28話 バラは美しく散る
メイドさんがスポンジで泡立て、強すぎず弱すぎずちょうどいい力で俺の身体を洗ってくれる。
それが終わり泡でお湯を流してもらうと、手をとり風呂に誘導された。
「うわぁ。」
バラ風呂は先ほども見たが、実際に入るとまたテンションが上がってはしゃいでしまう。
目の前をプカプカ浮かぶバラをすくって匂いを嗅いでみたり、お湯をかき回してバラで遊んでみたり、メイドさんが見ているのも忘れて楽しんでいた。
「お嬢様、そろそろ湯当たりしてしまいます。上がりましょうか。」
そこで俺はハッと我にかえり、うながされるまま風呂場を出て先ほどの小部屋に戻る。
バラの香りのするタオルですみからすみまで滴をふき取られる。
あ、ちょっと、そこは自分で拭くって!
服を着るのかと思ったら、裸の肌にピタピタと水?のようなものをつけられる。
「これはバラ水と申しまして、お肌に塗るとピチピチのつやつやになります。」
「…それは、まだ私には必要ないですよね…?」
「うっ、女としてそのお言葉は心に刺さりますね…。」
「す、すいません。」
一瞬だが、刺々しいオーラを噴出したメイドさんに瞬時に謝る。
その後、洗濯され綺麗になった俺の服を着せられる。もちろんバラの香りつきだ。
お貴族様の香水は犬の屁より臭いと平民たちの間で笑い話があるが、あれだけバラの匂い続きにも関らずちっともくどくなく嫌な感じはしなかった。
小部屋から出たところで執事のおっちゃんが立っていた。
なんだろう、おやっさんちの執事と比べて体から立ち上る疲労感が半端ない。
目の下のクマがくっきりとしていて、頬がこけて見えるんだが…。
「お食事の準備をと思いましたが、傭兵団のほうからお迎えの方が来られています。」
窓の外を見ればすでに日が暮れていた。
基本、傭兵団の仕事は最低でも夕暮れまでと決まっており、それ以降になる場合は鳥便で連絡を入れるかいったん本部に戻り次の日にまわすことになっている。
いつまでも帰ってこない俺のために使いが出されたのだろうか。
執事のおっちゃんが見事な紅色の包みを渡してくれた。
「こちらはお嬢様が本日お使いになられました、バラの石鹸、入浴用バラのエッセンス、バラ水、バラの香水が3つずつ入っております。どうかお土産にお受け取りください。」
「あ、こちらこそ豪華な風呂をありがとうございました。」
おっちゃんは俺の表情を確認するようにしゃがみこみ、手をプルプル震わせながら俺の手を包み込んだ。
「お嬢様、どうか、どうかこのユーベルト様のバラの功績に免じて、国家魔導士への通報を思いとどまってはいただけないでしょうか!」
「…あ~。」
つまり、これは俺への懐柔というわけだ。
正直俺の人としての尊厳は踏みにじられ、ぜってぇ許さないつもりでいた。
しかしこのバラ尽くしの接待で、俺はもうほっこりしてしまいどうでも良くなってしまっていた。
「わかりました、今回のことはもう私の胸にしまっときましょう。でも、次に失敗したときは容赦なく除草剤をぶちまけるようにお願いします。あまりあの馬k…あのおぼっちゃんを野放しにしないでください。」
「「「かしこまりましたッ!!」」」
執事のおっちゃんとメイドさんズが俺の言葉に一斉に頭を下げた。
「おう、話はついたようだな。」
振り返ると客間らしき部屋からおやっさんが出てきていた。
「んじゃクラン、馬車を待たせているから本部に戻るとするか。おう、バラティーご馳走さんでした。」
おやっさん、あんたもバラ接待を受けてたのか…。
「それじゃ、打ち合わせどおり、後日追加料金を徴収しにうちのモンが来るんでよろしくな。」
「はいっ、本当にお嬢様には申し訳ありませんでした。」
俺が風呂に入っている間に話しはついていたらしい。
「お嬢様!これを。」
屋敷を出たところでメイドさんの一人がバラの花束をくれた。
「今日お嬢様が刈ったバラです。」
「いらねぇぇぇええ!!激しくいらねぇえええ!!」
「す、すいませぇぇんっ!」
その後、俺はおやっさんと馬車に乗りロイス邸を後にした。
「あれ?こっちは傭兵団の方向と違いますよね?」
「お前飯がまだだろ。『俺の台所亭』で飯食って帰ろうか。俺のおごりだ。」
あぁ、確かに腹が減った。あのまま豪華なロイス邸で飯を出されても、喉を通らないだろうな。
「お前の女神のリーシャちゃんも来てるってさ。会いたいだろ?」
「ひぃぃぃいいいぃいいぃいいいいい!! いいっす!行かなくていいっすぅうううう!!」
俺の必死の訴えにより、屋台で軽く食ってその日はお開きとなった。
俺は独身寮へ、おやっさんは奥さんの愛妻料理を食べに帰っていった。
俺はベッドに倒れこむと、ベティちゃんを抱き寄せてそのまますこーんと眠ってしまった。
バラの香りに包まれた俺はその夜、昼間のバラの化け物に食事や風呂を接待される夢を見た。
化け物は遠慮する俺を無理やり椅子に座らせてツタで縛り付け、「僕の顔をお食べ」と顔の部分にあたる花びらをちぎって俺の口に詰め込んだ。
俺が飲み込めずにむせていると、「焼いてもよし!煮てもよし!でも刺身はやめて…ワサビが身体に染みるの…」とわけのわからないことを叫んでクネクネしていた。
その後ツタで風呂場に運ばれ、触手もどきで服をひっぺはがされ一緒に湯につかった。
みるみるうちにバラの化け物はお湯で茹で上がってしおれていった…。
そんな夢を、延々と夜明けまでうなされながら見続けた…。
……あのバラ接待、やっぱ失敗なんじゃねえの…。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ちなみに、プランAは男性客でバラ塩などの料理メイン、プランBは女性用のバラ美容コースです。
石鹸やエッセンスなどは他の魔導士が開発し、ユーベルトはただひたすらにバラのみを研究しています。




