閑話・ユストゥスの魔石
にまにまにま。
手に持ったペンダントを見つめては、にへらぁっと隠しきれない笑みを浮かべるぽんこつ貴族がここにいた。
「…………あの、ヒューイさん……?」
にまにまにま。
ヒューイはペンダントを見つめるのに夢中で、ローレンツの呼びかけにも気づかない。……ので、彼は少々策を巡らせることにした。
「ヒューイさーん、アステルちゃんの出来立てお菓子持ってきたっすよー」
「——おやつ!!」
即座に振り向いたヒューイ。食べ物の力は偉大だなぁと、思わず遠い目をしてしまうローレンツ。
「ロー君、おやつー」
「すんません。ウソっす」
「おやつ、ない……?」
しょんぼりするヒューイに、慌てて懐を探るローレンツ。幸い一つだけキャンディの包みがあったので、ヒューイの口へキャンディをぽいっと放り込んだ。口をモゴモゴさせると、彼はみるみるうちに沈んだ表情から笑顔へと戻っていった。
「ところでさっきから見てるソレ、どうしたんすか?」
ああ、これ? と、ヒューイは手の中でそれを遊ばせる。涙滴型をした青い宝石をトップにあしらったペンダントだ。
「今日、実家から届きました。おとーさんたちからのプレゼントです!」
「ああ、親バカが発動したんすね……まーた無駄に出費したんすか」
「ところがどっこい。驚きのハンドメイドなんだよー」
「ハンドメイドじゃないものがこの世に?」
魔術産とか? ローレンツは頭をひねる。そんな彼の様子にキョトンとするヒューイ。
「……あー、そか。マジカル世界舐めてたわー。ソウダヨネ」
機械生産とは無縁のこの世界では、基本的にすべてのものがハンドメイドだと思い至った。僕もまだまだだねぇと頭を振る中の人。
「なんか、そこはかとなく馬鹿にされてる気がするのは気のせいっすかねぇ?」
「他意はないのです。文化の違いを感じたってだけでー」
「中の人、むかつくなあ!」
毛色の違う発言は全部中の人と認定されるようになった昨今。あながち間違ってはいないのが痛い所だ。
「……どうしてこうなった……!」
「ちょこちょこ上から目線が過ぎるんすよ、中の人」
「文明レベルの違いは致し方ないと思うの」
「あのですねぇ! ……つか、生暖かい目で見守られる方の身になったら、俺っち達の気持ちも多少はわかるんじゃないっすか?」
「むり」
「即答!?」
「生暖かい視線は、きょーかんからいつもプレゼントされてるけどわかんない」
既に経験済みだった。
「——で、ハンドメイドっていうのはどういう事っすか?」
わざわざ口にするくらいだから、普通に職人へ依頼して作った物とは趣きが違うようである。再び、いや三度、にまにまとし始めるヒューイ。
「うん。それがね、なんでもユストゥスの家に伝わる魔石の一部を砕いて——」
「ちょぉぉぉい!! 家に伝わる魔石って、普通に家宝っすよね!?」
それを一部とはいえ砕いたとは!? ユストゥス伯の思い切りの良さに仰天する。わかっちゃいたが真性だ、あの家の面々!!
色々通り越して呆れるしかないローレンツだったが、当の庇護対象は何もわかってはいなかった。
「言われてみればそうかも?」
「ヒューイさんは食べ物以外にも目を向けるべきだと思うっすよ……」
「まあいいや。それでね、砕いた魔石をとーさんが研磨して、かーさんがペンダントにしてくれたんだよ!」
「ユストゥス夫妻お手製っすか……それはまたレアな。……でも、なんで『今』なんすか」
ローレンツの疑問に「ほら、この間の運動会でお披露目したじゃん?」と前置きして。
「それで僕が魔術使えるようになったのが判ったから、お守りにしなさいってことらしいよ」
「参考までに効果とかは——」
「魔力集積増幅効果による発動時間短縮だってさー」
「——なんてもの作り出してんのあの親バカ夫婦!?」
ローレンツ心の叫びが辺りにこだましたのだった。




