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013 死神の大鎌


その日は、三、四年生合同の社会科見学だ。


食物工場へと出発した。


学校がある都市に食料を供給している工場は全部で四つある。

融たちが見学する工場は、その中でも一番小さい工場だ。

今回の様に外部の人間を気軽に受け入れて、見学や体験を行うことに特化した場所になっている。工場が外部からの人間を受け入れたせいで、万が一、何か問題が発生してもすぐ対応できるようするため。また、ほかの工場の場所などの情報を秘匿するために存在している。


(僕が生きていた二百年後の未来は、個人が畑で作物を育てたり、家畜の世話をやっていたけれど、この時代は食料は工場で一括して生産しているんだな。

自然環境に左右されない、安定した食生活に乾杯!)


工場では五人一組の班で行動することになっていた。

融の班は、雪村鏡子と波川美鈴、それに月城晶とその友達の武東鋼の五名だ。班長は、月城晶がどうしても自分がやると言って譲らなかった。


「これから私を呼ぶ時は、必ず『班長』をつけて呼びなさい!」


見学の順路などを全部晶班長が主動で決めてしまったため、美涼はまたイライラしている。


融は前の時代でさんざんやった農作業に消極的だったけど、ほかのクラスメートたちはみんなやりたがっていた。

この時代、身近に畑はない。家畜を見ることもなく、魚を見る機会もほとんどない。全ての食料を、大規模な工場で生産するのだ。

安全安心で、安定した管理が可能となり、生産者側のメリットも大きい。



生徒たちは農業、畜産業、漁業から班ごとに選択して体験する。


(僕たちが通っている学校の何十倍もある大規模な工場だから、機械管理のはずじゃないのか。体験って何するんだ?)


融は疑問に思って、メガネ型端末で調べると、そこは社会科見学に対応した特別な施設らしい。

工場の生産ラインとは別に、人力で食糧を生産していた。

野菜や果物の収穫体験や、家畜のエサやりと乳搾り体験、釣り体験などの体感型学習用施設だった。


(要するに、遊びなんだな。さんざん苦労して、食べ物のありがたみを知るための学習じゃないわけか)


食べ物で苦労した経験を持つ融は少し不満が残るけど、ただの遊びだと割り切ることにしたのだった。


融たちは、晶班長の強い希望で、イモ掘り体験をやることになっていた。




食糧工場の中は、大まかに三つに分かれる。

地下の漁業エリア、地上の農業エリアと畜産エリアに分かれる。


工場の更衣室で作業拭きに着替えて、晶班長の後を歩いて農業エリアのイモ畑へ向かっている時だった。


畜産エリアの近くで、数名の生徒たちがもめているのが、遠くに見える。

「あれは、いじめじゃないかしら!一人の下級生を上級生が囲んでいるわ」

晶班長のいじめという言葉に、反応して鏡子がおどおどしている。その様子を見ていた美鈴がビクビクしはじめた。トラウマスイッチが入ってしまったらしい。

二人とも昔を思い出している。

(最近は仲良くなってきているのを知っているから、大丈夫だぞ、二人ともよしよし)



光に吸い寄せられる蛾のように、騒ぎへ向かおうとする晶班長を、彼女お友達の武東鋼が止めた。

「さすがに晶ちゃん班長がー、体験学習を抜けるわけにはいかないでしょ。私が代わりに行って、ちょっと様子を見て来るよー」

そう言うと、寝ぐせ頭だった髪を紐でサッと縛った。

それまで、立ったまま居眠りでも始めてしまいそうなボヤーっとした女子生徒だったのに、表情が変わった。


遠くに見える、いじめられていた三年生の男子生徒が走って逃げだした。四年生たちがそれを追いかけ始めた。

「おっと、見失っちゃう。それじゃ適当に言い訳しといてー」

吹き抜けになっている場所をサッと飛び降りると、男の子たちを追いかけて走り始めたのだった。

「ちょっと待った。僕もそっちに行く」

(イモ掘りよりもあっちが楽しそうだ!)

