その25
隣でアシュリーがスキップでもしそうな勢いでニコニコしている。
「師匠、あれがこの街で一番の観光名所です」
ワシは只今、オスローの街を絶賛観光中である。もちろん観光ガイドはアシュリー。
「あっちの大きな建物はなんじゃ?」
「あれは教会ですね。ここ、レンメル王国の国教でダード教の建物です」
ここはレンメル王国という国なのか。ワシの記憶喪失設定をしっかりサポートしてくれるアシュリー、ほんとに助かる。
アシュリーの案内でオスローの街を堪能した後、この街の冒険者ギルドに立ち寄ることにした。さてオスローの依頼はどんなのがあるのか楽しみだ。
「アシュリーよ、オスローの依頼はいつもこんな感じなのか?」
冒険者ギルドの依頼書が張り出されている掲示板を見ながらアシュリーに訊ねる。
「そうですね、オスローは騎士隊が常駐していますしそもそも魔物の生息地からは離れた場所にあるので魔物の討伐よりも護衛の依頼の方が多いですね」
アシュリーの言葉通り掲示板に張り出されているのはそのほとんどが他の街へ向かう商人などの護衛の依頼だった。
「街が平和なのは良い事じゃが冒険者にはちと物足りんの」
「師匠のおっしゃる通り街は大きいですが冒険者の数はそれほど多くありませんね。冒険者の多くは魔物の多く生息する辺境の街かダンジョン近くに行きますから」
やはり冒険というならば未開の地という事か、だったらまずはダンジョンのあるアシリアに向かうのが良いだろう。
「依頼の報告というのはその街の冒険者ギルドでないとだめなのかの?」
「いえ、依頼の達成条件を満たしていれば他の街のギルドでも大丈夫です」
オスローの街での観光も済ませた事だし冒険者としてこの世界を楽しむことにしよう。そう決めるとアシュリーに告げた。
「よし、では今日はオスローに泊まって明日にはアシリアに向かうとするかの」
「はい師匠、アシリアのダンジョンを一気に踏破してしまいましょう!」
いやアシュリー、一気に踏破なんてしたら楽しみがすぐに終わってしまうじゃないか。そもそもアシリアのダンジョンって一気に踏破できるものなの?
その日冒険者ギルドでアシリアに向かう道すがら達成できそうな依頼をいくつか受けた後、宿を取りオスローでの一日を終えた。
明けて翌日。オスローで冒険への支度を整え準備万端でアシリアに向かって出発した。
アシリアへは向かう途中で冒険者ギルドから受けた依頼をこなすため徒歩での移動にした。
「アシリアまではどのぐらいかの?」
「そうですね、依頼をこなしながらですので三日といったところでしょうか」
すっかりこの世界でのガイドとして定着してしまったアシュリーが答える。いい子に育てたウォルターに感謝せねば。
「急ぐ旅でもなし、楽しんで行くとするかの」
「はい、師匠と一緒ならどこへ行っても楽しいです」
一人だけ楽しむのは気が引けるがアシュリーも楽しそうで何よりだ。
オスローの近辺は魔物がほとんど出ない。なのでのんびりとした雰囲気で街道を進んで行く。さながら散歩するジジイとその付き添いの娘という感じだ。実際傍から見ればその通りなのだろう。
「ところでアシュリーは魔法は使えんのか?」
お散歩気分で街道を歩きながら以前にケインパーティーのダートが使った魔法を思い出し訊ねる。
「私は魔法は使えませんね。師匠に教えてもらったこの剣があれば十分なので」
アシュリーも魔法は使えないのか。
「ワシも魔法を使ってみたかったの」
「師匠が魔法ですか? その剣技に魔法まで使えるとなると誰も勝てないでしょうね。ただ師匠が魔法を使ているところは私も見た事がありません」
やはりワシは魔法が使えないようだな、魔法は諦めるか。そう考えているとアシュリーが重要なことを教えてくれた。
「そもそも師匠は魔法石をお持ちでないのでは?」
聞いたことのない言葉が出てきたぞ、なんだそれは!
「魔法石とは何じゃ?」
「ああ、師匠は記憶が無いのでしたねすみませんでした。魔法石とは魔法を行使するために必要な物で、人間が魔法を使うために魔物から採取した魔石から抽出した魔力を込めた道具です。人間には魔力というものがありませんから」
ワシの記憶喪失設定を全く疑っていないアシュリーに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。しかし魔法を使うには魔法石というものが必要なのか、魔法石があればもしかしてワシでも魔法が使えたりするのか?
「しかし、魔法も一流となるにはかなりの修練が必要と聞きます。師匠ならばそれも可能なのでしょうね」
アシュリーよ、いつもながら持ち上げすぎだ。魔法石の存在も知らなかったワシがそんな簡単に一流の魔法使いにはなれんだろう。
それにウォルターの意思も尊重するとなると剣一筋というのが筋だろう。魔法は諦めるとするか。
「以前から魔法を使わなかったというのならばワシには魔法の才能は無いのじゃろうよ。ワシもアシュリーと同じように剣一筋で行くとするかの」
その言葉を聞き嬉しそうに笑うアシュリーに付き添われワシはアシリアへと向け散歩を続けることした。




