薄暮と漣、交わらぬ時代の揺籠・レン編
*過去編『○○年前』の裏話*
第三葉:退屈しのぎのゲーム、バグを待つ夜
「……もう千年は経ったな」
誰もいない白磁の神殿のテラス。
レンは一人、母親の遺してくれたレシピを元に、父親の権能を使って、真っ白な「ギモーヴ」をフニフニとこねていた。
最初の数百年は、さすがのレンも「親父の嘘つき、三日ってレベルじゃねぇだろ」と、静まり返る神殿の中で深い孤独のノイズに呑まれそうになった。
一歩間違えれば、世界を綺麗なまま完全停止させようとしたアニマのように、寂しさで世界を心中させる破壊神になっていてもおかしくなかった。
だが、レンの肉体には、母親から貰った『人間の温かい心』と、『親から愛された記憶』が、完璧な防壁となって流れていた。
(親父もお袋も、俺を捨てたんじゃない。あっちの都合でちょっと手こずってるだけだ。……なら、俺は俺で、この退屈な箱庭を最高に楽しんでやろうじゃん)
レンは孤独を悲しむのを止め、それを「いつか現れる最高の相棒を待つための、ちょっと長い前座ゲーム」として楽しむことに決めた。
世界をチェス盤のように眺め、地脈のエラーを修正し、たまに人族の街へ降りては美味しいものを食べる。
そして、留守番を始めて数千年が経った、ある霧の深い夜。
何気なく立ち寄った辺境のボロ酒場『薄明の止まり木』の奥で、レンはついに見つけたのだ。
国を枯らす呪いを背負いながらも、民のために冷徹に計算を巡らせ、レンの差し出したプリンを「じぃぃっとガン見」している、最高に美しくて腹黒い精霊の王太子――アルヴィスを。
(――待たせたね、親父、お袋。やっと見つけたわ。俺の数千年の退屈を、根こそぎハッピーエンドに引っ繰り返してくれる、最高のバグをさ)
ボロ酒場の片隅で、ニヤリと不敵に笑ったレンの瞳には、もう孤独の影など一ミリも残っていなかった。
二人の運命の歯車が、この瞬間、最高に騒がしい音を立てて噛み合ったのだった。




