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第七話 「戦いが終わって」02

「カノーアがお風呂に行くって言ってたわ。私も行きたかったな」


 この街には何カ所か共同浴場のサウナがあり、市民や冒険者たちに親しまれている。


「アルバーがカノーアと飲むって言ってたな」

「あら、お風呂デートか。良いわねえ……」


 エネルギーの使用制限の為、個人の家や建物では風呂など簡単には作れない。

 サウナは地下にボイラーを設置し、電磁波の漏洩などには気を使っていた。


 庶民から金持ちまで、施設のグレードはピンからキリまである。


「二人で個室でも借りるのかしら?」

「まさかあ、あいつらじゃあ今頃、風呂は別々に済ませて、酒場で熱心に仕事の話をしているよ」

「そうね」


 二人で笑っているとお馴染みのバーに着いた。いつものようにカウンターの奥に座る。


「腹が減ったよ、食おうか」


 今日のお勧めを聞き、骨付きの鶏肉を二本焼いてもらい、サラダとトマトソースのパスタを注文する。

 乾杯をして忘れる前にと、シュンは本題の話を切り出した。


「次の編成はアルバーとカノーアを外して、ブレイソンとロッド、グンソン。そっちからはヒュミユとクーリアを加えたい」


 レイキュアは指を数えながら人数を数える。


「合計七名か、いいわよ。ヒュミユの【探査】は私よりも上だしね」


 シュンとレイキュアも【探査】を持ってはいるがたいした力ではなかった。


「それから合同クエストの件だけど、これからは互いに前向きに考えようか。一緒に森に入るのも定期的にやろう」

「どういう風の吹き回し?」

「エージェントからのアドバイスだよ……」

「それは、それは……」


 レイキュアは勝ち誇ったように胸を反らす。


 あの時、カノーアから相談を受けたアルバーは、シュンにどう話せばいいか考えていたに違いなかった。

 アルバーの悪い癖はシュンに対して気を使いすぎる事だ。


「改めて頼むよっ!」


 シュンはわざとらしく頭を下げて見せた。


「うふふっ、まあ、そこまでしてもらって断るのは悪いかなあ~~」


 レイキュアもわざとらしく、もったいをつけている。


「まあ、いいでしょう」


 ここまで言われてしまうのも仕方ない。

 もちろん冗談だとシュンには分かっている。


 焼きあがった肉が出されて二人はかぶりつく。

 シュンはスカーレッドの事務所に掛かっていた絵の事を思い出した。


「あの絵の話は……」

「ああ、スポンサーからの依頼でモデルになったのよ」

「何に使うんだ?」

「知人にあげたり、応接室に飾ったりして、スカーレッドのスポンサーになっていることをアピールするみたいね」

「ふ~~ん……」


 シュンには今一つ必要性とか意味が分からない。


「戦いの女神をイメージしているの。評判が良いので次はカノーアにもって話がきたわ」

「女神ねえ……」


 レイキュアのあの姿が何をイメージしているかシュンには見当が付いた。

 Sクラスのベヒモス、ヴァルキューレの姿だ。

 背中には白い鳥の翼がたたまれ、白いマントと髪が風になびく。


 あのスカーレッドの衣装も、人間の魂がベヒモスを取り込み部分的に動物化した、女性の姿を現しているのだろう。


 大昔、その姿を目撃した冒険者の話から、ヴァルキューレはそのような姿をしていると伝えられていた。


「ヴァルキューレよ」

「だな……」


 二人は肉を平らげてビールのお替わりを注文する。


 ランツィアの場合は名前のロゴが商品や衣類に使われていると、エージェントのジュリーザが話していたが、シュンはまだその実物を見たことがなかったので実感はない。


「ヌードを描きたいってリクエストもあるのよ……」

「えっ!」

「それで決心したの。私、描いてもらおうと思って……」

「ばっ! ――いや、そんなこと止めとけって!」


 シュンは思わずバカと言ってしまいそうになる。


「あら、バカじゃないわ。私の勝手じゃない!」

「しかし……」

「嘘よ、嘘。驚いた?」


 レイキュアはシュンの反応を楽しむように笑う。


「脅かすなよ……」

「ごめんなさい。でも、話が来たのは事実よ。断ったわ」

「そう……」

「そんなの請けないわよ。依頼が来た話題性だけでもウチの名前が広まれば、こっちの利益にもなるしね」


 スポンサーとのやり取り、というか駆け引きは色々と大変なようだ。


「ランツィアも何か他の仕事も始めたらどうかしら? いえ、やるべきよ」

「仕事ねえ……」


 スカーレッドは食堂兼酒場を経営している。

 事務所の建物も自分たちで買い取った。

 冒険者として大成できなかった仲間の働き口も用意している。


「実は不動産物件もいくつか持っているのよ」

「本当か?」

「ええ、内緒よ。話が広まれば良く思わない人たちもいるしね」


 実際そうだった。派手で稼いでいるスカーレッドを、女を売っているチームだのと、故意に噂を広めている輩もいる。


「倉庫なんかもあるわ」


 レイキュアの話によれば素材原料として回収されたベヒモスから、革以外など使用されない部位、具体的には頭部や爪が目立つ腕を剥製にして、角、牙なども業者経由で集めて商品化し、貴族などに売っているそうだ。


「それを一時保管する倉庫なんだけどね。関連業者も使えるようにしているの」

「それは凄いなあ……」

「貴族が自分で狩った鹿の頭や小動物を剥製にして、飾っているじゃない? あれと同じ感覚で買ってくれるのよ」

「なるほどねえ……」


 確かに買い手はいるだろし、シュンとしては感心するしかない。

 同時に、とても真似はできないと思った。


「最初にやるなら不動産を手に入れて貸しに出すのよ。人手はいらないしお金さえあればできるわ」


 スカーレッドは引退した先代隊長以下、元隊員たちが他の街や色々な世界で彼女たちをバックアップしている。

 更に先々代の隊員たちも活動していて、彼女たちのビジネスにもなっているようだ。


「もちろん優良物件だけよ」


 レイキュアは三代目の隊長で、シュンは初代だった。

 一代、たった三年でランツィアをここまでにしたのだ。


 シュンにはずっと先の事など想像もつかない。

 考えるのはいつも明日の事ばかりだった。

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