仕事も忙しくて、忙しくて。
なあ、働く大人の女ってカッコイイと思うだろ?」
融は、肩を抱き寄せられて、頭をグリグリと撫でられていた。
(いきなり母親だと言われても、僕にとって初めて会った若いおねえさんでしかないわけで。そんなにくっ付かれると照れるぜ)
母親の名前は転法輪倫。メガネ型情報端末のメモリーにも名前以外の情報が存在していなかった。
(てんほうりんりん。……リンリン。
実家の中で母親の写真や動画を見たことがない。おそらく、僕になる前の融が持っていた物は全部破き捨てている。弟の衣寅も、会いに来ない母親を大変嫌っていて、話題にすることすら嫌がる。
両親の部屋には写真ぐらいあるはずだけれど、融の入室は父親から拒絶されている。
兄弟二人分、合わせても片手の指で足りる回数だけしか会ったことがない母親。
愛情不足で幼少期の融の性格が歪んじゃうわけだよ。
……融は自分の母親のことが嫌いだったのかな)
輸送機の中には融の部屋に窓から突撃して来た兵士たちが黙って座っている。
(なんかこっち見てる。こわい)
「えっと、母さん?僕はどこに連れて行かれるの。あと再会は窓からじゃなくてもよかったんじゃ?」
母さんと呼ばれて喜ぶ倫に、融はさらに抱き寄せられる。ウィンクまでしてきた。
「えー、それじゃ普通じゃん。久々の親子の対面を派手に盛り上げたかったの、私は。びっくりしたでしょ!
行き先は、着くまでのお楽しみ。
ひ・み・つ」




