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奴隷から始まる異世界マネーウォーズ   作者: 鷹司鷹我
紙幣製造編
98/110

狙撃

ラスボスを倒して一段落したので、また投稿を始めます。遅くなって申し訳ありません。

「君はどう思うウェル君? これってやっぱり、彼らの計画の1つだよね?」


 荘厳な大統領府の建物から、ようやく活気を取り戻し始めた町並みを眺め、黒幕の男は尋ねる。

 ウェルゴーナスはただ一言「さあな」と言った。



「”さあな”って……君さあ、これはどう考えてもそうでしょ。俺があんなに頑張って扇動した愚民諸君が、ものの数ヶ月でこんなにも牙を抜かれちゃってるんだよ? 今となっちゃあ、だーれも『戦おうぜ!』なんて言わなくなったんだからね」


 黒幕の男は座っていた回転椅子をクルクル回して遊びながら、ため息交じりにそう言った。


 ミカエル商会による合衆国の復興が進められて数ヶ月。生活は以前のような余裕を取り戻し始め、市民達の顔には笑顔が溢れていた。


 満たされた環境において人は平和を望む。その言葉が真実である事は、彼らの様子を見る限り明らかだった。


 ため息をこぼし頭を悩ませる黒幕の男の姿を一瞥し、しかしウェルゴーナスは不安そうな様子は一層見せなかった。


「……問題は無いだろう? お前の能力があれば、いくらでも自由に戦争を始められる。違うか?」


 ウェルゴーナスは生真面目にそう尋ねる。それに対して男は「そりゃあそうだけど……」と言葉を濁す。



「そりゃたしかに、首脳部を洗脳できているんだから戦争を起こそうと思えばいつでも起こせるさ。“起こすだけ”ならね。でも、起こすだけじゃ不十分だろ?」


「……」


「戦争継続に必要なのは、なにも武器や資金だけじゃ無い。何よりも重要なのは結局の所、“国民のモチベーション”さ」


 男は座っていった回転椅子を“クルクル”と回転させる。


「俺が元いた世界の話なんだけどね。その国は人間でも、経済でも、軍事力でも。そのどれにおいても、敵を圧倒していた。にもかかわらず、その国は戦争に負けた。なんでかわかる?」


「……その理由が、お前の言うモチベーションというヤツか?」


「ピンポーン。その国には、有り余るほどの戦争継続能力があった。でもね、“戦争を続けたい”という気持ちが、国民の中に無かったんだ。……いや、失われたんだ」


「……」


「原因は“テレビ”って言う機械だったんだ。その機械は、多くの国民にとってはそれまで“遠い場所の出来事”だった戦争を、身近なものに変えた。映像をお茶の間に放映することによってね」


「……映像?」


「動く絵画みたいなものさ。まあ要するに、それまで見ることが出来なかった”戦争の悲惨さ”を、国民が知ってしまったんだ。そして“こんな無意味なことをする意味はあるのか?”という疑問を抱かせてしまった」


「……だから戦争をやめたということか?」


「イグザクトリー。運の悪いことに、その国は君主制では無く民主制を取っていた。この国と同じようにね。その結果、戦争に反対する大勢の有権者達によって、その国は撤退を余儀なくされたんだ。悲しき哉、もし国を治めていたのが国民の声を聞かない暴君だったなら、きっといずれ多くの犠牲の上に勝利を掴んでいたはずなのに」


 男はまたもやため息をこぼした。

 その様子を見て、ウェルゴーナスは疑問をぶつける。


「……それと同じ事が、この国でも起こると?」


「そうだよ。戦争を起こすのは簡単だ。帝国に宣戦布告をするだけで良いんだからね。でも、そのあとはどうなる? 戦争が始まれば、間違いなくこの国は負ける。そうなったとき”あとにはひけない飢餓状態”ならまだ知らず、こんな“生きることは可能”である人民達が、戦争を望むのか? 答えはNOだ」


「……だろうな」


「後に退けない状態なら、国家総玉砕の覚悟で戦争を続けるだろう。人間はそういう生き物だから。でも、生きる方法が残されているのなら、それにすがって生きようとする。なぜなら人間は、生に執着することを遺伝子レベルですり込まれた“生物”だから」


「……」


「でも、それじゃあ困る。中途半端な被害で戦争をやめられたら、こっちの目的である“人類の間引き”が出来なくなっちゃうからね」


「……人類の間引き……か」


 男の非人道的な言葉に、ウェルゴーナスは僅かに顔をしかめた。

 しかし男は、そんなことも気にせず続けた。



「少なくとも、戦争によって国が2つ以上は滅ぶのがベストだ。そして残った国も、その殆どが戦争で死んでくれるとありがたい。そうなればあとは、その不安につけ込んで俺が、残された世界中の全人類を洗脳するだけなんだから」


「……そうだな。それで? そのためにこれから、どうするつもりだ? どうやって”大虐殺”を起こすんだ?」


「さあて、どうしたものかねえ。これまで何年もかけて、ようやく醸成した戦争の空気が失われたんだ。正直、また同じ事をやるのはかなり難しい」


「……」


「あはは、そんな顔すんなよ。心配しなくても、諦めるつもりは毛頭無い。なんたって俺は、今度こそ人類を救うと決めているから……」



 ――――ズドン!









<<<<   >>>>


 ――――バリィィィン!


