第4-2話 バレンタインと銀行強盗
2月14日、冷え込んだ夜空は満天の星空。
スクールバッグにはラッピング済みチョコブラウニー。
髪型の崩れ……なし!
ナチュラルメイク……オッケー!
制服のシワ……アイロン掛けてきた!
あれ、なんでアタシこんなに楽しみにしてるんだろ~?
たくさんの人たちが行きかう中央駅の北口。
これも浮ついてる自分の気持ちのせいか、やけにカップルが目に付く気がする。
女子にとって大切な一日……その夜が始まろうとしていた。
と、アタシの前をひとりの女子高生が通り過ぎる。
……あっ……アレはシオリ……心ここに在らずという表情で、ふらふらと街に消えていった。
ゴメンねシオリ、強く生きろよ……アタシは心の中でシオリの幸せを祈りつつ、そわそわとユウにぃを待っていた。
*** ***
待ち合わせ時間まであと5分か……なんとか間に合いそうだ。
俺は会社を出ると、駅の北口に向かって急ぎ足で歩いていた。
こういうイベントは、時間厳守が原則である。
女性の記憶力を舐めてはいけない。
イベントごとにヘタに遅れると、事あるごとに蒸し返されたりするのだ。
……プロポーズ前の男のようなセリフだが、凛は一番仲のいい従姉妹。
今後もしょっちゅう顔を合わせるので、ちゃんとしとかねばなるまい!
俺は私鉄駅前の交差点を小走りで渡ると、JR中央駅へ急いだ。
……ん? なんか騒がしいな? イベントでもやっているのだろうか……まあいい、いまは急ぐことだ。
俺は最後の信号を渡り、中央駅北口に到着する。
さて、凛のヤツは……おお、居た居た。
フラワーロードに面したパン屋のショーウィンドウに背中を預け、制服姿の凛が立っている。
「おつかれ、凛。 少し待ったか?」
「あ、ユウにぃ! ううん、いま来たトコ」
俺が声をかけると、パッと笑顔になる凛。
おお……今日の凛は、制服の上にプラチナグレーの少し大人っぽいコートを着ている。
薄くナチュラルメイクされた頬は寒さのためか、少し赤い。
髪にはハート形の髪留めを刺し、普段より少し髪型に気合が入っている。
足元も普段のスニーカーではなく、タイツと黒のローファーだ。
巻いているマフラーは、おお! 高校進学祝いに俺がプレゼントした奴じゃないか。
こういう所でしっかり気配りできるのが、凛のいい所だ。
「ふむふむ……今日の凛は気合入ってんな……すごくかわいいじゃん!」
「へへ……ありがとユウにぃ! そしてハッピーバレンタイン!」
思わず俺が褒めると、凛は満面の笑みを浮かべながら、スクールバッグから紙袋を取り出し俺に手渡してくれた。
「サンキュー、凛! ん、結構重いな……チョコケーキか?」
「へへ、チョコブラウニー! 手作りだかんね! ね~、あとで家に帰ったら、一緒に食べよ! ちゃんとできてるか心配だし!」
「……味見してないのかよ。 まあいいや、まずは晩飯食おうぜ」
「うん!」
俺は凛と連れ立って駅北口にある繁華街方面に向かう。
ふふっ……バレンタインデーに制服JKと一緒に歩くとか、間違いなくリア充だな!
*** ***
俺たちは繁華街の一角、1階と2階に銀行が入居しているビルの3階に向かった。
ここには、美味しくてそこそこリーズナブルなスペイン料理の店があるのだ。
俺もたまに飲み会で使う。
ひとり1,500円ほど出せばお腹一杯食えるし、高校生相手ならこれくらいの店がちょうどいいだろう。
「おお、結構おしゃれ~! パエリアあるかな?」
凛はイタリア人のクォーターなのに、パエリアが好物だ。
いわく、本格ピッツァは食べ飽きたらしい……まあ凛の家、ガチの石窯があるもんな……叔父さんのピザ焼きの腕はプロ級だ。
俺たちはウェイターさんに窓側の席に案内してもらい、席に着く。
「にひひ~、ユウにぃ……最近デートでこういう店来た? アタシが今年初とか言わないよね~?」
「……ほっとけ」
「期待通りの回答ありがとう! いいじゃん、今年初がこんな美少女なんだから!」
「自分で言うか、それ……」
むしろ、令和初だったのだが、それを言うとみじめになるので言わない。
俺たちは、[探検者になろう]のことなどを楽しく話しながら、美味しい食事を楽しむのだった。
*** ***
「むっふ~、パエリアだけでなく最後のジェラート……すごく美味しかった。 アタシは満足じゃ~」
満足してくれたのか、凛がお腹をさすっている。
さて、そろそろ帰るか……俺が会計のために店員さんを呼ぼうとした時……
ファンファンファン!
けたたましいサイレンが鳴り響く。どうやら、表に数台のパトカーが来たようだ。
「強盗犯に次ぐ。 このビルは完全に包囲されているぞ! 悪いことは言わない。 まずは人質を解放しなさい!」
「「銀行強盗!?」」
思わず窓から表をのぞき込む俺たち。
確かにパトカーが道路を封鎖し、その周りに大勢の野次馬の姿が見える。
むむ、結構大ごとじゃないか……まいったな、ビルごと封鎖されてるみたいだ……会計を済ませたら”瞬間移動”で家に帰ろうか……。
俺が思わず一番現実的な”バグスキル”の使い道を考えていると、SNSで情報を調べていた凛が声をあげる。
「ユウにぃ、やっぱり銀行強盗だって! めっちゃ投稿されてる!」
「うわ、女の子が人質にされているみたい……かわいそう」
凛の指がスライドし、投稿を送っていく……と、その指がぴたりと止まる。
「え……人質の女の子って……シオリじゃん!!」
悲鳴に近い、凛の叫び声。
事件が始まろうとしていた。




