表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/83

15話 娼館騒動

 傭兵団に戻って数日、幼女な俺ができそうな依頼はないままだった。

まぁどんな野郎でも新人になってしばらくは掃除と洗濯が普通なので、俺はとくに気にすることなく日々を過ごしている。


 朝、夜明けに教会の鐘が鳴る。

善良なる市民は夜が明けると同時に自然と目を覚まし、朝の支度をしながら夜明けの鐘を聞く。

しかし傭兵団の連中は前夜に酒を浴びるようにかっくらったりするため、夜明けの鐘で眼を覚ますような殊勝なやつはいない。


前夜の夜勤担当の奴が警邏用の鐘をかき鳴らし怒鳴りながら、独身寮の廊下を歩いて回る。

それで起きた後、次の鐘が鳴るまでに身支度と軽く朝飯を済ませ朝礼に並んでおかないと逆立ち腕立て伏せ500回、足を天上からつるされた状態で腹筋500回の刑となる。

だんだん頭に血が上ってくるんでこれがきついんだ。



 両隣の部屋の連中が眼を覚まし、ゴソゴソと身支度をしている音がしている。

そんなか幼女の俺は布団から体を起こし、下着のなかをのぞいていた。


 別に朝からやましい気持ちになったわけではない。

…その逆なんだ。


「俺の相棒…、朝から元気なお前が懐かしいぜ…。」

俺はしんみりと相棒に思いを馳せていた。


 この体になってしばらく経ち、おやっさんちでいろいろ試したこともあり体の扱いには慣れた。

だが、生理的なものは、なんつうか頭が追いつかない。

俺は健康な成人男子だ。

些細なことがきっかけで息子が暴れ馬になってしまうような単純な男だ。


 それが今ではどうだろう。

この体が女だからなのか、初潮もきてねえようなガキだからなのか、こうムラムラと来るものが一切ない。

枯れたとはまた違う、いや、こういうのが枯れたというのだろうか。

何も湧き出てこない。

たとえるなら物音ひとつない静かな森の中にある、風による揺らぎもない澄み切った泉のようだ。

しかも綺麗すぎて魚も住めないような泉だ。


 これは大問題だ。

男としてこれは大問題だ。

夜眠りにつく前に『The 巨乳 愛蔵版』を読んだが、賢者のよう高潔な精神で芸術を眺めているにすぎなかった。


 幼女の体で性欲がわいてもそれは問題なので、この件はひとまず保留にするとしよう。

俺はベッドからようやく降りると、成人男性用の簡素なベッドのシーツを撫でた。


「女の柔肌が恋しい…。」

もうひとつの問題はこれだった。

もうかれこれ一月ぐらいは娼館に行っていない。

性欲がないなら行く必要ないと思うだろうがそうではない。


 俺は孤児院暮らしで雑魚寝が当たり前だったため、人の気配がないのは結構苦手なのだ。

独身寮に暮らしだした最初はひとりでゆっくり眠れると喜んだのに、あまりの寝付けなさに自分で驚いたものだ。

性欲解消を理由に行くのとは別に無性に人肌が恋しくて、女の柔肌やぬくもりや巨乳の感触を楽しみながら眠りに落ちるために行くこともしばしばあった。


 だがこの体だ。常識的に考えて娼館には行けない。

そんなこんなで俺はなんとなくまいっていた。



 朝礼の後、俺は日課である洗濯をしていた。

昼前に洗い終わった洗濯物を干し、キースの執務部屋に行って弁当を受け取るのがいつもの流れだが、今日は裏庭にキースが姿をあらわした。

「調子はどうですか?」

「ん、もう昼か?これを干したら終わりだ。」


 俺の仕事振りを眺めているキースの手に弁当はない。

「そろそろあなたもその体で仕事をすることに慣れたでしょうから、お昼を食堂なりお弁当なり自分で行ってもいいだろうと団長の伝言です。」

「おぉ、そりゃありがてえや。」


 最初のほうは昼寝の後は疲れてボーっとしていることが多かったが、最近は昼寝の後に傭兵団の広間などを掃除する体力も増えてきた。


 食べる量は少ないが、そろそろ『俺の台所亭』の味が懐かしくてしょうがなかったのだ。

あれを食べようか、これを食べようかといろいろ考えていた俺は、ついポロッとキースに漏らしてしまった。


「ついでに娼館も解禁になったりしねぇかなぁ。」

「…え?」


 キースのギョッとした声に、俺はまずいことを口走ったと我に返った。

「…いま、何と?…」

「…え~っと…。商店街も解禁になったりしねえかなぁと…。」

う、自分でも苦しいとわかる。

他の奴なら軽くしばいて「今のは忘れろ。」と脅迫まがいに説得するのだが、生真面目なキースを相手にごまかせるような機転が今の俺にはなかった。


「クライ…!」

そのとき、天の助けとばかりに昼の鐘がなった。

「キース副隊長!それでは昼の休憩の時間となりましたので、新人クランは午後の掃除にむけて昼食をとるため失礼したいと思います!」

「ちょっと、クラ…」

「それでは、ごきげんよう!」


 俺はキースの言葉をさえぎり直角に礼をすると、後ろも見ずに裏庭を飛び出した。

食堂で昼飯を食って独身寮で昼寝をすれば、キースは執務室にこもるだろうから顔をあわせなきゃそのうち忘れるだろう!


 だが生真面目なキースがそんなことで忘れるわけもなく、昼寝を終えて掃除の準備をしていた俺は団長室に呼び出された。




 キース、お前は俺に問いただすんじゃなくって、よりによっておやっさんに報告したのかよ!


最後まで読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