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57話 お楽しみはディナーの後で



「そろそろ横になる時間だぞ。」

ドアの外から声がかけられる。

俺は慌てて返事をし、アネスト卿の膝の上から飛び降りてドアを開けに行った。


「無粋なまねをしおって…」

背後から恨みがましい声が聞こえたが、聞こえないふりをしといた。

ドアを開けると、老医師が立っており俺の顔を見て微笑んだ。

「お前さんも、顔色が良くなったね。」

「ありがとうございます。」

俺も微笑み返した。


 俺はアネスト卿のもとに戻ると、手を握り退室の挨拶をした。

「クラン」

「はい」

「今日の晩御飯は二人きりで一緒に食べよう。そして、一緒のベッドで寝ようかね!」

はっちゃけすぎだって、じいちゃん!


 俺は問題がないか、後ろで待つ老医師のほうを見た。

老医師は苦笑いをしていたが、うなずいてくれた。


「はい」

俺も苦笑いしながらアネスト卿にうなずいた。



 応接間にいく廊下を歩いていると、おやっさんが待っていた。

「落ち着くとこに落ち着いたみたいだな。」

「はい」

おやっさんは笑って俺の頭を撫でた。

「今はいい顔をしてるぞ。」

「おやっさん、ありがとうございます。」


 俺はおやっさんに、アネスト卿と夕飯、寝所を共にすることを報告しとこうと思った。

「おやっさん、今夜のことなんですが…」

「もう一緒に寝ないぞ!」

「?」

おやっさんはなんかすっごく焦っていた。


「違いますよ、今夜はアネスト卿と一緒にご飯を食べて、一緒に寝ることになったんです。一応、報告しとこうと思って。」

「そ、そうか。…それは良かったな。」

おやっさんは安堵のため息をつき、笑顔を見せた。

そんなに俺たちのことを心配していたのか。


 おやっさんはふと真剣な顔になった。


「それで、お前とアネスト卿は、実の祖父と孫ということで認識しあったのか?」

「…いいえ、二人とも話題にはしませんでした。俺が事故にあった赤ん坊か気にするというよりは、血が つながっていなくても俺を孫として甘やかそうとしてくれてました。」

「そうか。二人でそう納得したのなら、もう俺が口を挟むことじゃないな。」

おやっさんはそう呟いた。


「よし! お前も寝てばっかで身体がなまっただろう。俺も寝起きで正直体がだりぃ。晩飯前に腹をすかせに、外を散歩すっか!」

「はい!」

そして俺とおやっさんは夕日が綺麗な原っぱを、落ちている糞をよけながら散歩した。

…けっこうそこらに落ちてるな…。




 そして俺はアネスト卿の部屋にお呼ばれされ、使用人もいない部屋で二人っきりで夕食を楽しんだ。

アネスト卿はまだ体をあまり動かせないのでベッドの上で、俺はベッド脇に設置された机について食べていた。


 アネスト卿の教官時代の話を聞いていて、おやっさんの話も出てきた。

「もともと、ライオネルの父親と私が友人でね、家族ぐるみで付き合いがあったんだ。」

俺は切り分けた燻製肉をほおばりながらうなずく。


「ライオネルはなんというか、小さい頃から実直すぎて貴族社会に馴染めなくてね、ご両親も、貴族という地位があの子を苦しめることになると悲しんでおったよ。」

俺も、あのおやっさんが腹に一物を隠しながら、お貴族様といっしょにお上品に笑っているところを想像できない。

やっぱりおやっさんは、なんの裏もなく豪快に笑い飛ばしている姿が似合うと思う。


「私は彼に、兵士になることを勧めたんだ。王宮騎士でもいいし、近衛士でもいい。なにも政治に飛び込むことだけが貴族の世界じゃないってね。あいつは体に恵まれていたから、それから寄宿学校で体術や剣術で頭角をあらわしていった。ライオネルの親御さんも喜んでいたな。

 私はライオネルを鍛え上げるのを楽しみにいていたんだが、アイツが新人として入る前に私が引退してしまってね。アイツが上官を殴って王宮兵士をやめたと聞いたときは、わしのせいだと気を落としたものだ。正直なところ、アイツは騎士団長とか、国の武をまとめる役目につくと思っていたんだ。」

いつの間にか食事の手がとまっていた俺をみて、アネスト卿は笑って俺の頭を撫でた。


「それが、傭兵団なんてものを立ち上げて団長をしているのだから、世の中はわからんもんだな。しかもお前を孤児院からひきとって、こうしてわしとお前が会うことができたのだから人の縁とは不思議なものだ。」

アネスト卿は微笑みながら目を細めて俺を見つめた。

その視線が暖かくて、俺は恥ずかしくなって目をそらし食事を再開した。


「ライオネルは実家にちょくちょく顔を出しているのかのう?」

「う~ん、俺もよくは知らないですが、なんか実家関係には遠慮してる感じはしました。」

アネスト卿は大きなため息をついた。


「アイツは昔から、自分は実家に迷惑をかけている、この家にふさわしくないと萎縮しがちだった。ライオネルは末っ子でご両親からも兄たちからも愛されているのだから、もっと実家に顔を見せろと言っておいてくれ」

「わかりました。」

愛され末っ子なおやっさんか…ちょっと笑えるな。



 そこで夕食の時間はおわり、俺はいったんアネスト卿の部屋を退室して簡単な湯浴みをすることにした。

俺はタライにはった湯に、こっそりと持ってきていたバラのエッセンスを垂らし、その湯で体を念入りに洗った。

いや、ほら、一緒に寝たときに、いい匂いって思われたいじゃないか!



 念入りに身支度をすませ、アネスト卿の部屋に戻る。

ノックをして部屋に入ると、アネスト卿はベッドの上で上半身裸になって、男性の使用人に体を拭わせている途中だった。


 いけね! うかれてて入室の許可を聞くのを忘れていた!


「失礼しました!」

慌てて出て行こうとすると、アネスト卿に呼び止められた。

「かまわんよ、今廊下に出たら体が冷えるだろう。…じじぃの裸ですまんが、ソファにでも座って待っててくれ。」


「…よろしければ、近くでじっくりと見せていただいても…?」

俺は擦り手をする勢いで聞いてみた。


 アネスト卿の体を拭いていた使用人が、ギョッとして手をとめたのが見えた。



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