第三話 「戦闘種族たち」02
仕事を終えた隊員たちを見送ってから、シュンは食事をしようと事務所を出た。
街を歩いていると、知っている二人の子供の後ろ姿を見て取る。
「リスティ! 仕事の帰りか? それとジェリルも」
「シュン! 御無沙汰してます。あっ、最強! おめでとうございます」
二人は頭を下げる。まだ子供の駆け出し冒険者たちだ。
シュンもこの年頃には田舎の街で剣を持ち、森に入って弱いベヒモスを狩っていた。
「ああ、稼げてるか?」
「今日はダメでした……」
彼らは二人の女の子と四人でチームを組んでいる。
現実的にはその女子たちにベヒモスを狩るなどまだ無理な相談で、男子二人が近場の森で弱いベヒモスを相手にしていた。
「まあ、そんな日もあるか……。そうだメシでも食いに行くか? 皆も呼んで」
「でも……」
「ああ、もう俺のチームに来い、なんて言わないからさ」
「「ありがとうございます」」
リスティとジェリルは頭を下げた。
シュンは御馳走すると言い、リスティたちの住んでいる東門の近くの店にしようと提案した。
女の子のキャニアとスレーラは東門近くの酒場や宿屋で働いている。
彼ら四人は首都の孤児院での幼馴染だった。
シュンは以前、彼らをチームに誘い、二人の女の子たちもスカーレッドで働けると言ったが、断られていた。
四人で頑張ってやって行くとの誓いがあるらしい。
シュンはそんな考えを尊重して無理強いはしなかった。
これくらいの子供ができるクエストは薬草やお茶の採取ぐらいだ。
比較的安全な森の中を一日歩いて低レベルのベヒモスを探しつつ、薬草などを集めるのだ。
「ここでいいですか?」
リスティは大衆飯屋ふうの店を指した。
「キャニアとスレーラが時々手伝いをさせて貰っているんです」
「もちろんだとも」
「じゃあ二人を呼んで来るよ」
ジェリルはそう言って駆けて行く。
「近くに僕らの部屋があるんです。入ってましょう」
「おおっ」
まだ店は閑散としていた。
仕事を終えた人たちが来店するのはもう少し後だ。
ジェリルキがキャニアとスレーラを伴ってやった来た。
「シュンさん、最強、おめでとうございます」
「凄いです。知っている人が最強だなんて」
「まあ、運もあったなあ……」
子供たちの純粋な瞳に見つめられ、そう言われるとシュンも照れてしまう。
「さあ、何でも食ってくれ。ここのお勧めは何かな?」
「何でも美味しいですよ」
「そうか」
シュンは壁に掛かっているメニューの表から適当に料理を何品か注文した。
「皆で取り分けて食べよう」
続いて自分用のビールと水差しとコップを店員の女性に頼んだ。
「リスティ、ジェリル、今日もダメだったのね~~」
「獲物を仕留める日もあるよ」
キャニアの言葉にリスティが反論気味に言う。
毎日が戦果なしは、さすがにないのであろう。
シュンもこの頃はいつも腹を空かせ、山に入り山菜や木の実を採って飢えを凌いでいた。
山で小動物や小鳥を仕留めて、獣を狩り、小さな弱いベヒモスを倒すようになった。
この子供たちは、今までいた街ではスラムの孤児院に住み、ゴミを漁って寄り添いながら生きてきたそうだ。
生きる為に、未来を切り開く為にこの街へやって来た。
シュンも田舎の街にいる、マヤたちが育てている孤児の子供たちの未来の為に、この街にやって来た。
料理が運ばれ皆で取り分けながら食べる。
ベーコンの入ったパスタに生ハムの乗った新鮮な野菜、フカフカの白パン。
アクアコッタと呼ばれる野菜や豆、肉の欠片など残り物を使ったスープは、それぞれの店の味がある。
昔レイキュアがよく作って食べさせてくれたスカーレッド特製スープより旨い。
バターを使い焼いて溶き卵を絡ませた、大ぶりのチキンピカタが二枚乗った皿が運ばれ、キャニアとスレーラが嬉々としてナイフとフォークを使い取り分ける。
リスティとジェリルが自分の更に盛られたそれにかぶりついた。
シュンはそんな子供たちを、自分が彼らくらいの時もそうだったと目を細めて眺める。
デザートはシュンには分からないので女の子たちに任せた。
パネットーネと呼ばれる菓子は、刻んだドライフルーツが入った甘く柔らかなスポンジに、甘い生クリームがかかっている。
お茶も五人分頼んでシュンもビールから切り替えた。
「へ~、ここは、値段は安いし量も多いし美味しいよ」
シュンがいつも利用している店は街の中心部なので、値段が高いのは仕方なかった。
厨房からこの店の主人とおぼしき年配の男が、包みを持ってやって来た。
「リスティ、いいスポンサーを見つけたようだな」
主人はそう言って、シュンを見てウィンクする。
「ええ、俺は冒険者としての彼らの将来を買っているんですよ」
「そうかい、よろしくな。リスティ、これ残り物で悪いが持ってけ」
主人は包みをテーブルの上に置いた。
リスティは中身を覗く。
「パンですね。いつもすいません」
「いや、もう店には出せない品だ。気にするな」
リスティたちの周りは、良い人ばかりのようなのでシュンはホッとした。