↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/75

黎明の種火、本当のシナリオ

それは、最果ての神殿で教皇アニマが消滅し、アルヴィスの『純白の枷』が完全に消去された、まさにその瞬間の出来事であった。


遥か遠く、世界の頭頂にそびえる大樹の国――『翡翠の揺籠(エデン)』。


夜の帳が降りた世界樹の根元で、毎日欠かさず祈りを捧げていた子供たちや大長老、そして民たちが、一斉にハッとして息を呑んだ。


民たちの涙と祈りを見守り続けてきた、あの金白色と漆黒の『光と闇の合わさった花』。

その花が突如として、まばゆい黄金色と深い夜の輝きを放ちながら、一気に大輪となって狂暴なほどに美しく咲き誇ったのだ。

不気味に明滅していた呪いの気配は完全に消え去り、そこにあるのは、世界を優しく包み込むような真の薄暮の温もり。


「……呪いが、消えた。アルヴィス様のマナが、真の調和を果たされたのじゃ……!」


大長老が震える声で杖を突き、涙を流す。古い重臣たちも、その圧倒的な黎明の輝きを前にして、己の浅はかさを恥じるように次々と膝を突いた。


「アルヴィス様が、勝たれたのだ! 私たちの優しい王太子様が、呪いを打ち破ってくださったぞ!」


夜空に響き渡る、エデンの民たちの歓喜の歌声と祝福の涙。


彼らは確信していた。

自分たちが愛し、信じ続けたあの高貴な王太子が、もうすぐこの緑の王座へと還ってくることを。


――その民たちの圧倒的な歓喜のマナを、世界の最果ての崩壊した祭壇で、レンは静かに受信していた。


「……あはは、あいつら、本当に大騒ぎだわ」


レンはアルヴィスに肩を貸され、崩れた石座に腰掛けながら、血のついた口元を拭ってニヤリと笑った。


「レン? さっきから何をブツブツと……。まだ頭のシステムがバグっているのですか。やはり無茶な計算をするから――」


「お前さ、本当に自分の価値に関してはバカだな、アルヴ」


レンはアルヴィスの言葉を遮り、最高に優しい管理者の目で相棒を見据えた。


「お前、自分が国を枯らして追放された『疫病神』で、もう廃太子されて誰も待ってないと思ってただろ。……全部ハズレ。大ハズレのバグシナリオだよ」


「なっ……何の話をして――」


「エデンの民はさ、一秒だってお前を忘れてないよ」


レンはそっと手を伸ばし、アルヴィスの胸元をポンと叩いた。


「お前が残したマナの花を囲んでさ、毎日毎日、お前が還ってくるのを涙を流して待ってたんだよ。古いお偉いさんがどれだけ騒ごうが、あいつらの王太子はお前だけだってさ。……ほら、今も世界樹の端末から、お前への感謝の歌(声)がここまで響いてきてるわ」


その真実を突きつけられ、アルヴィスは瞳をこれ以上ないほど丸く見開いた。

自分が民のために全てを捨てて背負った孤独。それが、民たちの愛によって、最初からずっと救われていたのだと、数千年の寿命を生きる彼の魂がようやく理解した。

フードの奥から、ポロポロと、大粒の涙がアルヴィスの頬を伝って流れ落ちる。

民の愛を知った一人の青年としての、嬉しさと救いに満ちた涙だった。


「……そう、か。皆、俺を……待って、くれて……」


「当たり前だろ。お前が命懸けで守った、最高の楽園(エデン)だぞ」


レンは嬉しそうにアルヴィスの頭をガシガシと撫で回し、気合を入れて立ち上がった。


「さあ、準備は万端だ。お前をあの緑の王座へハッピーエンドで還してやるって言ったろ? ――往こうぜ、アルヴ。還るべき家へ」


「……ああ。付き合ってもらうぞ、レン。俺の、…無二の友よ」


涙を拭い、最高の気高さと不屈の笑みを取り戻した薄暮の騎士。


民たちの変わらぬ愛を胸に、二人はついに、約束の楽園へと凱旋するために力強く歩みを進めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。