急襲部隊
「ははっ、しっかし危なかったねえ。弾丸がもう少し横を通過していたら、間違いなく天界の住人になっていたところだよ。いや、俺の場合は地の底かな?」
黒幕の男は「いたた……」と傷口をさすりながらそうつぶやいた。
それを聞いたウェルゴーナスはため息をこぼす。
「そんなことを言っている場合か? こちらはまだ、今敵がどこにいるのかすらわかっていないんだぞ? もし今も狙われているとしたら……」
ウェルゴーナスは注意深く辺りを観察しつつ、後ろにいる負傷した男にそう告げる。
しかし男は、やはり“ははっ”と笑った。
「まだ問題ないさ。さっき外を覗いたとき、それなりに離れた建物の屋根にいるのを確認した。少なくともここに来るまで、あと少しの猶予はあるよ」
「……それは、敵がそいつらだけだったらの話だろう? もし他に仲間がいて、そいつらが俺達を倒すためにすでに潜入しているとしたらどうする?」
ウェルゴーナスの指摘に、黒幕の男もさすがに険しい表情をする。しかしすぐに、それを笑い飛ばした。
「そりゃあそのときは……君がいるでしょウェル君。何のために、君にボディーガードを頼んでいると思っているのかな……と、どうやら早速のようだ」
二人の目の前に、フード姿の何者かが立ち塞がっていた。
黒幕の男は目の前の”何者か”を注意深く観察し、そして尋ねた。
「……君、ここの職員じゃ無いよね? 何者かな?」
「……」
フード姿のその人物は、何も答えない。何も答えぬまま、ゆっくりと身構えた。
「……どうやら敵のようだね。早速で悪いけどウェル君、この誰かさんを倒してもらえるかな?」
「とうぜ……」
――――カッ!
「!?」
ウェルゴーナスが腰の剣を抜こうとした瞬間、彼らの足下が突然に発光し始めた。
二人にはわからなかったが、その光は上から見ると魔方陣を形作っていた。
「……っ!」
ウェルゴーナスは剣を抜くのを中断して、すぐさま背後にいた男の服を掴む。そして、電撃が地中から放たれる間一髪で、なんとか安全地帯へと回避した。
(電撃!? クソッ、やられた! 目の前のアイツに気を取られすぎ……)
――――ヒュッ!
「がっ……!」
電撃を回避することは出来たウェルゴーナスだったが、しかし電撃の土煙に紛れて攻撃してきたフード姿の何者かの拳までは躱すことが出来なかった。
――――ボンッ!
ウェルゴーナスの腹に直撃したその拳は、強烈に爆発し、ウェルゴーナスを吹き飛ばした。
「ウェル君!」
「自分の心配をしなさい」
殴り飛ばされ壁に激突したウェルゴーナスに注意が向いてしまい、フード姿の人物から目を離してしまった瞬間。その隙を、フード姿の何者かは見逃してくれるほど甘くは無かった。
(やばい……)
男は死を直感し、“ははっ”と思わず笑う。
――――ボッ
フード姿の拳に、炎が灯る。そして、それは真っ直ぐに男の顔面へと向かって行った。
――――ガインッ!
「ちっ……」
しかし直撃する直前、炎をまとった拳は進路を変え、自分に向かってグルグルと回転しながら飛んで来た剣を弾いた。
剣を弾くと、フード姿の人物はすぐに距離を取る。
「ウェル君!」
「まった…く……いつもあれだけ…言っていただろう? 攻撃はできる限り……躱しておけとな」
フラフラと立ち上がったウェルゴーナスは、そう言ってヨロヨロと男の近くまで歩いてきた。その腰につけられた鞘は、空になっていた。
「……出て来い……いるんだろ?」
ウェルゴーナスはそう言って、辺りを見回した。
すると曲がり角から、もう一人のフード姿の人物が現れた。
「さっきの電撃魔法は……お前の魔法か?」
「……私に答える必要はあるのかしら?」
「…いや、無いな。それに、その返事が答えだ」
そう言うとウェルゴーナスは身構える。
剣士である彼にとって、剣を失った今の状況は絶望的なまでに不利な状況だ。
しかしそれでも彼は、殺されようとする黒幕の男の命を“剣士の命”とも言うべき剣を使って救った。
そして”剣士の命”を失った今でさえも、残された自身のたった一つだけの命を賭けて戦おうとしている。
「……先に行け」
ウェルゴーナスの言葉に、先ほど死にかけて心臓を激しく鼓動させていた男は驚きを見せる。
「なっ……君一人で戦うつもりかい!?」
「……ああ。負傷したお前がいると、邪魔だからな。まだ一人で戦った方が、勝算がある」
「……」
「それに、お前の能力はそこの二人には効かない。違うか?」
「……違わないね。残念ながらそこの二人は、敵地のど真ん中に潜入しているというのに、恐怖を感じている気配が一向に無い。試すまでも無く、俺の洗脳は効かないだろうね」
「だろうな。なら、お前がいても何の役にも立たない。だからさっさと、ここから逃げてくれ」
ウェルゴーナスの覚悟がこめられた言葉に、黒幕の男は言葉を詰まらせる。しかしすぐに、意を決した表情で答えた。
「……そうだね。そうさせてもらうよ」
男はそう言うと、立ち上がった。
「……お言葉に甘えて逃げさせてもらうよ。でも勘違いしないで欲しいんだけど、俺は部下を見捨てるような無能じゃ無い」
「……」
「手駒を連れて戻ってくる。それまで……耐えろ」
男はそう言うと、走り出した。ウェルゴーナスは『やれやれ』とため息をつく。
『戻ってくる』? 何のために、自分が逃がしたのだと思っているのだろうか?
しかし戻ってくると言うのなら、オチオチもしていられない。せめて一人は、倒しておくことにしよう。
ウェルゴーナスはそんなことを心でつぶやくと、僅かに笑みを浮かべた。
遅れてすいません……
次回作の執筆が全然進まず、編集のやる気が起きませんでした……
たぶん次回更新も遅くなると思いますが、どうか気長にお待ちくだされば幸いです。