融も近くの階段を駆け下りて、武東鋼の後を追った。


「二人も抜けちゃったとしても、私がいれば大丈夫。さあ、早く農業エリアへ向かうわよ!」

晶班長のやる気は十分だった。それだけ楽しみにしていたのだろう。




武東鋼の足は速い。畜産エリアまで、階段や荷物が置いてある道をスイスイかわして走る。

融も決して足が遅いわけではないのに、障害物の分だけ離されていく。

(このままじゃ見失う。よし、近道だ)

メガネ型情報端末で、この施設の地図を表示する。

先を走るいじめっ子たちの進路予測を表示して、先回りできるルートを検索する。

「おい。こっちが近道だ!」

左に回って、二人で牛や豚が飼育されている施設を抜ける。

武東鋼は、家畜を仕切っている柵の上をピョンピョン跳びはねて最短ルートを進む。

「見えた」

追いつける距離に、武東鋼がいじめっ子たちを見つけた。

「じゃあ、先に行っているね~」

武東鋼は壁を蹴って、高い位置にあった窓から外へと向かった。

「……すごいな。さすが月城晶の友達」

彼女はあっという間にいじめっ子たちに追いついた。


融はそんなことが出来ないので、大人しく道を歩き、扉を開けて回り道する。

「あ、見つけた。さらに揉めているな」

扉の外は牧草地帯だった。木の柵で仕切ってある。遠くに見える白い塊は、おそらく羊の群れだろう。

メガネのズーム機能で追いついた武東鋼たちの様子を見た。


そのせいで、足元の注意が足りなくなった。

「いてっ」

何かに足を引っ掛けて、転んでしまった。

「なんだ?ってうわ!」

牧草を刈るための道具だろうか、大きな鎌が柵に立てかけてあった。

「危ないな。

でも、それよりも歴史の転法輪融を思い出すな。

死神と呼ばれた理由の一つは、武器に大鎌を使っていたからだったよな。歴史通りの未来を回避するためにも、注意しよう」

初めて実物を見る大鎌を、融は試しに持ってみた。

「意外と重い……。じゃなかった、武東鋼たちだ!どうしたかな」

今度は立ち止って、ズーム機能を使った。



話し合いで解決しなかったらしい。

武東鋼は、いじめられていた少年をかばって、上級生の男の子たちと乱闘になっていた。

身体の大きな上級生の一人を、武東鋼が蹴り倒した。

倒れた衝撃で、木の柵が倒れてしまった。

「あっ」

木の柵が倒れた音に驚いたのか、白いもこもこ、羊の群れが一斉に走り出した。


「うわっ」

羊の行き先を、のんびり安全圏から見ていたつもりになっていた融が、その危険性に気がついたのは、メガネのズーム機能を切ってからだった。

「げっ!」

羊は融めがけて全力疾走していた。近づきすぎて、もう逃げられない。


「このー!」

それで、どうにかできると考えての行動ではない。体が勝手に動いたとしか言いようがないほど自然な動きだった。

破れかぶれで、持っていた大鎌を振った。すると、自分の超能力が大鎌に伝わって、馴染む感覚があった。


超能力の力がはじけて、白い雪が舞うような光景が広がった。

羊の背中側の白い羊毛だけが、切断されていた。大鎌から放たれた衝撃波が斬り裂いたのだ。

自分たちに何が起きたのか理解できず、驚いた羊たちは足を止め、回れ右して走って逃げだした。


(歴史の転法輪融、死神が大鎌を使って戦っている動画を見て、なんでそんな武器を使っているのか疑問だったけど、カッコつけているんじゃなくて結構、合理的な理由だったのか。

他の武器よりも断然相性がいい)


大鎌が起こした結果に驚いていたのは、融も同じだった。

腰が抜けたようになってしゃがみ込んだ。

「あ、また忘れるところだった」

ズーム機能の限界近い場所で、武東鋼たちを見つけた。

どうやら、柵を倒した後すぐに、走って逃げてしまったようだ。融がやったことなど気にする様子もなく、追いかけっこを続けていた。

「僕も速く逃げた方がいいな」

牧草地帯一面に撒き散らされた白い羊毛と、背中に大きなハゲがある羊の群れ。

融は、大鎌を柵に立てかけて、武東鋼が向かった地下の漁業エリアを目指して走りだした。



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