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016 常識


融は朝の習慣、ランニングを続けている。

元々の本人の性格ならば、三日坊主で続かなかったに違いない。

彼が融になる前に、所属していた組織で象徴として大切にされていた頃には、戦闘を避けることを第一に生活していた。


けれど、今は違う。

戦わなければ生き残れない運命が自分を待っていることを融は知っている。


ランニングには、雪村鏡子を強制参加させた。毎朝たたき起こす。


(将来必ず英雄になってもらう!そして、僕を守ってくれ)


彼女には、融が五周走る間に、一周走るのがやっとという体力しかなかった。

それでも、雪村鏡子はやると決めたら、できるまでやる子だった。


(でも、もしかしてランニングが終った後に、おごってあげているジュースが欲しいだけかもしれない)




融が持っている未来の知識は何も歴史だけではないのだ。

彼が持っている未来の情報。

その一つが常識だ。


超能力開発は、限界まで続けた方がいい、毎日続けた方がいい、無理をしてでもやった方がいい。

長時間続けることで、集中力が高めることこそ精神力のトレーニングになる。それが、能力値の上昇にもつながる。

極限状態まで自分を追い込む。ポジティブ、前向きな思考。

戦闘の際には常に冷静な判断、論気的な思考で戦う。感情は抑え込んだ方がよい。

それがこの時代の正しい常識だ。


でも、石段をうさぎ跳びさせる筋力トレーニングが間違っているということや、運動をしている時、水を飲むのを我慢するのではなく、運動中のこまめな水分補給が必要なように、時代とともに正しい常識は変わる。




根本的な考え方は、限界を知ることは必要だけど、絶対に無理をするべきではないということだ。

それは未来からやってきた融にとっては常識だった。

超能力を使うための体作りは重要だけれど、体が出来上がっていない時からやり過ぎるのはよくない。

精神力は、努力やマニュアルで簡単に鍛えられるものではない。

能力値を上げることに執着しすぎるよりも、効率よく使うことを覚えた方がよい。

考え方、ポジティブやネガティブは向き不向きがあること。同じように冷静や熱情、理論と感覚も個人個人で違う。

感情はコントロールできない。




未来の常識は、雪村鏡子だけではなく、美涼に進馬、杏菜にも教えてみた。

みんな始めは半信半疑であったけれど、転法輪家の最新研究だとか、月城晶には絶対秘密だとか言ってみたら、信じてくれた。五人だけの秘密である。

(未来の知識で、月城晶が歴史以上に強くなっても困るからな)



無理をしないのと、努力しないのは違う。

数日間超能力のトレーニングをした後で、一日休む。休みの間隔は練習内容や体調、季節によって変える。時間を短くする分、効率の良い練習法をみんなで話し合う。ダラダラせず、集中する。


特に雪村鏡子には、体調を崩してしまうまでの練習をしないことを厳命した。

自分が劣っていると思い込んでいる鏡子は無理しがちだ。


(お前は英雄になるのだ!って説明しても絶対に信じないだろうな)


友人たちにも気にかけてもらった。

ちゃんと休むのにも努力がいる。練習をがんばっていることで、心が楽な方に逃げていることを自覚するのは難しい。


休みの日も、練習中に気づいたことや、思いついた新しい練習方法を話し合う。同じことの繰り返しは緊張感がなくなり、効率が悪い。

やがて、着実に成長が数字として表れ始め、みんなのやる気はさらに高まった。


また、時には屋上で何もせずに雲を眺めることもある。

下手な精神トレーニングなんかよりも、何もせずにぼんやりと考える時間は、心にとって大切なのだ。


(他の生徒が能力開発の自習をやっている時にどこかへ行くから、月城晶には集団でサボっているように見えるみたいだ。

注意されると、波川美涼があなたには関係ないでしょ、などと言い返してくれる。変に探られるよりはいいか)


そんなわけで、今日は屋上にて、みんなでぼけーっとしていた。







能力訓練の自習出席率の低下から、一部の教師や生徒から不良のレッテルを貼られているなんて知らずに……。



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