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012 五つの能力


三年生に進級した。クラス替えで変化があった。

それまで、融はずっと同じクラスだった友達の青山進馬と三崎杏菜と別のクラスになった。

波川美鈴、雪村鏡子、そして、月城晶とは同じクラスになった。

クラスは別になったけれど、相変わらず食事は一緒だし、寮では集まって遊んでいる。

あれから雪村鏡子も、その中に混じって遊ぶ。

美涼とは、第一印象が悪かったからか、まだ完全には溶け込めていないみたいだ。




三年生からは本格的に能力開発の授業が始まる。

月城晶は、自信満々で早くやりたいと意気込んでいた。


今日はその授業の一回目。

まずは、超能力の基礎訓練をすべて体験してみるという授業だ。


一番目は物体を動かす能力だ。

机の上に人数分のスプーンが置かれていた。

何故スプーンなのか?レンゲでもお玉杓子でもなくスプーン。


(先生に質問しても、『伝統』の一言で説明が終わった)


このスプーンを手に持って、または机に置いたまま、念じて曲げるという訓練だ。今回は他の訓練も体験しなくてはいけないから、五分の制限時間が設定されている。

どれくらい曲げることができたかを機械で計測する。

ほとんどの生徒が目では判断できない程度の変化しかさせられない中、月城晶のスプーンは首の部分からグニャリと曲がっていた。

生徒たちから歓声が上がった。ここまで出来ると、初等部の訓練では、もう合格の範囲内である。


最後は融の検査が行われた。


「え?これはどういうこと?」

計測担当の教師が驚いた。


転法輪融。

歴史的に見ても、彼はトップクラスの念動力者だった。

物体を動かしたり曲げたりするその能力の中で、最も得意としていたのは金属を操ることだった。

敵のロボット兵団や改造人間千人を相手に戦うことができたのも、その能力のおかげだ。

この金属操作の能力だけは、月城晶よりも圧倒的に優れていた。


(だから、歴史上の英雄、転法輪融の才能ならこれくらい朝飯前なんだよな。

僕自身がすごいというわけじゃない)


スプーンを念力で曲げて、形を変えてフォークにした。

子供時代の今でも、鉄骨だろうとグニャグニャに曲げてしまえるほどの力を、この融の体は持っているのだ。

融の結果は計測不能だった。




二番目は、熱などのエネルギーを操作する能力の訓練だ。

室温に調整されているガラスコップに入っている水の温度を変化させる訓練だった。水温は冷やしても、温めてもよい。

水には温度計が設置されており、目で能力による変化を実感できる。

融が水に向かって念じてみる。

制限時間が過ぎるまでやってみたけれど、水温は入浴にちょうど良い程度までしか変化しなかった。


また、計測をしていた教師を驚かす結果を出した生徒がいた。

今回は二人である。

一人は、やっぱり月城晶。彼女のコップはグラグラと煮立って蒸気が上がっている。やはり、炎を操って戦う歴史のように、物を熱する能力に最も長けている。


もう一人は、波川美鈴。こちらのコップは凍り付き、完全に固まっていた。

波川家は、熱やエネルギーを奪い運動を停止させる能力が得意な家である。


(仲の悪い二人らしい、対極の結果だな)


二人の目が合うと、にらみ合いが始まった。





三番目は情報伝達に関する能力である。

透視や千里眼、さらには会話や文字を使わない意思疎通、直感と呼ばれる能力だ。

とっさに危険を察知するなど、戦場でも非常に重要な能力なのに人気がない。非常に地味だからだ。

教師がめくるカードの絵柄を当てるという非常に地味な訓練だった。

カードの絵柄は、◎や☆なんて簡単なものではない。桐に鳳凰のような複雑な絵柄が数百種類もあって、単なる偶然で当たることはほとんど無い。


ちなみに、これも月城晶が12問中11問正解した。


それとは別に、融に予想外のことが起きた。

(僕の能力適性も高い。12問中10問も正解したぞ。


歴史上の転法輪融には第六感の適正は、ほとんど無かったはず。

これはむしろ、昔の僕が持っていた能力だ。

時間移動の能力は練習することができなかったから、その次に適性が高かった第六感をよく鍛えていた。戦場に出ることは無かったけど。

超能力は肉体だけではなく、精神による適性もあるのかもしれない。

とにかく、これはうれしい誤算だ。

より能力が強ければ、将来生き残る可能性も高まるはずだ!)


