62話 け、け、け、毛!
夜中にトイレに行きたくなって目が覚めた。
廊下に出ると、予想にはんしてうっすらと明るかった。
寝ぼけ眼で光の元を探すと、本部の広間に灯りがつけられなにか騒いでいるのもかすかに聞こえてきた。
昼間のうちに申請しておくと、夜に広間を使っていいことになっている。
おおかた酒盛りに使っているのだろう、うらやましい…。
ふつうに酒を飲みたいのなら「俺の酒場亭」に行けばいいのだが、身内ではめを外したいときは広間を使うに限る。
俺も何度か広間で酒盛りをしたが、だいたい最後は皆フルチンで大暴れをする。
我を忘れて騒ぎたいときにはもってこいなのだ。
だれか失恋でもしたのだろうか。
俺は眠たさに負け、トイレを済ませるとさっさと布団にもぐりこみまた眠りに入った。
次の日の朝礼後、俺は広間を掃除していた。
大騒ぎしたあとは使った奴が片付けるのが当たり前のことだ。
一応片付けてはいるのだが、酔っ払いの片付けはかなり大雑把だ。
そんなときは、決まって新人がお小遣いを大目にもらい、依頼人が来る時間の前までに片付けるのが習慣だった。
「ん?」
俺は床を掃きながら、あるものを見つけた。
かがんでそれを拾い上げる。
それは毛だった。
妙に太くて、短くて、ちぢれている。
…そう、それはち○毛、いや言い換えよう、それは下の毛だった。
すね毛…にも見える。
しかも部屋中のゴミを掃き集めてみると、大量に集まった。
毛の具合から見て、それは同一人物のものに見えた。
フルチンで暴れまわったにしてもこれはおかしい。
なんだ? 昨夜はもしやお楽しみなことをしたのか!?
俺はその場にしゃがみ、毛をいろんな角度から眺めながら眉をひそめた。
傭兵団はクランである俺を別として、外部の女の連れ込みは禁止だ。
もちろん広間だって、神聖な仕事場であって女を連れ込むなんてもってのほかだ。
副団長である俺がいない間に、規律が乱れているのだろうか…。
俺は小さな手で縮れ毛をぐっと握り締めた。
舐めた真似をしてくれるじゃないか!
俺は最近忘れかけていた、狂犬と呼ばれていた頃の副団長としての熱いものが湧き出てくるのを感じた。
この毛の持ち主を絶対に探し出し、規律を乱したものとして、俺がいない間に好き勝手をした馬鹿として、見せしめにすることを誓った。
まずはおやっさんに、昨夜広間の使用許可を申請した奴の名前を見せてもらった。
申請書にはサイスと数名の名前があった。
俺はまずサイスのところに行った。
「どうしたクラン坊?」
サイスは人のよい笑顔を見せる。
こいつが規律を乱してばかな真似をするとは思えない。
「昨夜、広間を使ったのは誰ですか?」
「え! な、なんでそんなことを聞くの!?」
…おい、怪しすぎるだろ、お前…。
「聞かれては、困るようなことをしたんですか?」
しぜん、サイスを見る目つきが険しくなってしまう。
「ええっ!? してない!してないよぅ!」
何か知ってるな、こりゃ…。
俺はいろいろな思いがうずまき頭を抑えた。
サイスがねぇ…。
こいつ単独じゃないだろうな。
ここでサイスのズボンと下穿きを引き剥がして股間を確認をすれば手っ取り早いのだが、それでは俺が痴女になってしまう。
「ねぇ、サイスさん。今夜、公衆浴場に行きませんか?」
「えぇ!? 公衆浴場!? 」
俺は広場にあつまっていた連中を公衆浴場に誘うことにした。
回りくどいようだが、そこで全員の股間を確認し、証拠をつかんだうえで一気にたたみかける作戦だ。
「いや、俺はちょっと…。」
サイスが目を泳がせながら言いよどむ。
ちっ、クラインのときならさっさとひん剥いて、脅しながら全部吐いてもらうのによ!
「後ろめたいことがあるとでも?」
幼女の声にできる限りドスを聞かせて言ってみた。
「…わ、わかりました…」
サイスは涙目で承諾した。
…お前、幼女に負けんなよ…。
その後、昨夜広間をつかったほかのメンバーを公衆浴場に誘った。
他の連中は挙動不審になるどころか、ニヤニヤして「あぁ…」とうなずいた。
なぁんか、皆隠してるなぁ…。
その日仕事がおわり、俺たちは連れ立って公衆浴場へ行った。
「おい、クラン坊! お前はあっちだろうが!」
俺は連中と一緒に脱衣所に入ろうとして、引き止められた。
そうだ! この体になって初めて来たが、脱衣所は男女別だ。
「それともクラン坊、一緒に行くか?」
一人がニヤニヤして俺を見る。
「向こうで脱いできます!」
俺は舌を出して女性用の脱衣所に行った。
どうせ浴場は混浴なのだが、俺の考えとして、女は全裸のときより脱ぐ過程が一番エロイと思っている。
野郎どもに脱ぐところを見せたくはなかった。
女性用の脱衣所に入ると何人かの荷物があり、今日は女性との混浴が可能かも…とスケベ心がわいた。
「ちょっと、傭兵団の男たちが来たみたいよ!」
「やだぁ、私まだ入ったばかりだったのに!」
「今日は厄日ね!」
口々に言いながら女性陣が脱衣所になだれこんでくる。
目の保養、目の保養…っていうか、俺たちが公衆浴場に行くたびに、裏ではこんなことが繰り返されてたんだな…。
俺は知りたくなかった現実に、目頭をおさえた。
よっぽど彼女たちは焦っていたのか、ぽつんと立つ俺のことなど気付かずに服をささっと着ると文句を言いながら出て行ってしまった。
ちゃっちゃと脱いで浴場に入る。
浴場では男も女も隠さない。
お貴族様はどうか知らないが、庶民ではそれが普通だった。
先に連中が入って体を洗っていた。
「何で俺たちが来るときって、女がいないのかねぇ。」
「俺が来るときは男もいないから、いつも貸切状態だぜ!」
のんきに言い合う連中に、俺は心の中で涙をぬぐった。




