黎明の種火、本当のシナリオ
それは、最果ての神殿で教皇アニマが消滅し、アルヴィスの『純白の枷』が完全に消去された、まさにその瞬間の出来事であった。
遥か遠く、世界の頭頂にそびえる大樹の国――『翡翠の揺籠』。
夜の帳が降りた世界樹の根元で、毎日欠かさず祈りを捧げていた子供たちや大長老、そして民たちが、一斉にハッとして息を呑んだ。
民たちの涙と祈りを見守り続けてきた、あの金白色と漆黒の『光と闇の合わさった花』。
その花が突如として、まばゆい黄金色と深い夜の輝きを放ちながら、一気に大輪となって狂暴なほどに美しく咲き誇ったのだ。
不気味に明滅していた呪いの気配は完全に消え去り、そこにあるのは、世界を優しく包み込むような真の薄暮の温もり。
「……呪いが、消えた。アルヴィス様のマナが、真の調和を果たされたのじゃ……!」
大長老が震える声で杖を突き、涙を流す。古い重臣たちも、その圧倒的な黎明の輝きを前にして、己の浅はかさを恥じるように次々と膝を突いた。
「アルヴィス様が、勝たれたのだ! 私たちの優しい王太子様が、呪いを打ち破ってくださったぞ!」
夜空に響き渡る、エデンの民たちの歓喜の歌声と祝福の涙。
彼らは確信していた。
自分たちが愛し、信じ続けたあの高貴な王太子が、もうすぐこの緑の王座へと還ってくることを。
――その民たちの圧倒的な歓喜のマナを、世界の最果ての崩壊した祭壇で、レンは静かに受信していた。
「……あはは、あいつら、本当に大騒ぎだわ」
レンはアルヴィスに肩を貸され、崩れた石座に腰掛けながら、血のついた口元を拭ってニヤリと笑った。
「レン? さっきから何をブツブツと……。まだ頭のシステムがバグっているのですか。やはり無茶な計算をするから――」
「お前さ、本当に自分の価値に関してはバカだな、アルヴ」
レンはアルヴィスの言葉を遮り、最高に優しい管理者の目で相棒を見据えた。
「お前、自分が国を枯らして追放された『疫病神』で、もう廃太子されて誰も待ってないと思ってただろ。……全部ハズレ。大ハズレのバグシナリオだよ」
「なっ……何の話をして――」
「エデンの民はさ、一秒だってお前を忘れてないよ」
レンはそっと手を伸ばし、アルヴィスの胸元をポンと叩いた。
「お前が残したマナの花を囲んでさ、毎日毎日、お前が還ってくるのを涙を流して待ってたんだよ。古いお偉いさんがどれだけ騒ごうが、あいつらの王太子はお前だけだってさ。……ほら、今も世界樹の端末から、お前への感謝の歌がここまで響いてきてるわ」
その真実を突きつけられ、アルヴィスは瞳をこれ以上ないほど丸く見開いた。
自分が民のために全てを捨てて背負った孤独。それが、民たちの愛によって、最初からずっと救われていたのだと、数千年の寿命を生きる彼の魂がようやく理解した。
フードの奥から、ポロポロと、大粒の涙がアルヴィスの頬を伝って流れ落ちる。
民の愛を知った一人の青年としての、嬉しさと救いに満ちた涙だった。
「……そう、か。皆、俺を……待って、くれて……」
「当たり前だろ。お前が命懸けで守った、最高の楽園だぞ」
レンは嬉しそうにアルヴィスの頭をガシガシと撫で回し、気合を入れて立ち上がった。
「さあ、準備は万端だ。お前をあの緑の王座へハッピーエンドで還してやるって言ったろ? ――往こうぜ、アルヴ。還るべき家へ」
「……ああ。付き合ってもらうぞ、レン。俺の、…無二の友よ」
涙を拭い、最高の気高さと不屈の笑みを取り戻した薄暮の騎士。
民たちの変わらぬ愛を胸に、二人はついに、約束の楽園へと凱旋するために力強く歩みを進めた。