 銃声が聞こえ、銃弾が窓を突き破った直後、少し遅れて窓ガラスが崩壊した。


 いきなりのことに何が起こったのか訳もわからず、男は椅子から転げ落ち、床に這いつくばった。





「……!? ああああああああああああああ!?」


 そしてすぐに肩を押さえ、ドクドクと漏れ出した自分の血液の生温かさを直に感じた。



「なっ……!?」


 ウェルゴーナスもまた、一瞬の出来事に何が起きたか把握できず、立ち尽くす。

 しかし、さすが元戦士長と言ったところだろう。すぐに体を縮こませて被弾面積を小さくすると、そのまま“狙撃された”男の方に走り出した。


 そして、男の体を狙撃の死角になるように物陰に引きずった。



 ――――ズドンッ! ズドンッ!


 ウェルゴーナスが男の体を隠し終えると同時、先ほどまで彼らが居た空間を2発目、3発目の銃弾が通過していった。





「大丈夫か!?」


 ウェルゴーナスはすぐに、黒幕の男に叫んだ。

 肩に空いた穴を見るに、銃弾はどうやら右肩を貫通しているようだ。


「……っ、痛い……だけだ! それより! これは……!」


 男はウェルゴーナスに、服から破り取った布で傷口を縛られつつ、恐る恐る壁際から狙撃された方向を覗いた。



「……クソッ! 北東! 二人いる!」


 狙撃されたとおぼしき方角にあった建物の屋根に、二人の影を見つけて、男はそう悪態をついた。



「クソッ! なんでだよ! なんでもう、アイツらが首都にまで来てるんだよ!? 侵入できないように、検閲は強化していたはずだろ!」


 男は、ようやく血の出方が落ち着き始めた右腕を押さえて、そう言った。


「そんなこと、今はどうでも良い! それよりも早く、ここを離れるぞ!」


 ウェルゴーナスはそう言って、壁伝いに移動し始める。負傷した男も、その後を追った。









<<<<   >>>>


 重要なのは、どうやって潜入するかだ。なんせここ最近、こっちの動向に注意して、合衆国の検閲がかなり厳しくなっているからね。


 ハッキリ言って、普通に入国しようとしたら即“逮捕”されるだろう。

 仮に逮捕されなかったとしても、確実に監視がつけられる。とてもじゃないけど暗殺どころじゃ無い。



 僕らがこのミッションを成功させるためには、どうにかして合衆国に“密入国”する必要があるんだ。




 でも、それ自体は別に難しいことじゃない。僕が元いた世界でも頻繁に行われていた方法をとろうと思う。


 簡単に言うと、“積み荷に紛れて密入国”するんだ。ね、普通だろ?



 でも、これだけじゃまだ十分とは言えない。ただ積み荷に紛れても、積み荷を降ろすときの検閲ですぐに見つかっちゃうだろうからね。


 だから、ここに一手間加える。


 結局の所、重要なのは『いかにして相手の弱点を狙うか』だ。どれだけこっちが頑張っても、相手の準備が万端の所に突っ込んだら勝負にならないわけだから。



 だから僕たちは『余分な積み荷』になるんだ。


 どういうことかというと、帝国を出立するときにあえて”記載のない積み荷”を積み込んでおく。もちろん、中身は僕らだよ。


 あとは簡単だ。”記載がない”って理由で、合衆国の港のどこか……そうだね、できる限り首都からは離れた、検閲の甘いところに場所に停泊して、そこで荷物……つまり僕らを下ろすんだ。報告がてらにね。

 そして、『出来ることならここで荷を下ろさせて欲しい』と交渉するんだ。


 普通ならそんな違反行為は許されない。でも、現在合衆国の復興に大きく関わっているミカエル商会の名前と、地方の役人の”あまり高くない危機意識”を利用すれば、多分問題なく、敵中枢に知られることなく侵入できる。



 まあでも、これは保険みたいなものだよ。僕はレイの……君のスパイとしての能力を信じているからね。

 君ならたぶん、バリバリ検閲がされてる場所でも、なんなく潜入できるだろうと思う。


 でも、この作戦は失敗が許されない。だから、できる限り頭を使って、可能な限り作戦の確度を上げておきたいんだ。





 それで潜入したあとだけど、これについては言うまでも無いよね?


 潜入するとき、一緒に持って行っておいたスナイパーライフルを使って、アイツを狙撃する。



 アイツさえ倒せれば、首脳部の洗脳も解けて、戦争になる可能性を完全になくせる。逆に言えば、もしこの狙撃でアイツを倒せなければ……戦争が起きる可能性が、少なからず残ることになる。


 絶対に失敗できない。だからここにも、保険をかけておこうと思う。


 僕がもし狙撃を外してしまった場合……銃弾が、ヤツの急所をそれてしまった場合。そのときに備えて、保険をかけておくんだ。








<<<<   >>>>


「……見失った。たぶん、当たってない」


 双眼鏡をのぞき込み、レイはフォートにそう告げた。

 “ガチャン!”と弾丸を再装填しつつ、フォートは「クソッ」と悪態をつく。



「やっぱりこの距離はダメだったか……元の世界の狙撃銃ならともかく、工業もそれほど発展してない世界の技術で作ったライフルじゃあ、急所に一撃とはいかないか……」


「……反省はあとにしろ。それより、私達”も”早く行くぞ。一発は当てたんだ。ヤツは今、手負いで逃げてる。絶好のチャンスだ」


「……うん、わかってるよレイ。それに“彼女たちも”もう、動き出してるだろうからね。早く合流しよう」


 二人はそう言うと、軽い身のこなしで屋根を飛び降り、常人ならざる速さで町中を駆け抜けていった。


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