エピローグ
二年前、私は本物の佐々木昌子を殺した。
家を出る際に、お母さんがくれたテニスのラケットを先輩からへし折られた時、私に溜まり溜まっていた何かが一気に溢れ出した。
私は死んでしまいたかった。でも、生きていたかった。
あの日、私は双子の様に容姿が似ていて、両親の居なくて影の薄かったクラスメイトの佐々木昌子を屋上に呼び出し彼女を気絶させた。そして、カッターナイフで私と同じ様に【×】の傷を付けると、屋上から彼女の体を宙に躍らせ、今日に至るまで自分は【佐々木昌子】として、のうのうと生き続けた。
別に彼女が憎い訳ではなかった。ただ、自分が苦しみから逃れたいが為に…
「僕なんかが言う資格はないけど。どうして誰にも相談しなかったんですか?あなたにだって、信頼の出来る友達や先生が居たはずだ」
「皮肉にも、お父さんのお陰で罵声を浴びせられたり、他人に裸を見られたりするのは慣れっこだったけど、お母さんからもらったラケットをへし折られた事だけは、どうしても耐えがたかったの…」
「…その気になれば、僕でも買える位の値段だったのに…」
私達はベンチに並んで座った。
「姉さんも僕と一緒に行きましょうよ。そして犯した罪を…」
「もう、姉さんなんて呼ばないで」
私は再び溜息を吐いた。
「分かってる?私は何の罪もない佐々木昌子を殺した挙句、本来彼女がやるべきはずだった事柄を全部奪い去った。そしてとうとう、あなたを人殺しにした。そんな女をあなたはまだ姉として慕うっていうの?」
「…あなたは、仲山が殺された事を知った時から、僕が犯人であると言う事を薄々感づいてたんじゃないですか?そして、仲山と自分は親友だったからと強引な嘘をついて、僕に事件の調査を手伝わせた。そうする事で僕を縛りつけ、これ以上に罪を重ねない様にした。そうまでして自分を救ってくれようとした人を、僕は切り捨てたりはしませんよ」
その言葉に私は正体を暴かれた以上に、救われた様な気がした。
「ありがとう。でも、出所したら早く他の女の子を見つけなさいよ?あなたはどうやら、姉である私に姉以上のただならぬ感情を抱いているみたいだから」
「姉さんこそ、初めからこの男子が自分の弟だってちゃんと分かっていた。なのに、その弟からのお誘いを受けるって、どういう事ですか?」
私達は笑った。まるで昔、一緒に暮らしていた頃の様に…
「…それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
「待って」
私は先に行こうとする康時を呼び止めた。
「馬鹿な事言うようだけど…その前に、お母さんに会いに行っていい?今度は空江として会って、二年前の事や今回の事をきちんと謝っておきたいから…」
康時はこちらの方を向かずに無言で頷くと、「家まで競争」と呟き、いきなり駆け出した。
「ちょっと…もうっ!」
子どもらしさの抜けていない康時に大いに呆れながらも、私も負けまいと、その後を全速力で追いかけた―




