第1話 スライムくん、町へゆく
街角をのそのそと進む、ぷにぷにの小さなスライム。
背中の小さなカバンには、薄く折りたたまれた手紙が一枚。
たった一言だけ、届けたい思いが書かれている。
『届けなきゃ…』
声は出せない。体はぷるぷる揺れるだけ。それでも、このカバンの中の手紙が、意思を伝える唯一の手段だ。
慌てた拍子にカバンが、ころりと外れて転がる。
うにょ~ん!
ぺちゃんこになりながらも、追いかけるスライム。
道端の小さな魔物が、くるりと回ってちょっかいを出す。
『ちょっ…待って!』
体はぷるぷると震えるだけ。
街の人々は少し驚くが、もう魔物であるスライムも、日常の一部。
誰も特別騒がない。
スライムは、のそのそ前に進む。
その小さな小さな体で、大きな使命を背負っていることを、誰も知らないまま。
「これ、落としたでしょ?」
明るい声に振り向くと、女の子が立っていた。笑顔だが、どこか真剣さもある。
スライムは、体でカバンを押して意思表示。
『届けたいんです!』
女の子は驚き、手紙に書かれた名前を見る。
父親の名前だった。
父は昔、自分がお腹の中にいる時に、異世界の門に行ったまま戻っていない。
生きているのか?そんな希望が湧き上がる。
二人は協力して街中を探す。
小さな魔物にちょっかいを出され、カバンが転がるたび、女の子が笑いながら拾う。
「また転がしたの?」
街角の掲示板には、「門付近で行方不明者多数」の貼り紙。
昔の事件が、今も街に影を落としている。
細い道を進んだ先。
小さな小さな魔物が1匹。
その手には探していた手紙。
『返してー返してー』
『仕方ないなあ』
ついに手紙を見つけた二人。
父からの手紙の相手は、もうこの世にいない――亡くなった母親だ。
「でも、娘なら…」
女の子がそっとつぶやく。
スライムはぷるぷる震えながら、器用に手紙を差し出す。
娘が手紙を開き、読む。
“お前たちのことを、いつも想っているよ”
涙がぽろりとこぼれる。
行方不明になった父の思いが、たった一言でも届いた瞬間だ。
女の子は、スライムの背中をそっと撫でる。
「ありがとう…あなたが運んでくれたんだね」
スライムのぷにぷにした体が小さく震える。
弱くても、使命は果たせたのだ。
街の日常は、変わらない。
魔物がちらほら歩き、門の存在も人々の生活に溶け込んでいる。
スライムは、今日ものそのそ歩く。
小さなカバンには、新しい手紙。
次の届け物だ。
道端でまた、魔物がちょっかいを出す。
「うにょ~ん!」
カバンを守りつつ、のそのそ進むスライム。
届けるべき思いは、まだまだある。
女の子は微笑み、少し手を振った。




