020 ハ-レム ?
寮の部屋の壁に組み込まれている情報端末に、ある日ある情報が表示された。
「明日以降、寮の異性エリアに入らないことって注意が表示されていたんだけど、あれ何?」
放課後の屋上で五人がのんびりしている時に、美涼が不意につぶやいた。
「さあ?」
鏡子はその表示すら見ていない。
融が検索してみた。
「情報があったぞ。
ざっくり説明すると、もう五年生で子供じゃないんだから寮内では男女別に生活しましょうってことみたいだ。女子は男子寮に入ってはいけないし、男子は女子寮に入ってはいけない」
「そもそも僕たちは異性エリアに入ったことがないから、その注意は気にしなくていいってことかな」
進馬がつぶやくと、杏菜がハッと何かを思いついた顔になった。
「入れなくなる前に、私男子エリアに入ってみたい」
杏菜の好奇心は止めることができそうになかった。
「私たちが住んでいる寮と見た目は一緒なんだね」
杏菜の提案により、それぞれの部屋を見学することになった。
一番手は融の部屋だった。
(見られて困るような物は何もないけどね)
融が鍵を開けると、後の四人も部屋に入ってきた。
「おじゃましまーす」
先頭で入ってきた杏菜と美涼は部屋の中を見て回る。
「何にもないじゃない」
そう、融の部屋には特徴が無かった。学校が一番初めから設置していた家具がそのままの配置で置かれたままだ。
「つまんない部屋ね、おもしろくない」
美涼がつまらなそうに椅子に座り、杏菜がベッドの下を覗き込む。
「なにか恥ずかしい物とか、おもしろいものとかないの?」
杏菜の質問に融は少し悩む。
部屋の隅では、進馬が棚の空いたスペースに勝手に小さなぬいぐるみの『にねこ』を設置して、布教中だった。
「映画観賞や読書が趣味だからな。それも、ほとんどメガネ型情報端末に記録してあって荷物が増えないんだ。
あ、そういえば、恥ずかしいかもしれない物ならあるぞ」
融がメガネを操作して壁の大画面に、ある画像を表示させた。
「ぎゃあーー!」
一年生の頃の美涼の泣き顔が画面いっぱいに表示されている。
「まだまだあるぞ」
動画も再生する。幼い美涼は、パーティー会場で追いかけ回されて泣きながら逃げ回っている。
最終的に画像の表示をやめさせるために、融につかみかかった美涼が返り討ちにあって、もうやめて下さい、どうか許して下さいと敬語でお願いするまで続いた。
「えー、まだ見たかったのにー」
杏菜がニヤニヤしながらそう言うと、融はじゃあ御期待にお応えして、と言って、今度は杏菜が一年生の頃、見ていたアニメの変身ポーズを真似している動画を表示した。
「うぎゃー!それ私のもあるの!」
(みんなをいっぱい撮ったからまだまだまだまだまだまだあるよ。視界を映像として記録するのも、趣味といえば趣味かな。これもデータは増えるけど物が増えない趣味だ)
鏡子は融のベッドの近くでもぞもぞしていた。
杏菜が逃げるように部屋を出たから、次は男子エリアの進馬の部屋に向かう。
「入る前から、わかっていたけどね」
美涼はそれ以上言わなかった。それについて下手な発言をすると危険だと学習しているのだ。
部屋中にキャラクターグッズが飾ってある。家具も『にねこ』。シーツも『にねこ』だった。
「本当、よく外では上手く隠しているよね」
杏菜も彼の御神体に下手に触らない。
「男がぬいぐるみとか大事にしているのはやっぱ変かな?」
質問をぶつけられた全員は首をプルプル振っていた。
次は女子エリアだった。
「思えば女の子同士でも部屋に入ったことなかった」
杏菜が、その部屋の持ち主の鏡子よりも先に部屋の中に入る。融ほどではないけど、荷物の少ない部屋だ。
杏菜が選んであげた服が飾ってある。美涼があげたブランドバッグは普段から大切に使っている。棚の上には進馬が布教したにねこのぬいぐるみが飾ってある。どれも彼女の大切な宝物だという思いが伝わって来る。
「また一緒に遊びに行こうね」
「次は私も服を選んであげる」
進馬がまた、こっそりにねこを一匹追加していた。
「のど渇いてきちゃった」
杏菜が勝手に美涼の部屋で注文を始めた。
「ちょっと待ちなさい。何やっているのよ」
この部屋の主、美涼が文句を言っている。
家具が高級品に換えられている。同じ寮の部屋のはずなのに、それまでと別世界だった。
「チョットくらいイイじゃん。私と違っておこづかい無制限なんでしょ。ほら鏡子もここならタダで注文できるよ。遠慮せずにジャンジャン飲むといいよ」
「そういう問題じゃないの。次はあなたの部屋なんだからそこで注文しなさいよ」
「いや、でも部屋に出前を頼むと追加料金が発生するんだよ」
配膳ロボが部屋までコーヒー牛乳を運んできた。受取った杏菜がストローで飲み始める。
怒った美涼とふざけている杏菜が暴れて、コーヒー牛乳がこぼれた。
「「あっ」」
こぼれたコーヒー牛乳が、また隠れて布教活動していた進馬が持っていたぬいぐるみにかかった。全体的に茶色く染まった。
「…………」
無表情になった進馬が何も言わずに部屋を出て行った。
「ごめん、ちょっと調子に乗りすぎた」
「別にいいのよ。ほら鏡子も何か頼みなさい、私のおごりよ。遠慮はいらないわ」
美涼に勧められても鏡子は注文しなかった。
「一人減っちゃったけど、最後は私の部屋です」
一番女の子っぽいカワイイ部屋だった。明るい色の小物が飾られている。
「これは?」
美涼が尋ねる。
「カワイイ服とか最近自分で作ってみたくなったんだ」
裁縫道具、ミシンが机の上に置かれている。
「これはまずいんじゃないか?制服だぞ」
学校の制服のスカートが短くされて、さらにフリルが縫い付けてあった。
「大丈夫だって、ばれにくい所をちょっとだけ改造しているだけだから、怒られないって。融の制服にもやってあげる。かわいくなるよ」
(フリル……?いや、似合わないだろう絶対)
融が首を横に振りながら後ずさりすると、背後に美涼が立っていた。
「それは面白そうね。いっそのことスカートにしてみるっていうのはどうかしら?
よく見るとかわいい顔しているから似合うと思うの、スカート。
折角だし、かわいいスカート姿の融くんを記念に残しておくべきではないかしら。私たちの映像ばかりでは不公平だと思わない?」
融の両肩に手を置く美涼の顔は、いじめっ子のそれになっていた。
「やっちゃえー!」
「ほら鏡子も手伝いなさい!」
「……うん」
「こら、やめなさい。後で覚えてろ!脱がさないで!ダメ、やめて、いや!」
「よいではないか、よいではないか!」
融は上着を脱がされ、ズボンをずり下ろされそうになりつつも、なんとか女装だけは阻止するために部屋を飛び出した。
「あ……」
「はぁ、はぁ、疲れた」
「ふぅ、本気になりすぎだよ、暴れ過ぎ」
「ちょっと、待って」
呼吸も服も乱れた四人が、扉を抜けるとそこは女子寮だった。
能力強化の自主訓練を終えた女子生徒たちが、廊下にたくさんいた。
融は一人だけ男子で、服も脱がされている。
「……」
融は何も言わないで後ろに下がり、融の影になって見えなかったために、状況がよく呑み込めていない三人を押しこみながら扉を閉めた。
翌日、番長が女子寮で妖しい宴を開いていたという噂が影で広まるのだった。




