その35
「勝者、十兵衛!! 最後も見事な番狂わせ! 前回大会で圧倒的な優勝を飾ったアルフット・プレジールを見事撃破! 新たな王者の誕生だー!」
盛大なアナウンスと共に会場を揺るがすほどの歓声が響いている、そんな事より早くダンジョンの入場許可証が欲しいところなのだが。
「師匠、優勝おめでとうございます!」
武闘大会が終わりアシュリーと合流すると開口一番そう声を掛けられた。
「ありがとうアシュリーよ、これで無事ダンジョンに入れるぞ」
ワシとしては優勝どうこうよりも副賞のダンジョンの入場許可証の方が大事なのだ。ぶっちゃけこの副賞が準優勝の物なら試合開始と同時に降参していたぐらいだ。
「それにしても師匠、最後のあの攻め方は……」
「あれはアシュリーとの手合わせで覚えたやつを真似させてもらったんじゃ、勝手に使ってしまってすまなかったの」
そう、相手はそれなりには強そうではあったがアシュリーほどではなさそうだったのでアシュリーのそれを使わせてもらったのだ。案の定、しっかり通用した。やはりあの大剣使いよりもアシュリーの方が強い事が証明されたという事だ。
「とんでもないです、同じ攻めでも師匠がされるとまるで別物でした」
相変わらずアシュリーは謙遜が過ぎるというものだ。
「何を言っておる、いつもの手合わせと同じようにアシュリーの動きを再現しただけじゃ。つまりアシュリーが出場したとしても優勝していたという事じゃよ」
「そんな……いえ、ありがとうございます師匠」
アシュリーにはもっと自信を持ってもらいたいとは思うのだがワシ相手ではなかなかそうもいかないようだ。
「もっと自信を持っていいのだぞ、アシュリーは十分強い」
「ありがとうございます、もっと精進します!」
う、うん。まあ自惚れるよりは良しとしておこう。
武闘大会会場を後にし、アシュリーと共に街にでて食事をとることにしたのだが……
「おお、爺さん武闘大会すごかったな。楽しませてもらったぜ」
「あの魔法を斬るやつどうやるんだよ?」
「飛ぶ斬撃見せてくれよ」
街を歩くとやたらと声を掛けられる、武闘大会の影響はすさまじいようだ。
「ようやく皆師匠のすごさを分かったようですね」
アシュリーが満足そうに耳打ちしてくる。別にワシは有名になりたいわけではないのだが……
あまりにも声を掛けられすぎるので目についた店に逃げる様に入ることにした。
「とりあえずは優勝の祝いといこうかの」
夕食にはまだ早い時間ではあったが武闘大会では昼食が取れなかったので腹ペコである。給仕に渡されたメニューを早速開くとあるメニューが目に留まる。
“ドラゴンステーキ”
な、なんだと! マンガ肉をも凌駕する勢いのメニュー名に気持ちが高まる。
「アシュリーよ、ドラゴンの肉があるぞ!」
ワシの興奮した声にアシュリーが答える。
「ああ、それはレッサードラゴンの事ですね。ドラゴンと名はついていますが少し大きなトカゲの事です。ただ味は結構いいです」
小さなドラゴンで大きなトカゲ……残念ではあるが味が良いならこれにしておくか。
アシュリーと共に食事と酒の注文を済ますと隣のテーブルにいた男から控えめなトーンで声を掛けられた。
「あんた武闘大会に出てた十兵衛だろ? あんたに賭けて正解だったぜ、たんまり稼がせてもらったよ」
男はこちらに向けて親指を立てて見せ、おまけにウィンクまで送ってきた。どうやら武闘大会では賭博も行われていたようだ。
「いつの間にかワシは賭けの対象になっていたみたいじゃの」
嬉しそうにこちらに酒を掲げて見せる男に視線を向けたままアシュリーに話しかける。
「そうですね、武闘大会の会場に窓口がありました。もちろん私も師匠に賭けましたよ、全財産」
まるで勝ち負け以前にそうすることが当然というような笑顔のアシュリー。
いやアシュリーよ、そんなにこやかに言う事じゃないぞ! 試合が始まる前に聞かされていたら余計なプレッシャーがかかるところだった。
そうこうしているうちに酒と料理が運ばれてくる。
しかし楽しみにしていたドランステーキではあったが一体アシュリーの全財産はいくらになったのかが気になり味を楽しむどころではなかった。何せワシ散々アナウンスでダークホースだと言われていたのだから。




