01
丈の短いオレンジ色の着物を身に纏っている十代半ばの美少女が、手に持った饅頭を見詰めて考え込んでいた。
前髪を留めているブドウ型の髪飾りにはむっつの緑色の宝石が飾られており、大きな饅頭から立ち上る湯気がそれを曇らせている。
「どうした?コノハ。熱いのが苦手だったか?」
仲間である少女の様子がおかしい事に気付いた大男が、食堂の店主に饅頭の代金を払いながら振り向いた。
「ううん、そうじゃないの。ちょっと思ったんだけどさぁ」
少し大き目のズボンを穿いている少女は、ポニーテールを揺らしながら店先の長椅子に座る。
「平和な村の食べ物は、凄く美味しそう。そうじゃない村の食べ物は、何だか食欲をそそられない。そう思わない?」
「あー。そう言うの、あるねー」
先に長椅子に座っていた優男が饅頭に齧り付いた。
そして熱そうに咀嚼しながらお喋りを続ける。
「平和なら村人に心の余裕が生まれる。結果、料理に掛ける一手間が増える。って感じなのかもね」
「なるほど、心の余裕か。余計な心配事が無ければ食に意識を割けるって感じかな?納得出来る考えだね。じゃ、いただきまーす」
優男に頷いてから自分の饅頭に齧り付く少女。
皮はプリプリホクホク。
中に詰まっている挽き肉にはジューシーな肉汁がタップリと含まれていて、タマネギの甘さが際立っている。
時々顔を出すタケノコの歯触りも心地良い。
「ふほー!おいひぃ!」
美少女の笑顔を見て、食堂の店主も料理人冥利に尽きると頷いている。
その隣に大男も座り、三人並んで饅頭を頬張る。
「あー、美味しかった。ごちそうさま!」
満足した少女は元気良く立ち上がる。
「さてと。ヒマになった訳だけど、どうする?お昼過ぎたけど、もう次の村に行く?」
「そうだな。この辺りは平地地帯だから、馬の負担も少ない。わざわざ早朝出発にするメリットも無いだろうな」
もう饅頭を食べ終わった大男の視線を受け、優男は天を仰いだ。
目の前に広がる大通りを行き交う人々の表情には何の問題も無い。
「次の村は一泊二日程度の近い距離だし、天気も良いし。宿代をケチって出発しても良いな」
「じゃ、宿を早めにうっちゃって出発しましょうか。決定!」
「あのー。旅人さん。少々宜しいですかな?」
旅立ちの気合を入れた少女の出鼻を挫くかの様に一人の老人が話し掛けて来た。
応えるのは大男。
「何かご様ですかな」
「立ち聞きして申し訳ない。隣村に向かいなさるとの事ですが、それは遠原村で宜しいですかな?」
地理に詳しい優男を見る大男。
優男は無言で頷く。
「その様ですな。それが何か」
「旅人さん方に、ひとつ仕事を頼みたい。遠原村に荷物を運んで貰いたいんですじゃ」
「荷物運び、ですか。それならば信頼の置ける郵便隊に任せた方が。旅人等に任せては盗難の恐れも有ります」
冷静に正論を言う大男から視線を逸らす老人。
「それは、その、訳有りでしてな。あまり表立ってはお願い出来ないのですじゃ。旅人さんなら誰にも知られずに荷物を運び出せるじゃろう?」
顔を見合わせる旅人三人。
今にも断られそうな雰囲気を察し、取り付くろう様にお願いを続ける老人。
「勿論、危険な物ではない。不法な物でもない。報酬は、郵便隊へ頼む金額の倍、いや、三倍払いますから」
「中身は何ですか?」
「それが言えないから旅人さんにお願いするんじゃ」
「うーむ。いくらなんでも怪し過ぎますぞ」
「若いお嬢さんを連れた旅人なら、持ち逃げする様な悪人ではないでしょう。貴方方が最適なのですじゃ。お願いします!お願いします!」
その必死さに押され、困った顔で腕を組む大男。
「どうする?コノハ」
コノハと呼ばれた少女は肩を竦める。
「不法じゃない物を運ぶだけなら構わないんじゃない?旅のついでだし。だけど、馬に乗せられないのは絶対に無理よ」
「そうですな。大きさはこのくらいで、重さは、大体、四十キロ、程度ですかな」
身振りで荷物のサイズを示す老人。
思ったより大きいが、馬に乗せられなくはない程度だった。
「わりと重いな。コノハをもう一人連れて行くくらいか」
そう呟いた優男を横目で睨む少女。
女の子の体重の話をするとは無神経な奴め。
そんな視線を無視し、だらしなく歩いて大男の横に出る優男。
「でも、俺は好奇心の塊だから、村の外で中身を見るかも知れないよ?」
「それは構いません。村から離れさえすれば、中をご覧になっても」
「何だそりゃ。この村の人に見られたらまずい物って訳?」
「そうなりますな。で、お返事の方は……」
老人の上目使いを受け、組んでいた腕を下す大男。
それから少女と優男の目を順繰りに確認する。
仲間に反対の意思表示が無い為、お願いを受ける事にした。
「分かりました。荷物運びをしましょう」
「おお!ありがとうございます!」
喜色を浮かべる老人に厳しい顔を向ける大男。
「我々はそこらの商店で保存食を買い込んだ後、すぐに出発します。それに間に合いますかな?」
「ええ、すぐに準備致します。待ち合わせはどこに?」
「村の入り口に有る馬小屋で。荷物を馬に括り付ける紐を忘れずに」
「分かりました。では、早速準備して参りますじゃ」
深く頭を下げた後、年寄りらしい速度で去って行く老人。
それを見送ったコノハは、頭の中が空っぽになっている事に気付いて顔を引き締めた。
何の前触れも無く見も知らぬ人から仕事を振られると言う経験が無かったので、静かに混乱していた様だ。
「じゃ、私達も準備しましょう。のんびりしていたら日が暮れちゃう」
コノハの言葉を受け、男二人が頷いた。




