29(フラッシュシステム)
俺は一旦ログアウトしてすぐに翔に電話を掛ける。――出ない!
翔からメールが来た。
【今は電話は出来ない。会議中なんだ】
【田辺洋介は今どこにいる?】俺はメールを返す
【自宅じゃない?】すぐに返事が来た。
俺は原付バイクに乗り、田辺の自宅へ向かう。とっちめてやる。
5分くらいで翔の家の隣に行くが、売家と看板が立っていた。田辺は引っ越した!?
――俺はアパートに戻ると、太った男が俺の部屋の前に立っている。田辺か!?
「誰だ!?」
男は振り向く。
「次男、久しぶり〜」
「次男? まさか和谷か?」
俺は原付バイクを駐輪場に停める。弟の顔も忘れていた。
「次男、田辺って奴を知ってる?」
「今探してるところだ。どこに居る?」
「これ見て」
1つの茶封筒を渡される。よく見ると、和谷は右手の人差し指に包帯を巻いていた。茶封筒には血痕が付いてる。
「田辺からか?」
「カミソリが入っててさ。宛先も書かれてなかったから何だろうと思って」
俺は封筒の中の手紙を読む。そこには【龍熊二谷、お前の口座から全財産を頂いた。田辺洋介】と書かれていた。
「あの野郎!」
「可笑しいよね、ニートの口座なんか狙って」
和谷は顔じゃない。俺がEスポーツの1億円プレイヤーだと知らないんだ。
「取り敢えず、和谷は帰れ。バットでもゴルフクラブでもいいから武装しろ」
「でっ、でも……」
俺は和谷の背中を押す。
「建谷兄ちゃんにも知らせとけ」
俺は和谷を追い返した。
クラッカーめ! じわじわ追い詰めて、次は何を仕掛けてくる!?
俺はウォーライフにログインする。すると、スマートモンキーが来た。
『ダンナ〜、大変でやすよ! ダンナの口座から300万円がコインに変えられて複数のサーバーを経由してロンダリングされやしたよ!』
「1億円は盗られてないな?」
『まだ振り込まれてませんや。クラッキングの特徴はどうやら、日本人のモノでさあ』
「やっぱり、田辺洋介か!?」
『ちょっと待ってくだせえ、今入った情報によると32番フィールドで1人のプレイヤーが【最上級ボス=クレイジーモンキー=龍熊二谷】とチャットしまくってるようでさあ』
「32番フィールドを移動するぞ」
『待ってくだせえ、どうするおつもりで?』
「田辺がログインしてるなら直接対決だ。“フラッシュ”を頼む」
『フラッシュの説明を聞いてますかい!? 下手したらダンナが…………』
「契約書で読んだよ。スマートモンキー! 早く用意だ! 俺は田辺を誘き寄せる」




