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59話 絞ってみよう



 朝食はおわり、俺は微笑んでいるアネスト卿に見送られながら退室した。

このあと老医師とアネスト卿の仁義無き戦いがあるのではと心配になりながら…。




 応接間をのぞくと、朝食の最中だった。

昨夜も交代で見張っていたため、朝食後は昼まで眠ってから出発するそうだ。

おとといの夜も見張りをしていたはずだが、昨日の朝食後は寝ずに組み手とかしていなかったか?

疑問に思ったが、若さゆえの過ちさ!とよくわからない理由で流された。

今日は長距離の移動もあることだし、俺も散歩ではしゃぐのはほどほどにしておこうと思った。


 おやっさんを見つけて散歩の報告に行くと、おやっさんも「アネスト卿のお体は大丈夫か?」と不安そうだった。

俺もよくわかりませんとしか言えず、不安を残したまま俺は客間に行き支度を始めた。



 正直なところ、もうおしゃれ着なんか持ってない。

もともと狼討伐で来たのだから、よくよく考えればおしゃれ着を持ってきていること自体がおかしいのだ。

じゃあなんで2着も持ってきていたのか、…貴族のところに行くから、女の子として必要なときもあるかもしれないと持ってきていたのだ。


 俺は服を前に悩み、作業用の服をなんとか可愛く見えるようにしようとしたが、俺にそんなセンスはなく作業着は作業着だった。

汚れの目立たないワンピースをベルトでかちっと腰周りを固定し、足首までの長さのズボンをはいた。

日よけの帽子をかぶれば、いつでも農作業OKな幼女のできあがりだ!


 アネスト卿と最後のデートにおしゃれできないことにじゃっかん気落ちしながら、玄関へと向かう。

「おぉクラン、何を着てもお前はかわいいね!」



 玄関には、背もたれがじゃっかん傾いた座椅子のようなものに車輪がついた乗り物(?)があり、アネスト卿はそれに座っていた。

背もたれの後ろには取っ手が付いており、男の使用人がそれを持って立っていた。

車輪が付いているところを見ると、あそこを持って押すのだろう。



「さぁ、クラン、行こうか!」

俺はアネスト卿と手をつなぎ、押し車(?)に轢かれないように気をつけながら並んで歩いた。

ふと後ろを見ると、老医師が険しい顔で腕組みをしながら仁王立ちしていた。


「まったく死にぞこないジジィは、少し体がよくなったらすぐに無茶しおって…」

そんな声が聞こえたような気がしたが、俺は笑顔を保ったまま玄関をあとにした。




「おおぅ!」

屋敷の敷地内に農夫らしき男性と、牛が1頭のどかな鳴き声をあげながらででんと立っていた。

とくに目立っているのが、腹の下にもりあがっている肌色の…やっぱあれは乳なのか?


「王都にいると牛を見る機会なんて無いだろう?もっと近くに寄って見てごらん?」

驚いていると、アネスト卿は俺の反応にご満悦なようで笑いながら促してきた。

「噛みつかれませんか?」

おそるおそる訊いてみると、農夫らしき男性とアネスト卿が大笑いをした。

そんなに笑うことないじゃんよ!


 あんまりの笑われっぷりにすこしすねていると、アネスト卿が腹を抑えながら謝ってきた。

「クラン、謝るから機嫌をなおしておくれ? そんなに頬をふくらますものじゃないよ…ぷっ」

いや、最後また笑ったね?


「笑って申しわけねぇ、おじょうちゃん。俺はこの領地で牛を飼っているサジといいます。今日は領主様のご希望で、おじょうちゃんに牛の乳絞りをさせたいってことで来ましたです、はい。」

おもわずアネスト卿のほうを見ると、「王都じゃできないからね」と笑ってみせた。



 俺は牛におそるおそる近づきながら、腹の下の乳を凝視した。

よく巨乳をあらわす言葉に「牛チチ」というのがあるが、実物はエロさのかけらもない迫力のある代物だった。

牛のような乳って、ほめ言葉にならないのか?



「はは、そんなに真剣に見てたらコイツが照れちまいまさ!」

サジさんが笑いながら牛の首をなでる。

「…じいちゃん、なんとなくお前が考えていることがわかっちゃったよ…」

アネスト卿の静かな呟きが背後から聞こえた。


「さ、おじょうちゃんもしてみましょうか。」

サジさんに教えてもらい、垂れ下がる乳のひとつを握ってみる。

なぜだろう…、乳の微妙に温かくて弾力のある感触に、母性ではなく父性を感じてしまう…。


 何度か揉んでいると、白い液体がいきおいよくあふれてきた。

「おぉっ!!」

俺ははじめての体験に感動すると同時に、なぜか既思感を覚えた。

あぁ、あれだ。

これは…俺がいま無くしているあれの感じだ…。



「どうだい、おじょうちゃん?」

びっくりしながらも乳を搾り続ける俺に、サジさんがほがらかに聞いてきた。


「言っちゃってもいいですか!? 」

「クラン! あとでこっそりじいちゃんだけに教えておくれ!!」

アネスト卿の必死な声が俺の言葉をさえぎった。


「いやだなぁ、領主様。そんなにおじょうちゃんを独り占めしなくてもいいじゃないですか!」

「はっはっはっはっは! わしは用心深いからね!」

じいちゃん、さすがに俺も他人がいるときは発言に気を付けるつもりだよ…。

そんなに気を張ってたら、体に障るって。


 心配無用ですって!とアネスト卿に笑顔をむけた。

アネスト卿は俺に首を振ってみせた。

後ろに控える使用人も首を振ってみせた。

俺ってそんなに信用ないのかい!?


「えへ、とっても楽しかったです!」

かわいらしさを心がけてサジさんに返事をした。

「そうですか、それは良かった!」

サジさんは顔をほころばせて大いに笑った。


 いくら俺だって、こんな善意の固まりのような人に「チン○のようだった!」とか言うわけないって!


「絞りたてを飲んでみるかい?」

「いいんですか?」

俺はそっと口をつける。


「ぅんまぁ~~~いっ!!」



 うん、やっぱり「牛チチ」は最高の褒め言葉だ!!



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