014 焼き芋食べたい
「ちょっと、指導員さんの話ちゃんと聞いていた?もっとよく掘ってからじゃないと途中で折れちゃうでしょ!」
「いいえ、これくらいで十分なのです!もう三個も掘り出してみましたけど、そんなに掘らなくてもちゃんと収穫できています」
月城と波川の仲は悪い。
これは、この国の常識だった。教師が二人を同じ班にした理由は不明だ。
あえて、同じ班にすることで、班同士で対抗意識を燃やす競争を避けようとした。もしくは融と武東鋼に仲を取り持たせようと考えたのだろうか。
もしそうだとしたら、その教師のたくらみは失敗した。
あの二人のケンカを抑えるはずの二人が、どちらもまだやってこないからだ。
もう一人の班員、鏡子はケンカしている二人を気にせずに、黙々と隅っこでイモを掘り続けている。すでに、向こうの二人が掘ったイモの合計の倍以上を収穫していた。
ほかの生徒たち違って、土に汚れることをためらわないから、泥だらけになっていた。
フンフン。
「いや、だから別に君たちは関係ないでしょう。兄弟だろうが、幼馴染だろうが、個人のことに口出しして欲しくないっていうか。
僕がどんな子と付き合おうが僕の勝手でしょ。それにさ、別に無理矢理付き合ったわけじゃないんだよ。お互いの合意の上さ。
スタートがそうなんだから、終わりもそう。あの子とはかなり前にもう別れたんだって。だからもう関係ないでしょ」
いじめられっ子は、そのかわいい顔を歪めて微笑む。
四年生の男子生徒たちに、いじめられていたように見えた三年生の男子生徒。どうやら、武東鋼が間に入って話し合いをしているようだ。
融が漁業エリアの地下の養殖用プールにたどり着くと、三年生の男子生徒が言い訳していた。
全体の話をまとめると、同級生のある女の子に告白されて付き合い始めた。
しばらくすると、彼はほかの女の子にも告白された。
彼は付き合っていた女の子をあっさり振って、その子と付き合い始めた。
しかも、女の子を振る前から、そのもう一人と付き合い始めていた目撃証言もあった。
つまり、二股していた期間があるようだ。
怒ったのは、振られて泣かされた女の子の幼馴染のお兄さん。
四年生の彼は、仲間たちとともに彼に復讐するつもりだった。
そして、今回の合同授業。
彼らの話を聞いて、武東鋼はもう三年生の彼を助ける気はなくなっていた。
どう考えても彼の方が悪い。
しかし、中途半端に助けてしまったため、ここで見捨てるというのも、すっきりしない感じだ。
どうすればよいのか考えていた時に、バケツを持った融がやってきた。
黙って三年生の彼に近づいて、頭からバケツの中身を浴びせかけた。
「うわ、何だこれ!」
茶色いドロッとした液体だった。独特のにおいを発している。
驚いた彼に蹴りを入れて、近くの養殖プールに彼を落とした。
彼の腰までしか水深がない様で、彼はすぐに立ち上がった。融は上がってこようとする彼を、棒で突いてプールから出させない。
「なんだ!へび、蛇がいる。助けて、しぬ、死ぬ!」
彼の体にぶっかけられた液体は、養殖されていた生物のエサだった。
プール内すべてのそれが蠢き、彼に群がる。
「反省しろ」
彼に向ってそう言った融が後ろを振り向くと、四年生たちがひるんだ。
「はい、これ」
四年生たちに、棒を渡した。
「体験学習の終了時間まで、あと一時間ちょっとあるから。その間プールから出さないようにしたらいいよ。それで十分復讐になるだろ」
四年生たちはためらっている。一人が融に尋ねた。
「蛇がいるって言っているけど?」
「大丈夫。死にはしないさ。ここはウナギの養殖プールだから」
プールの中で、服の中にまで活きの良いウナギが入り込んで真っ青になっていた。
融がニヤリと笑うと、四年生たちもニヤリと笑った。
四年生たちを残して融と武東鋼は、農業エリアへと向かって歩いていた。
彼女は結んでいた髪を解いた。キリッとしていた顔まで緩んでいる。
「それにしても、すごかったね~」
融は、羊の群れのことを見られていたのかと警戒する。
(大鎌であんなことが出来ると知られたら、まずいぞ。明日からの僕のあだ名が死神になってしまう!歴史通りの人生はイヤだ!
それとも、あいつをプールにたたき落とした事か?暴力を振るいたかったわけじゃないんだ!ふられた女の子につい感情移入しちゃっただけで!)
「私、ウナギってあんな生き物だなんて知らなかったよ。じいちゃん家で食べた時はもっとこう」
鋼は身振りをつけて、自分の驚きを話す。融はほっとしている。
ウネウネしていたこと、どういう時に食べたのか、うな重を食べた感想や、一緒に食べた家族について、融に和やかに話した。
「あ、そうだ。忘れるとこだった。今回のこと晶ちゃん班長にどう伝えたらいいかな?下手に伝えたら大変なことになりそうなんだよね~。変にまじめなとこがあるから。ねえ、なんて言おう」
融は少し考えて言った。
「悪は滅びたって伝えたらいいよ。あとは晶班長が勝手に勘違いしてくれるでしょ」
鋼はぼんやりした顔で少し考えてから、そうしてみると言った。
二人がイモ畑にたどり着くと、イモ掘りは終了していて、班ごとにたき火をしている。
晶と美涼がまたケンカしていた。
「どうしたんだ」
一人で火の番をしている鏡子に尋ねた。
「えっとね、最初は晶班長が火の番をしていたんだけど、超能力を使って火力を上げるものだから、晶班長と美涼ちゃんの焼き芋が炭になっちゃったの。
私が掘ったおいもは、その後で焼く予定だったから大丈夫だよ。
二人の分まで掘っておいたから!」
鏡子は自慢げに、弱火になったたき火を棒でつついて、アルミホイルに包まれたイモを示した。
学校の生徒は、自分で調理したことがある生徒はごくまれで、その生徒たちも電気調理器を使っていた。
だから、火を使う料理は初めての体験で、子供たちの眼はキラキラしていた。
軍手を使って、出来たてアツアツの焼き芋を頬張る。
イモは黄金色で、何の味付けも必要ないくらいに甘かった。
ケンカしていた二人も、鏡子に分けてもらった分を黙々と食べ続けている。
帰りの車内で、一番頑張っていた鏡子は疲れて眠っていた。
一方、不完全燃焼の晶班長は、
「来年は何を選択しようかな。リンゴ狩りも楽しそうだった!」
すでに次なる計画を立てているのだった。




