羊さんからお年賀ついた
羊の世界にとりっぷ!
さくらさくらさくら様に捧ぐ。
拝啓
地球世界のお父様、お母様。
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
こちらで迎えた新年は、子パンダちゃんたちのモフモフ団子に挟まれて、のんびりまったりな寝正月と相成りました。
……他にすることもないので。
紅白も除夜の鐘もないお正月。
そもそも大熊猫の国の新年は時期が違うのですが。お母様のお正月料理が食べられなくて、密かにしょんぼりしていた私に、双子パンダが無駄なマメマメしさをもって五段重箱に渡る御節やお雑煮を作ってくれました。
我が家のものとはやっぱり違うけれど、何も言わないのに私の気持ちを汲んで作ってくれたことがちょっぴり嬉しかったりとか来年はうちの味を私が作って教えてあげようかなとか、…………ハッ!? いえいえ、ほだされてなんかいませんよ! いませんってば!
コホン。
こうして瀬名は元気にやっておりますので、どうかお父様もお母様もあまり心配なさらず、お元気でお過ごしください。
大熊猫の国から娘瀬名が、お二人の今年一年の御多幸をお祈りいたします。
「嫁、嫁~」
「……セナ」
日当たりのいい中庭で、ゴロゴロしている子パンダたちのオナカを手当たり次第に撫でくりまわしていると、妙な迫力を漂わせた双子がやって来た。
「…………なに」
満面の笑みが気色悪い弟と、不吉な予感しか感じない麗しの笑みを浮かべた兄を胡乱げに見やる。
「先ほど羊の国からこの様な物が届きましてね?」
「あそこの落人のお嬢ちゃんが、セナにどうぞって作ってくれたらしいぞ」
代わる代わる説明しながら、手にした白いふわふわもこもこを私に差し出してくる。
なんと!
羊の国からということは、正に100パーセント羊毛!? マフラーかしら、一抱えってことはケープとか膝掛けとか……!
「うわあ、お礼言わなきゃ。ええと、ええと、羊さんとこの娘さんって、たしか……めりーちゃん?」
「めえだよ」
「メイさんですよ」
「お礼状書かなきゃ! それくらいは届けてくれるでしょ?」
そうですね、セナがこんなに喜んだことをお教えしなければ、と珍しく兄が同意して。
私自身が外に行ったり他人と交流することを許してくれなかった心の狭い双子は、最近やっと他の国のことも教えてくれるようになった。
物資なんかをやり取りしているお店の人とか、何度かここに来ているらしいのに、ちっとも会わせてくれないけど。
他の落人さんたちが現在どうしてるとか、ときどき話してくれる。
こうして贈り物を渡してくれるってことは、排他的態度、軟化してるよね? そのうち皆様と会ったりできるかも、と密かに期待しつつ、わくわくと荷物を受け取る。
・・・・・・。
無言になった私に、双子がしたり顔で頷く。
「兎年なので、落人はこの格好をするしきたりなのです」
「セナが着たところ是非見たいって言ってたんだが、溺愛一直線がうちには来させられねえって言い張ったらしくてよ」
「ですから、私たちが堪能……いえ、ちゃんとセナが着用したことを確認して報告して差し上げようと」
「うさぴょん~」
「よめさま、うさ~?」
「ぱんだ、ならないの~?」
「うさなの~?」
子パンダちゃんたち、ちょっとお黙りなさい。
私は頭上から降ってくる邪な二対の視線を必死で黙殺し、羊の国のめえちゃんからの贈り物をじっとり眺めた。
ふわふわの白い帽子にピョコリとついた二つの耳。
この季節じゃなくても個人的にへそ出しはキツいと思うの主にぷよ肉が、なモコモコ上衣。
冷えの味方、毛糸のショートパンツに芸の細かいボンボン尻尾。
更にぬくぬくレッグウォーマーも付いて、なんて見事にキュートな、
……ウサギさんコスチューム……!
「ふふ、きっとよく似合いますよ。今度は是非パンダを」
「ん? ここで着替えるのは恥ずかしいってんなら、奥に行くか?」
故郷を同じくする少女の力作に、私のHPがザックリ削られる。
こんなラブリーかつキュートなアイテムを身に付けた日にゃー、誰とは言わないけどどこかの俺様変態双子パンダに捕食されること間違いなしなのですが……! というか今現在めちゃくちゃ不穏な眼差しが!
こないな恐ろしげなもの見なかったふりしちゃいたい。
だがしかし。
編み物の素養がなくてもわかる、丁寧に編まれたその一目一目に籠められた、作成者の純粋な好意が、それを私に許さない。
ヤツらさえいなければ、“うわ~い、かわゆい! あったかそう~(はぁと)”なんて照れつつも嬉々として着用したのに!
なに? 新年早々なにを試されているの、私……!
「……さあ、セナ?」
「嫁が着てくれないと、お嬢ちゃんガッカリするぜぇ?」
「よめさまうさうさ~」
「もふもふおそろい~」
ロクでもない熱意を持って双子が。
キャッキャとはしゃいで無垢な子パンダたちが。
期待に満ち満ちた瞳を、私に向けてくる。
どうする。
どうするよ私!!
まだ会ったこともないのに、無邪気な少女が、えへっと私に笑いかける幻が見える。
着るべきか
着ざるべきか。
ウサギ耳帽子を握りしめ、私は究極の選択を迫られた――
その後のことは、皆様のご想像にお任せ致します……。
Happy New Year!
May this year be happy and fruitful.