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ガンサバイブオンライン ~コミュ障の元箱入り娘。職業、キラーのおじさん~  作者: くろぬか
4章

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第80話 感覚のズレ


「うん? うぅ~ん?」


 なんか、最近変だ。

 やけに身体が重く感じる……というか、もどかしく思える事があるというか。

 朝起きた後、それこそ今みたいな時間が特に違和感がある気がする。

 若干の気怠さの様な物を感じつつ、本日はお弁当を作る日なので早起き。

 お兄ちゃんと、早乙女さん。

 そして黒沢君の分のお弁当を作りつつ、自分の身体に起こっている奇妙な感覚に悩んでいると。


「夢月、おはよ」


「あ、おはようお兄ちゃん。朝ご飯もすぐ出来るから、もうちょっと待っ――」


 キッチンの方へとやって来た兄が、のんびりとした様子で片手を上げようとした瞬間。

 身体の不調ばかり気にしていた為か、私の片付けが疎かになっていた様で。

 兄が右手を上げる速度、方向、そして相手の視線から考えて。

 間違い無く、キッチンからはみ出して置いてしまったお皿に手が当たる。

 それが分かった瞬間身体が反射的に動き、まだ兄が触れてさえいないお皿の落下する方向へと手を伸ばしたのだが……。

 まただ、身体に違和感。

 “遅い”。

 とにかく、どんくさい。

 行動を起こすまでに、とんでもなく時間が掛かる。

 この焦燥感を肌で感じつつ、どうにか反応しようとしたけども。

 見事に兄の掌がお皿にぶつかり、キッチンの上でグラグラと揺れ動いた。

 しかしながら床に落ちる様な事は無く、調理台の上でちょっと大きな音を立てただけに終わった。

 なんだけども……反応しようとして失敗した私は、急にその場で転倒してしまうという。


「夢月!? だ、大丈夫か!? すまん、驚かせちゃったか? 皿、すげぇ音しちゃったもんな……」


「う、ううん。大丈夫、大丈夫。あ、あはは……」


 急に過剰な程動いた私に驚いたらしく、お兄ちゃんは慌てて私の事を抱き起こしてくれるのだが。

 やっぱり、なんか変だ。

 もしかして体調不良か何か? なんて思っていたんだけど。

 やけに周囲を一気に観測する癖が付いているのと、それに対して“最悪”を考えてしまい、結果として何かが起こる前に反応しようとしている……みたいな。

 なんだろう、今までこんな事なかったのに。

 というか、リアルの私なんていつもどんくさい事ばかりだったから。

 さっきみたいなお皿に当たるかも、なんて絶対気が付けない筈なのに。


「本当に大丈夫か? 最近、ちょっと疲れてるんじゃないか?」


「だ、大丈夫だよお兄ちゃん。心配し過ぎだってば」


 どうにか笑って誤魔化そうとするが、相手は非常に心配そうな表情。

 でもまぁ、とても変な行動をしてしまったのは確かだし。

 相手からすれば、自分がお皿にぶつかって大きな音を立ててしまい、それに驚いた私が急にずっこけた様に見えたのかもしれない。

 それはそれで恥ずかしいモノがあるけど……。

 とか何とか思いつつ、お兄ちゃんには笑って誤魔化してから。

 再び食事とお弁当の準備を始めたは良いのだが。


「あ、ちょっとコゲちゃった……」


 ほんのちょっと、さっきの出来事の間放置してしまった料理には。

 少しだけ焦げ目がついて、見た目が悪くなっているのが見受けられた。


「こ、これ私の朝ご飯にするから。作り直すね? ごめんお兄ちゃん、もう少しだけ待ってて?」


「ん? いやいや、それくらい全然平気だろう? 夢月の料理は、元から滅茶苦茶旨いんだ。少しくらいコゲたって何も問題無い」


「駄目だよ……ちゃんとしないと。それに、他人様に渡すお弁当なら余計に」


 そんな事を言いつつ、焦がしてしまったソレを自分の皿に盛り分けていると。


「夢月、じゃぁソレは俺の朝飯にしてくれ」


「えと……でも」


「いいか? 誰だって失敗するのなんか当たり前だ。ここでは、そんなのを怒る奴はいない。実家に居る時みたいな、悪い癖。また出てるぞ?」


「…………でも、私に出来る事、これくらいだし」


 完璧だと思えるまで、失敗しなくなるまで練習しなさい。

 全てを出来るようになれとは言わないから、自らに出来る事くらいは他者から完璧だと思わせる結果を残しなさい。

 これら全てが、貴女の評価に変わるのですから。

 失敗を表に出せば、自分どころか関わっている人の評価まで落とす失態だと自覚しなさい。

 料理を教わっている時、お母さんからよく言われていた事。

 家の事は、とにかく厳しく教えられた。

 料理や洗濯、家計簿の付け方というか……ほとんど簿記。

 所謂“主婦”のお仕事みたいな、家を支える事柄に関しては徹底的にやらされた。

 もしもこれ等に不満を持ち、やりたくないと嘆くのなら。


「他者に負けない何かを見つけ、それで一生食べていけるだけの技術を身に付けなさい。それが出来たのなら、私は何も言いません。貴女にソレが出来ますか? 自信を持って即答できないのなら、今出来る事を完璧にする事から始めなさい」


