24話 究極の選択
最後のほうで3人称にかわります。
「…なっ!? 」
驚きに叫ぼうとした俺の口に人差し指をあて、リーシャちゃんは満足げに微笑む。
酒場の薄暗い灯りに照らされ、その笑顔は俺と同じ人間には見えなかった。
「うふふっ、やっぱりね。あなた達は下心ばっかりで私の占いを受けているけど、私はちゃぁんといろんなことを『見て』いるのよ。外見は全く違うけど、魂が全く一緒だもの。」
さきほどの優しい口調ではなく、いつも俺たちに接するようなどこか一線を引いたような口調で話す。
「驚いたわ、どこからどう見ても女の子なんだもの。変な魔導士にでも関わっちゃったわけ?」
「何か知ってんのか!?」
くいつく俺に、いったん体を離し足を組みながらリーシャちゃんは俺をおもしろそうに眺めた。
「私たち砂漠の国は、古代の魔道王国の成れの果てという伝説があるの。かつては空を飛ぶ乗り物とかいろいろあったと言われてるわ。夢物語の中だけどね。」
そんな話は始めて聞いた。そもそも平民の俺には外国のことなど全く関係ないし、自分の国の状況なども俺の生活に関係のないことは一切知らない。
「も、もしかして砂漠の国に行けば、元に戻ることができるのか!? 」
「その可能性はほとんど無いわね。魔道に関してはこの国が近隣諸国では一番発達しているし、砂漠の国の魔導士なんて媚薬か大人の玩具かさまざまな快楽の研究しかしていないと思うわ。」
……ろくでもねえ国だな。
一瞬でも期待して馬鹿をみた。
「ん~、でももしかしたら…。」
「もしかしたら!? 」
俺は救いを求めてリーシャちゃんの言葉を待つ。
「お偉い変態ロリコン爺のところになら、そういったことを研究している魔導士がいるかもしれないわね。元に戻る研究の代償として、何日か爺の相手をさせられること間違いないけど。」
「…この国で地道に探します……。」
あ、やべ、ちょっと涙出てきた…。
せっかく掴みかけた希望を、鉈でズタズタに引き裂いた後、さんざん踏みにじったあげくに火をかけられ跡形もなく消滅していく様を無理やり見せられた気分だ。
どんよりと落ち込んでいると、頬にリーシャちゃんの手がかけられた。
「ねぇ、クライン?せっかくその姿になったんだから、私と女の快楽を味わってみたくない?」
うおっと、とんだ爆弾発言きたな!!
だが俺も男だ、いくら弱っているからといってはいそうですか、と女にリードされるわけにはいかない。
「そういうお誘いは、俺が男に戻ってからしてほしいね。」
俺を覗き込むリーシャちゃんの目を挑戦的に見つめ返しながら、俺も彼女の頬に手をかけながら囁き返す。
これでクラインの体だったら、このまま軽い口付けを交わしたり、お互いの舌技で競い合ったりしてしてちょっと燃え上がるんだけどな…。
そんなことを考えていた俺を、リーシャちゃんは鼻で笑った。
「だって私、男には興味ないもの。」
「え゛!? 」
そのままリーシャちゃんの手が妖しく俺の顔を撫で回し始め、俺はくすぐったさと妙な感触に軽く身震いした。
「アンタの顔はとっても好みだったから、これが女の子だったらって本当に残念だったのよね…。ま、私の相方は男が好きだからアンタをずっと狙っていたけど、私もどうしても諦めきれなくてお互いけん制しあってたの。」
おい、今なんて…あっ、そこはだめぇっ!
「…どう?この体を好きにしていいのよ…。」
おぉっ!今のはグッときたぜ!?
しかも絶対不可侵の神域である巨乳を、あろうことか俺の腕に押し付けてきた!!
うおぉぉぉぉっつ!!
い、いや、冷静になれ!俺っ!!
