79話 守るものとその重さ
「……」
施設にあるエヴァの部屋。
エヴァは窓辺に立ち、外を静かに眺めていた。
視線の先で子供達が遊んでいるのが見えた。
笑顔を浮かべて楽しそうにしている。
その笑顔はエヴァに癒やしをくれる。
心が温かくなる。
ただ、同時に不安も覚えた。
もしも子供達の笑顔が失われるようなことがあったら?
もしも子供達がいなくなるようなことがあったら?
ただの可能性の話だ。
明日、隕石が降ってくるかもしれないと怯えるのと同じようなことで、考えても仕方のないこと。
理不尽な不幸などは突発的にやってくる。
考えても防げるものではない。
それでも考えてしまう。
「私は……」
エヴァは、そっとカーテンを閉じた。
「よう、邪魔するぜ」
「ノックをしてください。それと、私の返事を待たずに入ってこないでください」
現れたのはセイルだ。
昔、旅をしていた時に気まぐれでとった弟子。
実はものすごい才能を秘めていて。
いずれ自分を追い越していくだろうと……いや。
すでに追い越しているかもしれない。
セイルには話していない。
これからも話すつもりはないが……
セイルとの出会いがエヴァの全てを変えた。
子供を愛しく思うようになり、自分になにかできることはないか? と考えるようになって。
その結果、この街で行き場のない子供達を引き取ることにした。
そして……
「どうした、師匠。なんか暗い顔してるぞ」
「……なんでもありません。それより、どうしたのですか?」
「ちと話があってな」
「わかりました」
エヴァはお茶を淹れて、残っていたお菓子と一緒にセイルに差し出した。
「さっき、領主の屋敷を探ってきたんだけどな」
「領主様の?」
「そこで見たもの、聞いたことから判断すると……領主は人身売買に手を出しているぞ」
「……」
エヴァは小さく息を呑んだ。
「当然知っているだろうが、奴隷は禁止だ。が、手を出すなって言われているものほど人は手を出したくなる。大金を払ってでもな」
「……証拠はあるのですか?」
「状況証拠と、俺の主観的な話になるけどな」
領主の屋敷を探った時に聞こえてきた会話。
あれは、人身売買に関するものと考えれば色々と納得できる。
「領主がここに金を出したのは慈悲からじゃない。いいように利用するためさ」
「……」
「ガキは高く売れるらしいからな。施設を運営するという名目でガキを……商品を堂々と集めることができる。その上、周囲からは素晴らしい行いだ、と称賛される。一石二鳥だな」
「そのようなことが……」
「誤算があるとすれば、師匠の存在だな。領主は、施設をしっかりとしたものに見せるため、師匠を利用しようとしたんだろうが……思っていた以上に師匠が有名になりすぎて、パワーバランスが崩れた。だから、師匠から施設を取り上げるために色々してんだろ」
「……っ……」
エヴァは知らず知らずのうちに自分の身を抱くような仕草をとる。
それは恐怖の現れ。
子供達がいなくなる?
施設が潰されてしまう?
想像しただけで震えてしまう。
そんなエヴァを見て、セイルは小さな吐息をこぼした。
「師匠……あんた、弱くなったな」
「私が……弱く?」
「今のあんたなら、軽々と超えられる気がするぜ」
「……」
エヴァは否定できなかった。
前々から自覚していたことだ。
一人だった頃はなんでもできた。
気に入らない相手がいたら魔法で吹き飛ばして、貴族が相手だとしてもへりくだることはない。
どこまでも自分の意思を貫いていく。
しかし今は?
子供達のことを一番に考えて、施設の存続を考えて。
自由に動くことができないでいる。
ただ、弱くなったと認めたくはなかった。
それはつまり、子供達が枷になっていると。
子供達のせい、ということになってしまうから。
「俺が言う弱いは、ちと違うぜ?」
「え……?」
ふと、セイルがそんなことを言う。
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