融が自分の結果に、喜んでいたら月城晶と目が合った。

彼女の顔は、勝ち誇った笑みを浮かべている。

(例え、天敵の能力の方が優れていたとしても……)





四番目は重力を操作する能力だ。

一番目の物を動かす能力と、似た結果が生じるけれど別物だ。

一番目が見えない手で物を持ち上げる感覚なのに対し、四番目は重力や空気抵抗などを遮る力だ。

重りの乗った量りで計測する。出来るだけ重さをゼロに近づける訓練だ。

またしても、月城晶は優秀な成績だった。

融は平均より少し高め。


今回一番うれしそうだったのは、雪村鏡子だった。

結果は平均より少し低い数値だった。けれども、彼女はこの授業で初めて超能力で何かを変化させられたのだ。


にこにこ。






五番目、今日最後の訓練は身体能力を強化する能力だ。

超能力者は誰でも、日常的に自分に対してこの能力を使用しているとされる。

超能力者の身体能力が、非能力者の身体能力よりも優れているのはそのためらしい。

でも、筋力測定をするというわけではない。

身体能力強化は、他人に向けて使うのが難しい能力とされている。

仲間の体力を回復させたり、傷をいやすことができるため、軍隊に限らず需要は多い。

一匹のカエルが入ったゲージが配られる。一定時間このカエルに念を送って、その後跳躍力を計測してみるという測定方法だ。

前もって計測していた数字との差を比べる。


注目の月城晶は、今回もトップだった。

しかし、数値的には二位とそれほど差は無い。


(ああ、そういえば月城晶は動物全般が苦手だという、真偽不明の歴史上の噂があったような。

見た感じ特にそうは見えないけれど、上手く誤魔化しているのかな?

弱点かもしれないから、確認してみたい。


でもそのせいで恨まれて、将来命を狙われたくはないな)


ちなみに、融の数値は平均以下だった。


 



さんざん能力を使ったのに、月城晶はケロッとしている。

同じく能力値の高かった、波川美鈴、転法輪融も平気だった。

しかし、生徒たちの中にはぐったりして、だるそうな生徒もいた。

特に能力値の低かった雪村鏡子は、疲れて眠たそうだ。


超能力は訓練すればするだけ、パワーや精度が上がるものが多い。

しかし、元の能力値が低ければ、そもそも訓練できる時間が短くなる。


能力値は銃の残弾数に例えられる。一日に練習に使える銃弾の数だ。一日に最高二百発撃てるものと、千発撃てるもの。

その練習の差が日々の成長に積み重なっていくのだ。


しかし、それは生まれ持った超能力の才能とは、また別物だ。

例え能力値は低くても、初めから水を一瞬で沸騰させる才能を持つ者だっている。

どんなに能力値が高い者でも、初めは、ぬるま湯程度にしか温められないこともある。練習次第でより早く、より熱くすることが出来るように近づいていくことは出来る。けれど、向いていなければ、かなりの時間と努力が必要となるのだろう。

才能も適性もなく、能力値が低ければ、なおさら時間がかかる。


しかし、能力値が高い血統を持つ者は大抵才能もあるので、この時代では混同されてしまいがちだ。


疲れ果て、机で涎を垂らしながら居眠りを始めてしまった雪村鏡子であったが、その体には英雄になるだけの才能が眠っている。

この時代はまだ能力値至上主義だが、二百年後には、それだけが超能力による戦いの全てではないと言われる時代になっているのだ。




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