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四方紀集  作者: 宗園やや
荷物を運んだ話
41/48

02

干し肉やドライフルーツ等の保存食を買い込んだ一行は、村の入り口に建っている馬小屋へと向かった。

こうした旅人向けの施設は、村を護る屈強な門番が管理人を兼ねて陣取っている事が多い。

しかしこの村には馬泥棒の心配が無いのか、みすぼらしい格好の馬子が馬の番をしていた。

そして、先程の老人も一緒に待っていた。

老人の脇には竹で編まれたつづらが置いてあり、(ひと)りでに開かない様に帯の様な幅広の紐で十字に縛られている。


「それが件の荷物ですか?大きいですな。どれくらいの重さかを確かめる為に持ってみても宜しいですかな?」


「どうぞ。ただし、乱暴には扱わないでください」


「分かりました。どれ」


慎重につづらを持ち上げる大男。

見た目は着物を入れるつづらそのものだ。

季節の衣装を詰め込んで押し入れに仕舞って置くのが正しい使い方の物だろう。


「ふむ。確かに重いですが、馬に乗せられない程ではありませんな。しかし座りが悪いですな。中にスイカでも入っているんですか?」


持ったつづらを左右に揺する大男。

その動きに一歩遅れる感じで中に入っている物が動く。

布に包んで固定している様だが、効果があるとは思えない。


「あ、あの、乱暴には扱わないでくだされ」


焦る老人。

よほど大切な物なのか、顔が青褪めている。


「これくらいで壊れる物なら、馬には乗せられませんな。馬上はこれより揺れますから。本当に我々に頼むんですか?」


言いながらつづらを地面に置く大男。

その動作は貴重品を扱う様に優しい。

ここで依頼品を壊したら、逆に賠償金を取られるかも知れないからだ。


「確かにそうですな。では、お願い致します。届け先は遠原村の『得駆(えく)』ですじゃ。彼女にこの手紙を見せれば依頼はお終いですから」


手紙と共に小袋を差し出す老人。

それらを受け取った大男は、小袋の中身を確認して頷いた。

この国の通貨、二十五歩銀貨が三枚入っている。

三倍の報酬だから銀貨三枚と言う事なのだろう。

お金が欲しくて引き受ける訳ではないので、特に不満を言わずに小袋を懐に仕舞った。


「確かにお金を頂きました。では、遠原村の『得駆』さんに荷物と手紙を届けましょう。ただし」


釘を指す様に厳し目な声で言う大男。


「我々は、あくまで自分達の旅が第一です。荷物は大切に運びますが、絶対に届けられる保証は有りません。キャンセルするなら今の内ですが?」


「いえ。貴方方を信頼し、お任せします。きっと得駆に届けてください」


曲がった腰を折り、深々と頭を下げる老人。

黙って成り行きを見守っていた少女が話の終わりを察し、並んで立っている優男に指示をする。


「じゃ、打ち合わせ通り、買い込んだ食料は私とカラスの馬に乗せましょう。お願いね」


「オッケー」


カラスと呼ばれた優男が、自分達の荷物を持って馬小屋に入って行った。

それを見送りながらつづらの前に立つコノハ。


「クラマ。思ってたより大きいけど、馬に乗せられるの?」


「座りが悪いからきつく縛らないといけないが、問題はそれくらいだろう。俺の馬は軍馬だから、重さは問題無い」


クラマと呼ばれた大男は再びつづらを持ち上げ、そのまま馬小屋の中に入って行った。

この場に残ると老人と二人きりになってしまって気まずいので、コノハも馬小屋の中に入る。

コノハの白馬とカラスの馬にはすでに荷物が括り付けられていて、優男が馬子に馬番の謝礼を支払っていた。


「そのお宝を乗せたら出発出来るよ」


「分かった」


軍馬に載せられている鞍の後ろにつづらを縛り付ける大男。

本来は武具を積むスペースなので、四角い物を乗せる分には問題は無い。

その代わり、いつもそこに載せている荷物が他の二頭に分散されて負担が増える為、馬が歩くスピードが遅くなる。

通常なら一泊二日で隣村に着くらしいのだが、そのせいで一泊増えるかも知れない。

しかし急ぐ旅ではないし、あそこまで必死にお願いされたら無下に断る事は出来ないとコノハは思う。

ついでで出来る仕事だし。


「よし、積み終わったぞ。出発しよう」


言うなり、一番に馬に跨るクラマ。

頷いたコノハとカラスも自分の馬に跨る。

そして馬を歩かせて馬小屋を出ると、老人が心配そうに一行を見上げた。


「宜しくお願いしますじゃ。きっと荷物を得駆の許に届けてくだされ」


「無事に届けられる様に努力します。では」


馬上で頭を下げたクラマは、カラスに目配せをした。


「太陽の位置から見て、あっちの方向に真っ直ぐ行けば良いみたいだね。オッケーかな?クラマ」


「承知した」


「じゃ、行くよ」


カラスが先導し、視界の全てが地平線の平原へと進む一行。

村の入り口に残された老人は、小さくなって行く三頭の馬をいつまでも見送っていた。

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