91話 決着・その1
奴隷商人と攻防を繰り広げる中……
ボンッ!
街の少し離れたところから轟音が聞こえてきた。
続いて、地震が起きたのではないか? と思うほどの衝撃で地面が小さく揺れる。
「なんじゃ……?」
奴隷商人が鋼糸を操り、防御を固めつつ後退して、音がした方にちらりと視線をやる。
同じく、俺も軽く視線を動かした。
奴隷商人はなにが起きたか理解していない様子だが……
俺はすぐにわかった。
音が聞こえてきたのは施設の方角。
これだけなら心配するところだが……
同時に、とても膨大で……そして、親しみのある魔力を感じた。
師匠のものだ。
今までと違い、とても洗練された魔力で……
数倍……いや。
十倍近い量を感じた。
「ようやく獅子が目覚めた、ってところか」
「獅子じゃと……?」
「どこかのバカが獅子の尾を踏んだんだろうな。それで激怒した、ってところだが……ははっ。ちと心配してたが、まったくの杞憂だったな。ぜんぜん変わってねえじゃねえか」
物理的に街が震えて。
その後、強大な圧が街全体に広がり、精神的に震えてしまいそうになる。
師匠が完全に、完璧に本気になった証だ。
こうなると、もう終わりだ。
誰にも師匠を止めることはできない。
師匠に敵うヤツなんていないだろうし……
権力で抑え込もうとしても無理。
その権力ごと爆破されるのがオチだ。
デストロイヤーというか、バーサーカーというか。
完全にブチ切れた師匠は、敵と定めた者を全て完全粉砕するまで止まらない。
領主と奴隷商人は、自分達の手で最悪の相手を目覚めさせてしまい、破滅を招いてしまった、というわけだ。
「ま、俺としては歓迎することだな」
しおらしい師匠も珍しかったが……
やはり、こうでないとな。
色々と大変ではあるが……
やりたい放題して、『魔王』とさえ呼ばれるような師匠の方がとてもしっくりと来る。
「ふむ……儂の目の届かぬところで厄介なことが起きているようじゃな」
「未知の出来事ってのはワクワクするだろう?」
「そのような子供心は儂にはもうないな。計画をきっちりと完遂せねば苛立つほどじゃよ」
「悪いな。なら俺は、その計画をぶち壊してやるよ……てめえをぶっ飛ばすことでな」
「若造が、よく吠える」
「老害は引っ込んでろ、ボケ」
睨み合う。
奴隷商人の殺意が膨れ上がっていくが……
ただ、その中にわずかな焦りがあった。
予定外の事態。
懇意にしている極上の客の危機。
そして俺。
様々な予定外が重なり、ほんのわずかではあるが心を揺らすことになった。
おいおい、ふざけているのか?
そこらの有象無象なら、多少、心が乱れてもなんとかなるだろう。
この奴隷商人の腕なら目をつむっていても数十人を制圧できるだろう。
ただ……
俺を有象無象と同じにするなよ?
俺は治癒師だ。
貴様のような悪をぶん殴ることで世の中を少しでも良くするという使命を持つ。
故に……
「がっ!?」
前に出て。
瞬間的に奴隷商人の懐に潜り込み。
その勢いを乗せて拳を放ち、腹部にめり込ませてやる。
ダメージを受けて前かがみになったところで、その顎を膝で打ち上げた。
今度は仰け反るので、腕を掴み、引き寄せる。
引き寄せると同時に頭突きをして、鼻を砕いて……奴隷商人の腰を掴み、地面に叩きつけるようにして投げつけた。
「ぐっ、が……!? 小僧、ごときが……!」
「そのごときに負けるんだよ、てめえは」
「なにを、バカな……」
奴隷商人がこちらを激しく睨みつけながら、ふらふらとしつつ立ち上がる。
「なぜ、急にここまで強く……」
「なぜ? そんなこともわからねえのか? はっ、てめえはとことん二流だな。そんなんで俺の治癒の邪魔をしようとは笑わせてくれる」
笑い、言い放つ。
そして俺は……




