第一七話 「孤児院での暮らし」03
現在施設の子供は、ゼロ歳から五歳までが十人。
六歳~九歳は六人。
その上は十二歳のマヤであり、最年長はシュンの十三歳となる総勢十八名だ。
院長先生のマーロアは四十二歳となる。
幼少の子供が多く、歳が上がるにつれて数が少なくなるのは、養子などとして語弊はあるが、もらわれていくからだ。
マヤにも幼い頃から色々と――、今も話はあるが、自分は将来ここで働くとガンとして断っていた。
孤児院の痩せた畑に小さな野菜が実る。
時間を見つけては森から腐葉土などを運んですき込んでいたが、人手が足りないのでこれ以上の収穫は、今は望めない。シュンの実家の畑は順調だった。
豊作の時には村の農家から野菜の差し入れなどがあり、収穫の時期には皆で農作業を手伝い、僅かの駄賃と傷物の野菜をもらったりもする。
シュンとマヤは行政の支援で学校に通っていたが、年少組には行くお金などはなかった。
勉強は院長先生と手伝いの大人、年長者が先生となった。
シュンは時に村の鹿猟に参加して、骨や肉を分けてもらったりもする。
こんな時だけは、肉がたっぷりと入ったシチューを食べることが出来た。
シュンもマヤも、毎日が目の回るような忙しさだったが、院長先生のマーロアはそれ以上に忙しく働いていた。
◆
シュンはジョルジュに、冒険者としての訓練を頼み込んでいた。
少し渋い顔をして考えたが、結局は快諾してくれる。
村には家族もいて畑もある。
今はカンパーニのギルドと村を行き来しつつクエストをこなしていた。
ジョルジュは村に滞在する時に、時間を見つけてはシュンを鍛えた。
「うん、いいぞ!」
【拘束】で動きを止めた小型のベヒモスが、シュンの放った【切断】で切り裂かれて倒れる。
シュンはジョルジュが街で調達してくれた、中古で子供用の剣を鞘に戻した。
そして形見のナイフを取り出して、ベヒモスからレアクリスタルを回収する。
小さなそれは握るとシュンの中に取り込まれて消えた。
「ふう……」
「手に入れたか? シュンのコンテナは底なしだな」
「はい」
「これからもっと大きくなるぞ! 父親のようにな」
褒められたと思いシュンははにかんだ。
それに父のように、などと言われると嬉しい。
しかしここの森で小物を狩っていても、たいした力は手に入らない。
マーケットで買うなど金のないシュンには不可能だった。
「さて、帰るか。もう日が暮れる」
「はい」
森からの帰り道、シュンは夕食の手伝いを休んでしまったと、忙しい施設を思い出す。
戦いを覚えたい! そう言ったシュンを見たマーロアは真剣な顔で頷く。
そして笑顔になった。
「院長先生ってどんな人なんですか?」
「ん? そうか、マーロアがこの村に来たのはお前が産まれる少し前だな。あの人は教会の人間だ。昔から首都の教会で奉仕活動をしていたらしい」
「首都、教会……」
今のシュンには少し難しい問題である。どちらも馴染みがない。
「シスターの道へは進まず、経営や事務の仕事をしていて、カンパーニの教会へやって来たんだ。それがこの村に来た切っ掛けだ……」
シュンの家族は教会に行く習慣がなかったので、シュンも当然行ったことはない。
今の施設には、教会を思わせる物などはなにもなかった。
「そうだな……立派な人だよ。教会に残っていれば出世しただろうなあ。それを全てなげうって、あの施設をやっているんだ。立派だよ」
◆
夕食が終わってマーロア、シュンとマヤは台所で洗い物をする。
「先生は首都にいたの?」
「ええ、昔ね」
マーロアは皿を洗いながら答えた。
「どんな所なの?」
「あら、あんな所に興味があるの? 大きな建物がたくさんあって、人が大勢いる場所よ。私はあまり好きになれなかったなー」
だからこの村に来たのだと、シュンはなんとなく思った。
「この村とカンパーニの街が一番よ! そうでしょ? シュン」
「まあね」
マヤはここでの暮らしを一番に、大切に思っていた。
シュンとて首都に興味がある訳ではない。
ジョルジュが立派と言う人が、こんな田舎の村にいるのはやはり不思議だ。
シュンはちょっと思い切った。
「先生はなんで結婚しないの」
「あら、私はこの孤児院と結婚したのよ」
「子供は欲しくないの?」
「シュン! ヘンなこと、聞かないの!」
シュンはマヤに怒られてしまう。
さすがにヘンなことを聞いたとシュンは反省した。
「ごめんなさい……」
「いいのよ。あなたたちが私の子供なの。皆、大好きよ!」
マーロアはそう闊達に言い、二人を向いてから笑顔を見せた。
「二人が手伝ってくれて助かってるわ。ありがとう」
「いえ……」
「そんな……」
シュンとマヤは小さく返事をする。
引き取ってもらい、助かっているのはこの二人の方なのだ。