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四方紀集  作者: 宗園やや
荷物を運んだ話
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46/48

07

クラマの道案内を頼りに村の中を進む一行。

旅をしていると、基本的に大通りか観光地しか寄らない。

余計な所を歩く程ヒマな旅じゃないし、治安的な問題も有る。

だがしかし、今歩いているのは用事が無ければ避けて通る様な地域だった。

周囲に建っているのはボロ屋だし、すれ違う人々の視線は鋭い。

『どうしてこんな所に余所者が居るんだ』と思っているに違いない、そんな視線。

スキを見せたら荷物をスられそうだ。


「うーむ。先に宿を決めておいた方が良かったな」


少女二人に絡んで来そうなゴロツキに威嚇を込めた視線を返しながらぼやくクラマ。

宿に荷物を置いて身軽になっていれば、ケンカをするにも逃げるにも都合が良い。


「来ちゃった物はしょうがないさ。さっさと仕事をこなして表通りに戻ろう。女の子達も気を抜かない様に」


そう言うカラスは背後に注意を向けている。

普段不真面目な彼がキチンとしているって事は、本気でヤバイ地域らしい。


「ねぇクラマ。本当にこっちで良いの?空気が悪過ぎるんだけど」


男の視線が苦手なコノハは、この辺りの行儀の良くない空気に当てられて居心地悪そうにしている。


「間違っていない筈だ。この辺りに一本しかない白椿が目印だと言われた」


ある方向を指差すクラマ。

そこにはボロい平屋の屋根から少しだけ先っぽを出している木が有る。


「あの家か。じゃ、さっさと行って来いよ。今は椿が咲く時期じゃないから、木を見間違いしてるかも知れないし」


「分かってるよ。コノハと得呼を頼んだぞ」


優男に少女二人を任せ、花の咲いていない椿の木に近付くクラマ。

木の種類を間近で確認した後、その脇に有る建て付けの悪そうな玄関ドアを慎重にノックする。


「ここは得駆さんのお宅で間違いないでしょうか。得駆さん?居(お)られますか?」


何度かノックした後、ようやく中からドアが開かれた。


「何よ、うるさいわねぇ」


下着姿の中年女性が顔を出す。

髪がボサボサで、寝起き顔。

もうすぐ夕方だと言うのに今まで寝ていたらしい。


「貴女が得駆さんですか?」


「そうだけど、あんたは?」


「我々はただの旅人ですが、ある人から頼まれて届け物を運んで来たのです。これを読めば事情が分かるそうです」


手紙を女性に渡したクラマは、半身で振り向いて得呼を手招きした。

頷き、恐る恐る中年の女性に近付く髪の長い少女。


「貴女が、私のお母さんですか?私です。得呼です」


身形の良い少女にそう言われ、目を丸くする女性。

こうして表情を引き締めれば、確かに得呼に似ている。


「は?得呼?得呼って、あの子、か……?」


「始めまして、ですね。少々訳有りで、本当の母親である貴女にかくまって欲しいんです」


「かくまう?何が有ったの?」


話が長くなりそうなので、手刀を間に割り込ませるクラマ。

そして得呼に頷いて見せる。


「では、我々の仕事はこれで完了だ。達者でな。今日明日中なら大通りの宿付近に俺達は居るから、何か有ったら探すと良い」


「はい。ありがとうございました」


深々と頭を下げる得呼と別れ、大通りに向かって歩き出す一行。


「ねぇクラマ。得呼をあそこに残して大丈夫かな。なんか凄い胸騒ぎがするんだけど」


心配そうに振り向きながら言うコノハ。

しかしクラマはゴロツキ達を威嚇しながらも歩みを止めない。


「地域的に危ないかも知れないが、役所で住所を調べられるくらい身元がハッキリとしている母親の許だ。悪い様にはしないだろうさ」


「そう、かな。うん、そうよね。でも……」


後ろ髪を引かれている様子のコノハの頭を撫でるカラス。

そのまま鷲掴みにし、前を向かせる。


「俺達は俺達の仕事をすれば良いさ。それが結果的に得呼の為になる、かも知れないしさ」


「どうして?」


「ああ言う悪い部分を一部の裏通りに押し込めておくのも領主の力量だからさ」


「なるほど。でも、その悪い部分に、今、得呼を残して来たんだけど……」


「それが得呼の計画だったんだから、俺達はそうするしかないじゃん」


肩を竦めるカラス。

クラマも溜息を吐く。


「不満が有るなら最初に断っておくべきだった。専門外の仕事を受け、それを無事に終えてから後悔するのは無意味の極みだ」


彼にしては珍しく、呆れた様な声色。

確かに彼が言っている事に間違いは無い。

終わった事に拘り続けるコノハが全面的に悪いんだろう。


「そうね。分かったわ。じゃ、宿を探しましょうか」


コノハがようやく気持ちを切り替えると同時に、一行は大通りに出た。

人が多い大通りは、先程までとは打って変わって爽やかな活気に満ち溢れていた。

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