52話 神殿と加護と恩恵と
「おぉ……! これはこれは、ようこそいらっしゃいました、セイル・セインクラウス殿。お仲間の方々も、歓迎いたしますぞ」
神殿に顔を出すと、長い髭のじいさんが笑顔で俺達を出迎えた。
この神殿のお偉いさんらしいが……
「……覚えてねぇな」
福祉、奉仕、社会的弱者の保護、個人能力のサポート……などなど。
神殿というものは神様に対する信仰の場だけではなくて、様々な事を行っている。
その中の一つに、個人の能力を調べる、測るということがある。
本人の適性を調べて。
正しい道、生きやすい選択を後押しするのだとか。
自分の生き方なんて自分で決めりゃいいと思うが……
ま、神殿に来てまで野暮はやめておこう。
そんな神殿を頼る人は多く、いつも混んでいることが多い。
適正検査となると予約が必要になることも。
ただ、今回俺達はギルドが仲介に入ってくれて、スムーズに来訪することができた。
その際、神殿やそこで働く人達のことも教えられたのだが……
「……やっぱり覚えてねぇな」
悪人ではなくて、きちんと仕事をしてくれるのなら、他はどうでもいい。
適当な性格のせいか、どうでもいいことは忘れたな。
「本日は適性検査と伺っていますが……」
「ああ」
ユナとアズを見た。
二人はこくりと頷いて、前に出る。
「えっと……私達の適性検査をお願いしたいんです」
「冒険者とか、治癒師関連とか、できればそういうのがあると嬉しいわ!」
そういうのは自分で選べないと思うぞ。
「ふむふむ、なるほど……でしたら、まずは冒険者として有効なスキルを持っているかどうか。あるいは、どの方向が正しいか。それを確認いたしましょう」
「「お願いします!」」
「そちらの方は……?」
「あたしは付き添いだから、気にしないで」
チェルシーは適当に頷いてみせた。
チェルシーは魔法専門で、迷うということもない。
これまでもこれからも魔法使い一筋だろう。
アズとユナも、チェルシーのように迷うことがないように、いい検査結果が出るといいが……
まあ、そこは神頼みしかないか。
さすがにここは俺の出番はない。
「ねえねえ」
チェルシーが、そっと小声で話しかけてきた。
「アズちゃんとユナちゃん、どんな検査結果が出ると思う?」
「エルフだし、魔法適性が高いんじゃないか? そうなったら、チェルシーが面倒みろよ」
「それはまったく問題ないけど、二人は、セイルにも教えてほしいと思うよ?」
「あ? 俺は治癒師だから、普通の魔法使いのことなんてさっぱりわからねえぞ。チェルシーが教えた方が何倍も効率がいいだろうが」
「はぁ……これだから」
なぜか呆れられてしまうのだった。
――――――――――
「では、こちらの水晶に順番に手を」
「「はい!」」
検査をする部屋に案内された。
じいさんの言うことに従い、アズとユナは、部屋の中央に置かれている水晶に、それぞれ順番に手を置いた。
水晶が淡く輝く。
「ふむ」
良い結果なのか。
それとも悪い結果なのか。
じいさんは神妙な顔をしているため、後者の可能性が高いか……?
「ど、どうなんですか……!?」
「あたし達、どんな適性があるの!?」
「それは……」
じいさんは目を逸らす。
これは、悪い結果か……?
ややあって吐息をこぼす。
「……特にこれといった適性は見つかりませんでした」
「えぇ!?」
「そ、そんな……」
「申しわけありません。こういうことはほとんどないのですが、裏を返すとたまにあり……その方面では、なんの適性もない、ということはなくはありません」
「「……」」
二人は言葉を失い、絶望的な表情に。
それを見て申しわけないと感じているらしく、じいさんが慌てた口調で言う。
「で、ですが、それは冒険者と治癒師関連だけという話です。他の分野を含めて、全方位で調べれば、必ず適正が見つかるでしょう」
「他の分野、って言われても……」
「そんなところでは……」
アズとユナが喜ぶことはない。
冒険者。
あるいは、治癒師としてがんばりたいと思っていたのだろう。
……さすがにここまでくれば、俺でもわかる。
「二人共」
「わっ!?」
「ひゃん!?」
わしわしと、アズとユナの頭を撫でた。
「あう、髪が……」
「な、なにすんのよ!?」
「気にすんな」
「「え?」」
「適正なんてどうでもいいだろ。指針のようなものだ。適正があろうとなかろうが、やれるヤツはやれる。できないヤツはできない。ようは、やる気の問題だ。アズとユナなら、まあ……適正なんて気にしなくても、色々とできるだろ」
「……セイルさん……」
「もしかして……あたし達のこと、励ましてくれているの?」
「しけた顔をしたやつが近くにいると鬱陶しいだけだ」
気がつけば、チェルシーがにこにこ笑顔になっていた。
「あたし、セイルのそういうところが好きかな♪」
「うるせえ、黙ってろ」




