第三十八葉:薄暮の王座、漣(レン)の特等席
最終回です。
翡翠の揺籠の歴史において、これほど美しく、これほど涙と歓声に満ちた即位式はなかった。
世界樹の葉が祝福の輝きを放ち、光と闇の合わさった美しい薄暮の花が満開に咲き誇る中、アルヴィスは気高き白銀の甲冑を纏い、緑の玉座へと腰掛けた。
その瞳には、もはや孤独な影など微塵もない。光と闇を完全調和させた、真の薄暮の王としての、揺るぎない威厳が宿っていた。
集まった数万の民と、平伏する臣下たちを前に、アルヴィスはどこまでも深く、美しい聲音で語りかけた。
「我が愛すべき民、そして翡翠の揺籠の命たちよ。私は呪いを乗り越え、約束通りこの王座へ還ってきました。……ですが、これは私一人の力ではありません。孤独な彷徨の果てに、私の背中を命懸けで守り、ここへ導いてくれた、無二の仲間がいたからこそです」
アルヴィスはすっと右手を差し出し、玉座のすぐ隣、誰よりも近い『特等席』に佇む黒髪の青年を示した。
白磁の神殿での激闘からすっかり回復し、いつも通りニヤニヤと笑っているレン・ヴァルハイトの姿を。
「紹介しましょう。彼は人族の剣士であり、世界のシステムの歪みを正す『偉大なる管理者』。――そして何より、これからの長き数千年の時を、私と共に歩んでくれる、私の唯一無二の相棒です」
アルヴィスの堂々たる宣言に、エデンの民たちから、割れんばかりの感謝と祝福の大歓声が巻き起こった。
廃太子を提訴していた古い重臣たちも、レンの前に深く頭を垂れ、国を救った第二の英雄として最大級の敬意を表している。
厳かな即位式が終わり、夜の帳が降りた静かな玉座の間。二人きりになった空間で、アルヴィスは大きくため息を吐き、頭の宝冠を窮屈そうに外した。
完璧な王の仮面を脱ぎ捨て口から出たのは、最高に信頼の籠もった本音だ。
「……はあ、やっと終わった。大号令の次はこれか。レン、お前のせいでどれだけ俺が恥ずかしい思いをしたか、分かってんのか」
「あはは! でもさ、民の前で『俺の唯一無二のバディです』って言った時のアルヴ、めちゃくちゃ顔赤かったぞ?」
レンは玉座の肘掛けに肘を突き、楽しそうにアルヴィスを覗き込んだ。
「っ……、それは、お前があまりにもニヤニヤしているからだ! 万死に値するぞ!」
「はいはい、万死万死。……あ、それより王様。即位祝いに、親父のレシピから新しいの作ったんだわ。『クレープ』と、『ナッツのカラメリゼ』」
レンが手際よく物質を再構成して差し出したのは、薄い生地にたっぷりのクリームを包んだ菓子と、カリカリに糖衣された香ばしいナッツだった。
「……これが、くれーぷ」
アルヴィスはゴクリと喉を鳴らし、一瞬だけプライドを守るようにレンを睨みつけたが、その瞳はすでに、お菓子を完璧にロックオンしていた。
ひったくるようにクレープを大口で頬張る王。
濃厚な甘みが口いっぱいに広がり、彼の端正な眉間が、ふにゃりと分かりやすく、最高に幸せそうに緩んでいく。
「――っ、美味っ……!!」
「くくく、本当に現金な王様だなぁ!」
レンは嬉しそうに笑い、アルヴィスの隣で、世界樹の窓から見える美しい星空を見上げた。
呪いは解け、世界は救われた。
これから始まる、数千年に及ぶ永い永い未来。
エデンの国は、この腹黒くも優しい王と、隙のない計算高い神の仔によって、どんな歪みにも負けない、真の楽園として栄え続けていくだろう。
たとえこの先、どんな過酷な運命が待ち受けていようとも。
ナッツのカラメリゼを凝視し、クレープを頬張るこのささやかな日常がある限り、二人は笑顔で世界の理ごとひっくり返していく。
「数千年の退屈しのぎ、まだまだ終わらせないからな、アルヴ」
「……当たり前だ。俺が飽きるまで、どこまでも付き合ってもらうぞ、レン」
二人は不敵な笑みを交わし合い、至高の甘味とともに、輝かしい未来へと歩みを進めていった。
――システム・ロック…グランドフィナーレ…
拙い作品を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
以降、『おまけ』と『番外編』を掲載していきます。
本編の『ハラハラドキドキ、時々ワクワク』や、番外編の『抱腹絶倒、翌日腹筋崩壊確定』に、もう少しお付き合いください☻