 そんな技術、私には絶対習得出来ないから。

 なので“私にも出来る事”だけは、必死で覚えて怒られない様にした。

 それなのに……こうして、初歩的な失敗をしてしまったのだから。

 やはり、気分は落ち込むと言うものだが。


「いただきます」


「ちょ、え? お兄ちゃん?」


 先程失敗して、皿に移したお弁当のおかずを。

 あろうことか兄は手掴みで口に運び、そのままパクパクと全部平らげてしまったではないか。

 唖然としたままこの光景を眺めていると、兄は。


「うんまい、ものっ凄く。だから安心しろ、夢月。これくらい、ミスでも何でもねぇ」


 そんな事を言いながら、ニカッと良い笑顔を見せてくれる。

 ついでに、グリグリと頭を撫でられてしまったけど。


「ごめん……ね? ありがと、お兄ちゃん」


「いいや? こっちこそ旨い飯をありがとうだ。というか……そっちより、さっきの。本当に大丈夫か? どっか怪我してたりとか、体調不良だったりしないか? 一回熱測って来い」


「そ、そっちは本当に大丈夫から! ホント、うん!」


 励まして貰ったり、フォローしてもらったり。

 更には心配までされてしまうという、何だか申し訳ない朝になってしまった。

 ずっとお兄ちゃんに頼りっぱなしなのだから、せめて私の出来る所では迷惑掛けない様にしたいのだが……。

 こうして失敗した時も、兄は笑ってくれる。

 やっぱり私は、この家に来られて凄く幸せな生活を送っていると思うんだ。


 ◆


「白川さん、何かちょっと疲れてる?」


「そ、そんな事ないですよっ!?」


 その日のお昼、黒沢君と一緒にご飯を食べていたのだが。

 何故か、彼にまで心配そうな眼差しを向けられてしまった。


「俺の気のせいじゃ無ければ、なんだけど……少し、瞼を閉じてる時間が長い気がして」


「え、え? そんな事まで観察してるんですか?」


「ご、ごめん! 気持ち悪いよね!?」


「あぁぁ、いえこっちこそごめんなさい! 違うんです! 瞬きにまで違和感を覚えるのって、凄い観察力だなって思っただけで! 決して嫌だとかそういう事じゃないんです!」


 物凄い勢いで謝罪されてしまい、此方も言葉不足なのを必死に謝っていると。


「え、と……ね? ちょっと身近な人で、似た様な症状がたまに出る人が居るっていうか。普通は目が疲れたりした時って、目頭をグリグリしたりとか、目薬さしたりとかなんだけど。一回の瞬きが少しだけ長い時って、目に見えてる情報を一旦頭の中で処理しようとしているというか。現実との違和感を脳内処理だけで収めようとしている証拠だって、そう聞いたから……」


「現実との違和感、ですか?」


 不思議な事を言われてしまい、思わず首を傾げてしまったが。

 彼は一旦お弁当を置き、此方を真っすぐ見つめて来てから。


「最近今まで以上にVRの世界に入ったりとか、リアル以上に集中してる事とかって、ない? 所謂リアルとVRの逆転現象にも近い一種なんだけど、本当に集中力が高い人ってそうなりやすいらしいんだ」


 その言葉と共に、なんだか今発生している違和感が腑に落ちた気がする。

 46leather(サブキャラ)の方でも、極振りしてしまった影響で……と言ったら良いのか。

 高速移動する時には、とにかく周囲に忙しく視線を向ける癖がついてしまったのだ。

 6keyの方でも、かなりアクロバティックな動きはしている気がするんだけど。

 あっちに関しては、ログアウトすればきっちり感覚が戻るから……あんまり、違和感を持った事が無かったが。

 もしかして、サブキャラは私の身体の特徴に合わせ過ぎたから、その感覚に引っ張られているって事なのかな?


「えぇと……ホント、余計なお世話かもしれないんだけど。一回、詳しい人に聞いてみる? 俺の勘違いとかだったら、全然断わってくれても良いんだけど。そういうのって、早めに対処しておかないと本当に身体の負担に繋がるらしいから……良ければ」


 何だか物凄く怖い事を言われてしまったけど。

 でも実際黒沢君は物凄く心配そうな瞳で、此方を見つめているし。

 いきなり病院に行きます! みたいな事だったら、やっぱりちょっと怖いけど。

 もしかしたら、私と似た様な状態の人……からお話を聞くだけだと言うのなら、良いのかもしれない。

 全く知らない人というのも、私としては怖いんですけどね。

 まったく喋れる自信とか無いし。


「ちなみに……その方、というのは?」


「あっ、そっちは安心して!? 変な人じゃないっていうか、俺の“兄貴”だから!」


 おぉ、ならひとまず安心……なのかな?


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