↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/75

第三葉:翡翠の涙、薄暮の旅立ち

世界が、融解していくようだった。

アルヴィスを中心に解き放たれた『薄暮』の魔力は、絶対的な質量となって教団の『純白の結界』を押し潰し、狂信者たちの肉体を次々と虚空へと消し去っていく。


光と闇が超高密度で混ざり合った混沌の濁流。

それは、理を無視して全てを無に帰す、圧倒的な拒絶の力であった。


「ぎゃああああ! 莫迦な……! 光と闇が、混ざるなど……!」


教団の指揮官が悲鳴を上げ、その姿が薄暮の霧に呑まれて消える。

襲撃者たちは悉く退けられ、国は、そして多くの民の命は救われた。


しかし、静寂が戻った『翡翠の揺籠(エデン)』で、アルヴィスは激しく咳き込み、その場に膝を突いた。


「がはっ……、く、ぅ……っ」


ドサリと、愛用の槍が地面に転がる。

彼の白い肌には、まるで見えない鎖が皮膚に食い込んでいるかのような、不気味に発光する白い紋様が浮かび上がっていた。

これこそが、禁忌の代償。

教団の魔術が彼の体内で変異し、定着してしまった呪い――『純白の枷』である。


「アルヴィス様……!」


生き残った民や騎士たちが、涙を流しながら彼に駆け寄ろうとした。

だが、アルヴィスはそれを片手で制する。


「……来るな。近寄っては、いけない…っ」


彼の声は、苦痛に歪んでいた。


アルヴィスの足元、彼が触れている世界樹の根が、じわじわと灰色に変色し、枯れ始めていたのだ。

彼の体から溢れ出る『薄暮』のマナは、あまりにも強大で、あまりにも歪んでいた。

彼がそこに留まるだけで、この美しき楽園の生命力は吸い尽くされ、枯渇してしまう。


誰も悪くない。

彼は国を救った英雄だ。

民の瞳には、拒絶ではなく、痛ましいほどの哀悼と感謝の涙が浮かんでいる。

それが、今のアルヴィスには何よりも辛かった。


「――呪いを、解いてくる」


アルヴィスは痛む体に鞭打ち、ゆっくりと立ち上がった。

呼吸を整え、再び完璧な王太子の仮面を被り直す。

震える声を押し殺し、彼は愛おしい民たちへ向けて、最(・)期(・)の微笑みを向けた。


「私はこの国の王太子です。我が家たるこの揺籠(エデン)を、自らの呪いで滅ぼすわけにはいきません。必ずや……この『純白の枷』を制御し、あるいは打ち破り、再び皆の前へ還(・)っ(・)て(・)きましょう」


誰も言葉を返せなかった。

その決意が、どれほど孤独で過酷なものかを知っているからだ。


アルヴィスは振り返ることなく、世界樹の結界をくぐり抜けた。

一歩進むごとに、背後の美しい緑の光が遠ざかっていく。


胸を満たすのは、果てしない憂鬱――


こうして、若き王太子だ(・)っ(・)た(・)青年の、果てしない『彷徨』が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。