旧友
間が空いてすいませんでした……
やっと次回作が軌道に乗ったので、こっちの編集をするやる気が起きました。
と言うわけで、楽しんで頂けたら幸いです。
「……さて、まあ聞くまでも無いが……お前、リャンフィーネだな?」
「……」
「もったいぶる必要は無い。もうわかっている」
「……久しぶりね、ウェルゴーナス」
そう言ってフードを外したその女は、かつてエヴォルダ教とダーラーンを信奉し、そして今はフォートに忠誠を誓う女、リャンフィーネだった。
「あなたは死んだと聞いていたのだけど……やっぱり生きていたのね。まあ、あなたが本当に死んだなんて、私は思ってなかったけど」
リャンフィーネは、かつては同胞であったウェルゴーナスにそう言った。それを聞いてウェルゴーナスは、「ああ、そうだな」とつぶやいた。
「……悪かったな。追いかけられても面倒だったんで、死んだことにしていた」
「……で、今はこうして、本当の”居場所”にいるってわけ?」
「そうだな。悪かったと思っているよ。仲間のふりをして、お前達を利用したことは」
ウェルゴーナスは、申し訳なさそうな表情でそう言った。しかしリャンフィーネは、そんなウェルゴーナスを馬鹿にするように笑った。
「嘘はつかなくていい。どうせそんなこと思っていないでしょう?」
「……」
リャンフィーネの皮肉に、ウェルゴーナスは何も言わなかった。
かつて、仲間のふりをして自分たちを利用しようしていたウェルゴーナス。リャンフィーネがそんな彼を許すつもりが無いことは、火を見るより明らかだった。
ウェルゴーナスは、もう一人のフードを被った人物の方を見る。
「……電撃魔法から推測するに、もう一人のヤツは……シャルーナとか言うやつじゃないか?」
「……」
もう一人のフードを被った人物がそのフードを外すと、その人物はやはりというか、ウェルゴーナスの推測通りシャルーナだった。
「やはりか……だがおかしいな。お前は確か、エヴォルダ教の企みを打ち砕き、ダーラーンを殺した張本人だっただろう? なぜそんなお前が、その”ダーラーン狂”の女と一緒にいる?」
「……私がそれに答える意味ある?」
「……ないな。それに興味も無い。これから殺す敵の事には」
「殺す? この状況で何を……」
リャンフィーネは嘲けるように笑った。
剣すら持っていない剣士など、恐れるにたらず。いくら元帝国最強の戦士といえど、こんな状況ではとても……
――――だっ!
「!」
ウェルゴーナスは突然、窓ガラスに向かって走り出した。リャンフィーネはすぐさま思考する。
(まさか逃げるつもり……? それなら放っておいて、もう一人を追えばいいだけ……)
――――バリィン!
(やはり窓から逃げるつもり……ヤツの忠誠心は紛い物だったみたいね)
――――ヒュッ!
「……っ!」
黒幕の男を追おうとしたリャンフィーネの頬を、赤い血が垂れた。それは、ウェルゴーナスが投げつけた窓ガラスの破片によって付いたものだった。
「誰が逃げると言った?」
「ちっ……!」
ウェルゴーナスは特に大きかったガラスの破片を掴み、そしてリャンフィーネに接近した。
そして、流れるような動きでガラスで切りつけた。
「さすが……元帝国戦士長と言ったところね!」
「お褒めにあずかり光栄だ!」
――――ヒュヒュヒュヒュヒュ!
「直進電撃!」
――――バチッ!
「くっ……!」
防戦一方となっていたリャンフィーネを見かねて、シャルーナは電撃魔法でウェルゴーナスを攻撃した。
ウェルゴーナスはそれを紙一重に躱した。そして躱すと同時に、先ほど自分が投げた剣を回収した。
「……助かった」
リャンフィーネは頬に垂れた血を拭いながらそう言った。
「どういたしまして。でも、武器を取られた」
「……問題ない。五分の状況になっただけ」
リャンフィーネの言葉を聞き、シャルーナは情けなく苦笑いする。
「2対1で五分って……」
「当然だ。”元”とは言っても、ヤツはかつて帝国最強の剣士だった。二人がかりでも倒せるかどうか……」
僅かに弱気を見せたリャンフィーネを見て、シャルーナも息をのむ。
しかし、敵がどれだけ強いとしても負けるわけにはいかない。
「……援護するわ。だから気にせず突っ込んで」
「……了解」
――――ババババババ!
