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第七話 「戦いが終わって」03

 二人はアルバー行き付けの店で飲んでいた。

 テーブル席では様々な市民が料理を楽しみ、冒険者らしき姿はない。


 なんと言っても二人は目立つ。

 回りが他チームの同業者ばかりでは、おおっぴらに仕事の話も出来ないのでこの店を選んだのだ。


「なんだか普段着だと落ち着かないわ」

「はは、この店は戦闘服の方が目立つよ」


 当の本人たちは冒険者なのだが、二人はいつもの戦闘服を脱ぎ捨て平民のような装いだった。

 これはアルバーの提案でカノーアもそれを了解したからだ。


 商家出身のアルバーとしては、冒険者となった今となっても、このような姿を否定するものではない。


 冒険者としての姿を誇示する為に、あえてその姿を押し通す者もいるが、そうでない者もいるだけの話だ。


 アルバーはサラダと共に生ハムを一枚、フォークで刺して口に放り込む。


「ウチの隊長は肯定的よ。ランツィアも他に事業をすれば良いって」


 カウンターに座る二人を、冒険者のトップランカーだと気が付く客はいなかった。


「うん……」


 そう返事をしながら口中の旨味を咀嚼する。


「今頃シュンに話しているかもね」

「シュンは理想的なリーダーだよ。奢らず偉ぶらず、面倒見も良い。変化にも柔軟に対応する。何よりもメンバーの命を一番に考えてくれる。今回の件も肯定的に考えてくれるはずだ。僕の憧れだよ」

「あら、私たちの隊長もそうよ」

「うん。そうだね」


 レイキュア隊長を思い出しつつアルバーは笑顔になる。


 いつもはビールの二人も今日は気分を変えてワイングラスを傾けていた。


「こんな世の中でも、やっぱりワインを作っている人はいるのよね」


「ワインを作っている人たちの情熱は凄いよ。昔の記録を調べて、古いうち捨てられた葡萄畑を探し出して再生させるんだ」

「あら、詳しいのね」

「このラベルはウチの実家で扱っているワインなんだ」

「まあ!」


 カノーアは冒険者の時と今の自分では、言葉使いを自然と使い分けているようだ。


 アルバーは自信の経歴をカノーアには話していた。

 これからこの街で一緒に仕事をするならば必用と考えたのだ。


 ひとしきりワイン製造に関するうんちくを話す。


 古い葡萄畑を発見した場合は私兵の戦闘種を派遣して、状況を調査する。


 そして経済的に黒字に出来ると判断した場合は、戦力を投入してでもベヒモスを排除して葡萄の生産を再開するのだ。


「凄いのねえ。商売の世界って……」

「冒険者のクエストをもっと大きくしたって感じかなあ? もっと露骨に金がからむから、僕は結局馴染めなかったよ……」

「だから家を飛び出したの?」

「まあね……」


 もし【雷撃】のコンテナ持ちの存在が知られたら。

 父が、今や商家とは呼べない巨大企業体が知ったらどうするだろうか? 


 例えどのような無理をしても金をそろえてレアクリスタルを手に入れる。

 そしてどんな手を使ってもコンテナ(・・・・)も手に入れようとするばずだ。


 価値のある地域にも係わらず、ベヒモスの為に有効活用できないでいる土地はいくらでもある。


 その脅威を【雷撃】のスキルは簡単に吹き飛ばしてしまうはずだ。

 昔、父親がそう呟いていたのを、アルバーは思い出す。


 その力はこの国の経済バランスを崩しかねないほどの力を持っていた。


「商売って面白いわ。スカーレッドとランツィアの仕事も絶対に成功させましょうよ!」

「うん」


 屈託なく言って笑う青い髪の少女に、アルバーは普通の返事を返した。


 この【雷撃】は本来あるべき場所に収まらねばならない。

 冒険者たちが、単なる力としてしか認識していないのは仕方がない。

 ここはそのような街だからだ。


 しかしそれは巨大な経済力、権力、信仰にすら近い力であった。

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