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第2-2話 ”瞬間移動”でズルしてみます

 

 レベル40を目指す狩りは来週の給料日後に行うとして……昨日ゲームにログインしたため、MPが貯まり、また使えるようになった”瞬間移動”か……


 そして減ったレイドボスのHP。


 俺は[探検者になろう]アプリを起動して確認を行う。 情報画面に表示されるHPは、数日前のモノと同じだった。



[レイドボス:ニーズヘッグ(残りHP2,125億1,007万7,621)]



 俺が”瞬間移動”を使ったから、減ったのだろうか?


 そもそも戦えないレイドボスのHPが減ることに何の意味が……もう一度、”瞬間移動”を使ってみるか……どうしても気になった俺は、試してみる事を心に決める。


 現在の時刻は午後6時。

 定時退社した俺は、JRの駅に向かうため市内の繁華街を歩いていた。


 この街は兵庫県の県庁所在地。 海と山に囲まれた風光明媚な景色と、100万ドルの夜景、美味しい牛肉がウリの街だ。

 大きな交差点に差し掛かり、ふと対面の大型家電量販店が目に入る。


 ”PB5先着販売! 明日AM10時から店内で整理券を配布します! 事前待機はご遠慮ください”


 PB5……日本最大の総合情報家電メーカーがこの冬に発売した最新ゲーム機だ。


[探検者になろう]に対抗するためか、フルまではいかないが、簡易ダイブが可能になるらしい。


 欲しいけど、こういうの転売ヤーが買い占めるからなぁ……職業暇人な奴らに対抗してもね……品薄が解消されるのを待とう……ため息と共に諦めようとした俺の脳裏に、一つのアイディアが浮かび上がる。


 !! どうせ”瞬間移動”を試すなら、自分が嬉しいことに使ってもいいのでは?

 俺は急ぎ帰宅すると、来月の資金計画を練り直すのだった。



 ***  ***


 結論から言うと、あっさり買えてしまった。


 あの大型家電量販店によく行く俺は、店内のレイアウトも把握している。

 整理券配布の数分前に男子トイレの個室に瞬間移動し、何食わぬ顔で整理券をゲットしたのだ。


 今俺の目の前には、新品のPB5がある。


 ……だが何だろう。このモヤモヤは。 チートを使ってゲームをクリアしてしまったときの、何とも言えない居心地の悪さが俺を包む。


「ユウにぃ、ズルじゃん」


[ズルですね]


 PB5を自慢しようと呼んだふたりのコメントも手厳しい。(ちなみにエレンはリモート参加)


「そりゃ~、ク○テンバイヤーよりはマシだけどぉ……こーゆうズルは凛ちゃんいけないと思うわけですよぉ……うう、ユウにぃ、汚れてしまったのね……」


[…………(じーっ)]


 うう、ふたりの視線が痛い……


「いやまてまて……前回”瞬間移動”を使ったらレイドボスのHPが減ったじゃん? もう一度使ったらどうなるか、試してみるのは普通だろ?」


 俺は、苦しい弁明を試みる。


「…………それなら、適当に公園とかで試せばよかったんじゃないの?」


 ぐはっ!

 自分の欲望に使ったことは否定できないので、ダメージを受けて倒れる俺。


[ユウ……ダメ。 ニーズヘッグのHP減ってない]


 もうやめて! 俺のライフはゼロよ! 追い打ちを警戒する俺をスルーし、エレンが[探検者になろう]の情報画面を見せてくる。



[レイドボス:ニーズヘッグ(残りHP2,125億1,007万7,621)]



 ……確かに、1ミリも減ってない。


「う~ん、それなら……減らすための条件は何だろう?」


「子猫を助けたから……な~んちゃって」


「……そんなわけないだろう。 もしそうなら、俺たちはボスを倒すまでに、日本中の子猫を助けなきゃいけなくなるぞ」


 前回減ったHPは約200万。 単純計算すると10万匹以上の子猫を助けることになる。

 動物愛護団体もびっくりだ。


[…………(じーっ)]


 なぜかエレンは凛の冗談を真剣に聞いている。


 エレンはかわいいモノ好きだからな……コイツの圧に負けると俺は子猫救援業者に転職することになってしまう。


 まあ、何にしろ……


「条件はよくわからないという事だな……あとこのPB5、やっぱモヤモヤするから、児童福祉施設に寄付するわ」


 俺の友人が、市内の児童福祉施設で働いている。

 子供たちの遊具が足りないって言ってたしな。 そうすれば俺の悪行もプラマイゼロだろう。


「……えっ!? ユウにぃ、いいの? ズルしたとはいえ、ちゃんと自分のお金で買ったんでしょ?」


 ……凛の奴、さんざん煽ったくせに……さてはコイツ、自分がプレーしたいだけだな。


[ (こくこく) ]


 なぜかエレンは満足げに頷いている。


「今更惜しんでもだめだぞ。 もう決めたんだ」


 俺はさっさと友人に連絡を取ると、PB5を梱包し、近くのコンビニから発送してしまった。


「……にひひ。 結局イイコトするユウにぃ、結構好き」


 凛がニヤニヤしながら俺を褒めてくれる。

 うう、惜しくなんか……惜しくなんかないぞっ!


 どちらかというと、財布のダメージの方が大きかったりする。


「アタシのバイト代からポテトLオゴってあげるから、元気出してよ」


 凛がポンポンと肩をたたきながら慰めてくれるが、JKにポテトおごって貰うとか……大人の威厳が……いやむしろ逆援助的にアリなのか?


 ピコン!


 俺の思考が危険な方向に行こうとした時、スマホの[探検者になろう]アプリが通知音を奏でる。


 これ、まさか……!


「わお、レイドボスのHPが……減ってる!?」



[レイドボス:ニーズヘッグ(残りHP2,124億2,235万,7000)]



[イイコト、だいじだいじ!]


 なぜかエレンは嬉しそうに飛びはねている。


「”バグスキル”を使って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というルールなのか?」


 どうやら俺たちは、[探検者になろう]の秘密を1つ暴いてしまったようだ。


【読んで頂き、ありがとうございます!】


ゲームの秘密が少しだけ明らかになりました。


ブックマークや☆☆☆☆☆評価で本作を応援していただければ幸いです。

今後ともよろしくお願いします!

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