激しい火花が舞い散った。
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「合衆国に行きます。一緒に来てください」
酒場に突然呼び出され、何事かと身構えていたシャルーナにフォートはそう告げた。
「合衆……え?」
思いもよらない話に、シャルーナはわけもわからず困惑する。
「わかった。すぐに準備しよう」
「!?」
シャルーナは驚いて隣を見る。そこには、自分と同じくフォートに呼び出されていたリャンフィーネがいた。
「はい。お願いしますリャンフィーネさん。それじゃあ、シャルーナさんもいいですか?」
「!?」
自分が知らないところで話が進んでしまい、シャルーナは思わずたちあがった。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 私には何が何だかさっぱり……」
「ああ、すみません。説明が足りませんでしたね」
フォートはそう謝ると、気を取り直して説明し始めた。
「これから帝国と合衆国は戦争をさせられます。なので、それを止めるために僕たちは合衆国を裏で操っている黒幕を暗殺しに行きます」
「ああ、はいはい。それならそうと……はあ!?」
シャルーナはまたもや、驚きの声を上げた。
「戦争!? 黒幕!? なに言って……!?」
「言葉の通りですよ。それ以上でも、それ以下でもありません」
「言葉通りって……」
シャルーナはわけもわからず困惑する。
そして仕方ないので、まずは一つずつ疑問を解消していくことにした。
「……まず聞きたいんだけど、合衆国を操る黒幕なんて……本当にそんなヤツ……いるの?」
シャルーナはあからさまな疑いの視線をフォートに向ける。
それも当然だ。何も知らないシャルーナからしてみれば、“帝国と合衆国で戦争が起こる”ことはもちろん、“その裏には黒幕がいる”などと言うことは冗談にもならない冗談にしか聞こえないのだから。
しかしフォートは、シャルーナに笑顔で答えた。
「ええ、もちろんですよ。こんな嘘をつく意味なんて無いでしょう?」
「そうだけど……」
「それに僕はすでに、その黒幕に出会いました。そして、大切な人を殺された」
「!」
シャルーナはフォートの言葉に、思わず息をのんだ。
「大切な人って……それは……彼のこと?」
「……彼?」
「その……ケン君のこと」
シャルーナは、フォートの隣に座る女の姿を見ながらそう言った。
シャルーナは、ここに来たときからすでに疑問を感じていた。『なぜフォートの隣にいるのが、フォートの相棒だったケンでは無く、見ず知らずのレイとかいう女なのか?』と。
しかし、もしケンが“黒幕によって殺されてしまっていた”としたら、全てに合点がいく。
ケンは殺された。だからここにいない。そして、ケンの代わりとして彼女がいるのでは無いか? 死んでしまったケンの、穴埋めをするために。
しかし、そんな心配は杞憂だった。なにせ目の前にいるレイこそが、ケンそのものだったのだから。
「……ああ、そういうことですか。違いますよシャルーナさん。ケンは死んでません。というか、ここにいます」
「……はい?」
「ほらレイ。君が偽名なんて使っていたから、シャルーナさん勘違いしてるじゃん」
「仕方ないだろ、あの時は身の上を知られるわけにはいかなかったんだから」
「え? え? え?」
シャルーナは訳もわからず首をかしげる。
「ちょっと……どういうことかしら? そこの彼女が……えっと……ケン君?」
「そうだよ。私が元ケンで、今はレイだ。改めてよろしくな」
「……はあああああああああああああああ!?」
元からうるさかった酒場は、シャルーナの叫び声で一層うるさくなった。




