第2-1話 課金アイテムで経験値稼ぎ
[バグスキル:瞬間移動]で子猫を助けた日の夜。
俺たちはまた、”トールの迷宮”を訪れていた。
ちなみに、助けた子猫は無事リンの家に引き取られたので、安心してほしい。
「ハル」という名前をもらい、リンの家で絶賛くつろぎ中。
「ハルちゃん、かわいいでしょ~? うりうり」
リンが得意げにスマホに保存したハルの映像を見せてくる。
くっ……俺は賃貸アパート在住なので飼えない……週5で会いに行ってやる……!
「うわ、JKの家に週5で来るとか、アブない人だよ」
「ハルに会いに行くんだって!」
「!! !! カワイイ!」
コントを繰り広げる俺たちを横目に、子猫の姿に興奮するエレン。
彼女はこう見えてかわいいモノ大好きなのだ。
趣味は日本全国のゆるキャラ集め。
こういうギャップ萌えはあざといと思う。
今日確認したいのは、”バグスキル”について。
昨日はレベル30に到達したときに解放された。
だが、レベル31、32に上がったときには何もなかった。
そこに何か法則性があるのか、調べたいと思う。
という事で、やることはいつもと変わらないのだが、今日は迷宮攻略より経験値稼ぎに重点を置きたい。
そこで、登場するのが課金アイテムだ。
基本的に課金要素が少なく、どうやって利益を出しているのか不明な[探検者になろう]だが、数少ない課金要素が”魔獣寄せ”のアイテムだ。
ランダムにはなるが、通常の5~10倍の経験値を得られるレア魔獣も出現するのだ。
こんなこともあろうかと、冬ボーナスで買っておいたのだ。 社会人アタックである。課金は計画的に!
「よし、”魔獣寄せ:プラチナ”を使うぞ」
「わお! 一回2,000円! さっすが社会人」
「……おかねもち」
ふたりが称賛してくれるが、2,000円で感心されるのも社会人として悲しい……他の課金アイテムとしては、ゲーム内衣装があるのだが……俺が購入してふたりに「着て」などと言ったら通報物なので我慢している。
……先月の新作、ミニスカナースに虎ビキニだったな……いくら今年が寅年とはいえ……運営はヘンタイに違いない。
また話がそれた。
ともかく俺はアイテムスロットから”魔獣寄せ:プラチナ”を選び、使用した。
リィン……リィン
空中に一対の鈴が現れ、涼やかな音色を立てる……ふわっと鈴が光の粒子になり、エフェクトが消えた後には……
黄金色に輝くもふもふネズミが2体出現していた!
「うわ! ”ゴールデンラッテ”じゃん! しかも2体!」
”ラッテ”とは、このゲーム最弱にしてマスコットのネズミ型魔獣。 ずんぐりモフモフしており、ネズミというよりカピバラに見える。
なぜラットじゃなくてラッテとドイツ語なのかは疑問だが、とにかく”ゴールデンラッテ”はたくさんの経験値をゲットできるボーナス魔獣(メタ○キングみたいなものだ)
ありがたく狩らせてもらうぜ!
「リン、エレン! 行くぞ、逃がすなよ!」
俺の掛け声とともに、ばっと散る3人。
この手の魔獣あるあるとして、すぐ逃げるので、最初の足止めが重要だ。
「”アースバインド”」
[ちゅちゅっ!?]
ナイス! エレンの拘束魔法が発動し、ゴールデンラッテAを地面から生えたツタが絡み取る。
これで一体の動きを止めた!
だが、流石は回避率最高峰のゴールデンラッテ。
もう一体はツタを回避すると、逃亡体制に移る。
くっ……俺は防御寄りのスキル構成なので、”素早さ”が低いのだ。
こういう時は!
「リン!」
「にひひ、まーかせて!」
素早さ、打撃力全振りのリンの出番だ。
「いっくぞー!」
タンッ……タンッ……スタッ!
[ちゅっ!?]
おおっ、リンの奴、ダンジョンの壁、天井を使って三段ジャンプすると、ゴールデンラッテBの背後に回り込みやがった!
超機動に動揺するゴールデンラッテB。
……うーむ、リンの奴あそこまで動けたっけ?
基本的にゲーム内の動きはプレーヤーの身体能力をベースに、レベル・取得スキルに依存する。
何しろフルダイブなので、あまりに突拍子もない動きが出来ると俗に”ダイブ酔い”と呼ばれる悪影響がリアルに及ぶため、リミッターが掛かっているらしい。
そんなわけなので、素の身体能力があまり関係ないソードマスター・シューターや、魔法使い系のジョブが人気であり、リンの様に格闘系のジョブを中心に取得しているプレーヤーは少ない。
「にっひ~! リンちゃんいつにもまして絶好調! 逃がさないよ~!」
ガッ……
[きゅう]
正拳一閃、クリティカルが炸裂し、ゴールデンラッテBは目を回した。
よし、こうなれば貰ったも同然……俺のシールドアタックとエレンの攻撃魔法で、ゴールデンラッテ達は俺たちの経験値になった。
*** ***
[258,000の経験値を獲得。 クランレベルが35に上がりました]
「すっご! ゴールデンラッテ2体はヤバイね」
リザルトウィンドウが表示され、大量の経験値を獲得したことが知らされる。
一気にレベル35まで上がってしまった。
[……ザザッ……レベル35への到達を確認……次に獲得可能な”バグスキル”を確認できます]
おっ……今回は変化があったぞ……レベル30になったときと同じく、メッセージウィンドウの端に小さく”▼”の印が付いている。
前回と同じように、”▼”印を指先でタップする。
メッセージウィンドウがスライドし、そこに現れたのは……
”バグスキル:治癒術”
との表示だった。
治癒術……スキルの文字がグレーなので、実際に装備することはまだできないようだ。
先ほどのガイドメッセージの通り、次に獲得可能な”バグスキル”という事だろう。
「”治癒術”……回復魔法とは違うの?」
リンが当然の疑問を口にする。
このゲームでの回復手段は、ポーションなどの回復アイテムと回復魔法に限られる。
念のためヘルプ機能で探してみたが、”治癒術”のスキルはゲームスキルの一覧には存在しない。
”瞬間移動”に引き続き、リアルで使えるとは思えないスキルが出てきてしまった。
使うとどんな効果があるのだろうか……
「ユウ……私の分析では、5レベル上げるごとに次のスキルが確認でき、10レベルごとにスキルを入手できるようですね」
俺がうむむと唸っていると、横からエレンが口をはさんでくる。
「エレンちゃん? 法則性が分ったの?」
「法則性というか……経験則ですが。 まずはスキルをチラ見せして期待感を煽り、ゲットする為に課金アイテムを買わせる……大変理にかなっているかと」
なるほど……いきなり商業クサい話になったが、そうかもしれない。
問題は、スキルの効果がよくわからないことだが。
「…………(じー)」
「…………(じーっ)」
と、ふたりがキラキラと期待のこもった目で俺を見ているのに気づく。
……もしかして、早くレベルを上げてスキルを見たいのかもしれない。
「…………(じー)」
「…………(じーっ)」
「…………(じー)」
「…………(じーっ)」
「あーもう! 分かったよ! 来週給料日だから、そん時な!」
レベル40にあげるには……”魔獣寄せ”の平均予測獲得経験値から計算すると……約2万円かかる……。
来月は少し金欠になりそうだ……一人暮らし社会人は意外に可分所得が少ないのである。 クルマの維持費もあるし。
けっきょく俺はふたりの圧に負け、課金を決意するのだった。