この状況だと、好きにされちゃうのは間違いなく俺のほうだろ!!
あぁっ、この世の何にも換えられないこの感触!!
俺の思考を奪っていく…。
どうする!? 巨乳好きとしてここはリーシャちゃんの胸に飛び込むべきなのか!?
だがしかし、行ったら最後、男として大事なものを無くしてしまうような気がしてならない!!
どうする?どうするよ、俺ぇぇぇぇ!!
「ねぇ…クライン?。これは、神が与えてくれた奇跡なのよ…。」
あぁ、リーシャちゃん、そんな潤んだ瞳で、そんな熱に浮かされたような声で囁かないでくれっ…!!
「二人でこの奇跡を、甘受しましょう…。」
あまぁぁぁぁいっ!!あぁぁあぁぁぁぁぁっ!!
その夜、酒場の喧騒をよそに号泣で夜道を走る幼女の姿が目撃されたという。
「それで、彼の様子はどうだったんだい?」
大理石の床に片膝を付いてリーシャとその相方の男が見上げる先に、豪奢なしかし小さな椅子に腰掛ける少女の姿があった。
少女は13歳ほどの容姿であったが、その顔に浮かべる表情は幼い容姿に似合わない理知的なものである。
腰まである乳白色の長い髪、肌も作り物めいたように白く、またその瞳は角度により色が変わって見え、どの国の特徴も見られない容姿であった。
「それはもう可憐で麗しくて恥ずかしがりやで、もう私の好みの女の子そのものでした!」
「あっはっはっは、リーシャ、君の性癖なんか聞いてたら耳が腐れ落ちてしまうよ。」
少女は鈴を振ったような可憐な声で毒をはく。
「いつもお前はそう性急だから失敗するんだ。もともと彼はお前に懸想していたのに、もうちょっと慎重にことを運ぼうとは思わないのか?」
「うるさいわよ、アンタみたいにいつまでも指くわえて見てたら、横から掻っ攫われるわよ!」
男はため息をつき、己の片割れを見た。
男は顔を隠していた布を外しており、その容姿は男女の違いはあるがリーシャと並ぶとよく似通っていた。
「その微笑ましいアンポンタンな兄弟げんかは、よそでしてもらおうか。」
少女は顔だけ見れば天使のような邪気の無い笑顔で声をかける。
リーシャも男も気まずそうに顔を見合わせ、「微笑ましくなんかない…。」と呟きながら少女のほうに向き直した。
「あれは間違いなく元に戻りたがっていました。そろそろ介入されても良いのではないでしょうか。」
報告するリーシャを、わが子を慈しむ母親のような表情で少女は眺めた。
「自分から訴えてもらわないと、『嫌よ嫌よも好きのうち』って感じのプレイだとしたらとんだ出歯亀になっちゃうね。」
「「そんな特殊な性癖の人間なんてめったにいませんよ…。」」
リーシャと男の呟きが重なった。
少女は肘掛に顔をもたれさせながらため息をつく。
「どうして訴え出ない理由まで聞いてこないかなぁ。」
「すいません、つい本能に従ってしまいまして…。」
「リーシャの馬鹿があることないことを彼に吹き込んだので、しばらくはリーシャも私も接触は不可能と思います。」
少女のため息にリーシャは思わず首をすくめた。
リーシャも男もこの少女の前では子供に戻った気分になってしまう。
「ま、いいや。件の魔導士も引き続き監視させてるから、いざとなったら僕が出るよ。リーシャもアーシェルもまだこの国に滞在するんでしょ?また僕に会いにおいで、待っているからね。」
そこで解散となり、リーシャとアーシェルは一礼をして隠し通路から出て行った。
隠し扉が壁と同化したのを確認し、少女はため息をついた。
「……馬鹿な子ほど、可愛い、か…。」
静かな部屋に再度、少女の姿に似つかわしくない疲労のにじんだため息が響いた。
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