06
隣村までの短い間とは言え、同性同世代の旅の仲間が出来た事でコノハの口数が増えた。
クラマは無口、カラスは軽口なので、慢性的な雑談不足のせいでもある。
「得呼の弟さんって、どんな人なの?良い領主になれそうなの?」
クラマと共に軍馬に跨っている得呼も気さくに応える。
「お父様似の優しい子です。きっと良い領主になれると思います。私よりも」
「信頼してるのね」
「ええ。半分ですが、血の繋がった姉弟ですもの。両親よりもあの子の事を知っています」
「うんうん。姉弟だもんね。私にも心から信頼出来る兄が居るから、その気持ち良く分かる」
「まぁ、コノハさんにも。きっと素敵な人なんでしょうね」
「すっごい素敵だよ!本当ならこの旅は兄さんが……、あ」
思わず自分達の正体を喋りそうになり、クラマに睨まれるコノハ。
だから無理矢理話の流れを変える。
「でも、良い領主ってのは貴重だよ。今まで色々な村に寄ったけど、そこまで信頼出来る領主はなかなか居なかった」
身内贔屓が入っているとしても、得呼の人柄と村の平和具合から悪い領主ではないと予想出来る。
若いコノハでも、それくらいは分かる。
「そうなのですか?では、弟が領主になったら、今の自分を忘れない様に釘を差しておきます」
「それが良いよ。村人達の平和な暮らしが有ってこその領主なんだから」
「はい」
お昼御飯は歩みを止めずに馬上で食べ、予定よりも早く進む一行。
コノハとカラスは急ぐ必要は無いと思うのだが、クラマは一刻も早く隣村に行きたい様だ。
仲間じゃない人間が自分の馬に跨っているのが落ち着かないらしい。
まぁ、雨が降らない限りは水の補給が出来ない平原なので、急いで損は無いだろう。
ここ数日、ヒマが有れば飲み水の事ばっかり考えている気がするが、それくらい大事だから仕方が無い。
そのお陰も有って、お昼を過ぎて小腹が空いて来た頃合いに遠原村に着いた。
いつも通りに村の入り口に有る馬小屋に馬を預け、荷物を下す。
「このつづらはどうしようか。得駆の家まで持って行くか?」
毛布入りのつづらを下しながら訊くクラマ。
「どうしましょう。空なので私でも運べますが、大きいから先方のご迷惑になるでしょうか」
「得呼が要らないのなら、馬小屋の管理人に処分して貰う事も出来るが」
「それが出来るのなら、そうしましょう。お願い致します」
「分かった」
頷いたクラマは、馬小屋の管理人につづらを預けた。
こうすれば、後は彼等の自由にしても良い。
売るなり、持って帰って使うなり、捨てるなり、どう扱っても構わない。
貧しい村なら、これが大事な副収入になったりする。
だから馬小屋の番は競争率の高い職業であり、旅人が信頼出来る施設になり得ている。
馬に悪さをすれば、速攻で交代させられるからだ。
しかしこの村は前の村と同じ様に平和らしく、村内を行き交う村人達の身形にみすぼらしさは無い。
「ここも良い村らしいな。では得駆を探すか。ああ、そこのお方。お伺いしたいのですが」
近くを通り掛かった壮年の男性を呼び止め、得駆の家を訪ねるクラマ。
その男性は得駆を知らなかったので、代わりに役所が有る場所を教えて貰った。
愛人とは言え、人格者な領主の子を産んだ女なら役場に住所が登録してある筈だ。
登録されていなかったら、その時にどうするかを考えよう。
「得呼は、この村に来た事が有るのか?君の顔を知っている者が居るのかが気になるのだが」
村の中心付近に有るらしい役所に向かいながら得呼に話し掛けるクラマ。
「いえ、来た事は有りません。母でさえ私の顔を知らないと思います」
「なら良かった。君の村から警察が追って来たりしていたから、誘拐の容疑で逮捕される可能性が有るのだ。役場には警察も居るだろうし」
「あ、警察によって連れ戻される事も有り得るんですね。一応、お父様に置き手紙をして来ましたから、貴方達が逮捕される事は無いと思いますが」
「しかし絶対は無いから、俺が一人で役場に行って来る。得呼はコノハと一緒に近くの店でおやつでも買っておいてくれ」
「じゃ、俺が護衛するよ。行こう行こう」
女の子二人の背中を押し、商店街の方に向かうカラス。
この村の名物は得呼の村と同じく肉まんだったので、それを人数分買った。
クラマが戻って来てからそれを食べたら、タケノコではなく、シイタケが入っていた。
「同じ物かと思ったけど、風味が違って美味しいわね」
大きな口で肉まんを齧るコノハ。
一方の得呼は慎ましく肉まんを啄んでいる。
「ええ。驚きです」
「同じ女の子なのに、行儀の良さが全然違うなぁ……」
「ん?カラス、何か言った?」
「別に。なぁ、クラマ。食べたら真っ直ぐ得駆の家かな?」
「そうだな。日が暮れる前に宿も探さないといけないからな」




